幻の消える時 第六話
 全ては門番の一人が一歩踏み出したことに始まり、もう一人が一歩踏み出したことで終了した。

 先に手を出してきた門番の一人を刀の一振りで頼久が気絶させれば、驚いて続こうとしたもう一人を友雅が峰打ちで気絶させたのだ。

 全ては一瞬の出来事で、この二人の剣技には武士団の武士達も唖然としたほどだった。

 次に泰明が呪を唱え、印を結び、猛烈な気迫で結界を破ると一同はいっせいに屋敷の中へとなだれ込んだ。

 武士団の武士達はどこから敵の援軍が現れても対処できるように一瞬のうちに頼久を先頭に陣形を作り上げ、八葉の一同は頼久と友雅を先頭に屋敷の庭へと駆け込んだ。

 武士団の武士達の動きは見事でそれだけで頼久の日頃の訓練がいかに行き届いているかがわかるのだが、八葉の一同はそれどころではない。

 互いに互いの位置を把握しながら全員があかねの姿を目端で探しつつ敵を警戒していた。

「神子殿!」

 最初に大声をあげたのは頼久だ。

 これで姿が見えなければ屋敷の中へ乗り込んで探すしかない。

 そう考えて友雅や鷹通も声をあげようとしたその時…

「頼久さん?」

 御簾の向こうからずいぶんと長いこと聞いていなかった気がするあかねの愛らしい声が聞こえた。

 鈴を鳴らしたような美しいその声に、頼久が思わず我を忘れて走り出した。

 声のする方へ。

 ただ愛しい人の声のする方へ。

 頼久に続いて八葉一同も濡れ縁へ駆け上がる。

 その背後はしっかりと武士団の武士達が守りに入った。

 濡れ縁へ駆け上がった頼久が御簾を跳ね上げて中を覗けば、そこには貴族の子供らしい男の子と並んで座ってキョトンとしているあかねの姿があった。

「神子、殿……。」

「頼久さん!どうして…。」

 その場に凍りついたのは頼久だけではない。

 友雅も鷹通も永泉、泰明、イノリ、誰もが身動き一つできなくなってしまった。

 何故なら、ずいぶんと身なりのいい少年とあかねは几帳一つ隔てることなく、親しげな様子で隣り合わせて座っていたからだ。

 これはもう、あかねが自分の意思でここに留まっていたとしか思えない。

「神子殿…ご無事で…。」

「ご無事でって…はい?」

 キョトンとしているあかねの前に、頼久はがくりと膝をついた。

 あかねが無事だったという安堵感と、やはりあかねは自分の意思でここに留まっていたのだという絶望的な思いとがごちゃごちゃになって頼久の足から力が抜けたのだ。

 あかねが慌てて頼久の方へ身を寄せようとしたのを止めたのは隣に座っていた少年だった。

「あかね、奥へ入ろう。」

「ダメだよ、だって頼久さん、なんか様子がおかしいし。それに、みんなで押しかけてくるなんて何かあったんですか?」

 腕をつかむ少年は無視してあかねの視線は友雅へと向いた。

 どうにも頼久が冷静ではない様子なのでここは友雅に説明を求めようというわけだ。

 こういうところ、さすがは八葉をたばねていた神子殿と友雅はその口元に苦笑を浮かべた。

「何かあったんですか?と問いたいのは我々の方なのだけれどね。」

「はい?」

 友雅の言葉が全く理解できない様子のあかねの腕を少年がつんつんと引っ張っている。

 その様子を見て、八葉一同はキョトンとするばかりだ。

「神子殿は……。」

「頼久さん?」

「もう二度と、あの屋敷にはお戻りにならないのでしょうか?」

「へ?」

「この頼久、神子殿にそれほどまでに疎まれる失態を何か致しましたでしょうか?」

「……。」

 喉の奥から搾り出すような声で問う頼久。

 そしてそんな頼久を目の前にしてフリーズするあかね。

 友雅は深い溜め息をついて相棒と顔を見合わせると、鷹通と共に手に負えないと言いたげな苦笑を浮かべた。

「あかねは私の妻になるのだ。」

「はいぃ?」

 突然の少年の言葉に悲鳴をあげたのはあかねだ。

 そして八葉全員の視線が少年の方へ向いた。

 よくよく見ればまだ年端もゆかぬ少年だ。

 しかも、頼久にはその顔に見覚えがあった。

「お前はあの時の…。」

「武士風情がお前だと!無礼であろう!」

 頼久の声に顔を真っ赤にして少年が怒りをあらわにした。

 その様子はいかにも貴族らしい。

「頼久、彼と知り合いかい?」

「はぁ、先日神子殿と散歩のおりに少々…。」

 友雅が頼久と少年とを見比べて小首を傾げた。

 これはなんとも珍妙な風景だ。

 この京では比類なき剣技の持ち主である大の大人の頼久と、貴族とはいえまだ年端もいかない少年。

 そして二人の間には異世界から舞い降りた天女が一人。

 これはひょっとして三角関係というものだろうか?

 一人心の中で自問して友雅は首を傾げるばかりだ。

「あかねのように尊い女人を武士団などという粗雑なところに置いてはおけぬ。私の妻としてこの屋敷に住まわせることとする。よいな。」

「ちょっと待って!私そんなこと聞いてないよ!」

「私が今決めたのだ。」

 駄々っ子のようにそういう少年をきりりと睨むと、あかねは自分の腕をつかんでいる少年の腕を振り払い、颯爽と立ち上がった。

「あかね…。」

「青葉君がそんなこと言う子だとは思わなかったよ。」

 青葉君?

 あかねの口から飛び出した名前にその場にいた八葉達が思わず呆けた。

 女性ならばまだしもそんな名前の少年がこの世にいるだろうか?と思ってしまったのだ。

「君は偉い貴族様かもしれないけど、人の心は貴族にだって動かせないの!私が大好きなのは頼久さんだけ!他の誰のお嫁さんにもなりません!」

 大声でそう宣言してあかねはすっと頼久の隣に座る。

「神子殿…。」

 あかねは怒ったような顔で青葉と呼んだその少年を睨み付けていたのだが、そんなあかねの言葉に感極まったらしい頼久は隣に寄り添ってくれたあかねの体を思い切り抱きしめた。

「よ、頼久さん!人前です!」

「神子殿…。」

 小さなあかねが抵抗してみても頼久の腕はびくともしなくて、その耳元で囁くように呼ばれた名前が切なくて、あかねはすぐにおとなしく頼久の腕に抱かれた。

 どうやら頼久の中で何か大きく感情が動くようなことが起こっていたらしいことはあかねにもわかったから。

「ということだよ、青葉殿。我らが神子殿は一途なお方でね。夫をこれと決めたら浮気などもってのほかだ。あきらめなさい。」

「……知っている…だから……。」

 だからか。

 友雅、鷹通、永泉、泰明、イノリはいっせいに心の中で同じようにつぶやいていた。

 あかねほど一途で純粋でまっすぐな女性はこの京にはそういない。

 だからこそ、その美点に惹かれるのだ。

 だが、その美点があればこそあかねの心が頼久以外に向けられることは絶対にない。

 その想いの向けられる先が自分であったら。

 そう思ったのは友雅達八葉も同じことだ。

 だからこの少年の言いたいこともよくわかる。

「頼久さん?どうしてそんなに苦しそうなんですか?」

「神子殿……それはあまりにも……急に神子殿がお姿を消してしまわれ、なんの手がかりもなく…この頼久、とうとう見限ってしまわれたのかと…。」

「はい?私、ちゃんとお手紙出しましたよ?」

「は?」

「青葉君がどうしても一緒にいてほしいって言うからここに一日お泊りしますって、お手紙出しましたけど?」

「……頂いておりませんが…。」

「へ?」

 頼久が腕の力を緩めてくれたので、あかねはようやく頼久の胸から体を離すと辺りをゆっくり見回した。

 そこには苦笑している友雅と鷹通、どうやらほっと安堵しているらしい永泉、何がなんだかわからずに不愉快そうなイノリと、いつも無表情ながら現在はいたって不機嫌そうな泰明、それに呆然と立ち尽くしている武士団の武士達の姿があった。

 みんなとるものもとりあえず飛び出してきたことがわかるいでたちだ。

「お手紙、届いてなかったんだ、だからみんな心配して来てくれたんですね。」

「まぁ、どうやらそのようだね。」

 あかねの問いに答えたのは友雅だった。

 どうやらこれはただ連絡がいき違っただけらしいと一同がいっせいに深く息を吐く。

「青葉君、ちゃんと届けてくれたんだよね?お手紙。」

「……。」

「まさか…。」

 何も答えようとしない少年にあかねの顔がみるみるうちに不機嫌そうに歪んでいく。

「届けてくれなかったの?!」

「あの文が渡ればあかねがここにいるのがわかってしまうではないか!そうなれば、必ずその者はあかねを取り返しに来るであろう…。」

「なっ…。」

 泣きそう声で語る少年にあかねはあきれたような声をあげた。

 まさかそんなことまで考えて手紙が握りつぶされていたとは。

「あかねは私を見て、私を叱り、そして私を褒めてくれた。私の父や母とは関係なく、私と話をしてくれた…だから……もっとずっと共にいたいのだ。だが、その者が迎えにくればあかねは必ず帰ってしまう…。」

 小さな声でそう語る少年は、使っている言葉こそ大人びてはいるが目には涙を浮かべていて、年相応の幼い少年であることがうかがえた。

 あかねはただただ驚くばかりだが、友雅や鷹通は事情が飲み込めたらしく、その顔に苦笑を浮かべている。

 頼久はというととりあえずは自分があかねに捨てられたわけではないらしいと悟って落ち着きを取り戻し、あかねと少年をじっと見比べていた。

「青葉君にそういうふうに思ってもらえるのは嬉しいけど、でも、こういうのはよくないと思う。だって、これじゃ私の気持ちは無視でしょう?誰かを大切に思ったら、その人のことをよく考えてあげなくちゃ。自分の気持ちばかり押し通すのはよくないと思う。そんなことをしていたら青葉君はみんなから嫌われちゃうよ?」

「あかね…。」

「ごめんね。青葉君が私のことを慕ってくれるのは嬉しいんだけど、私は頼久さんと一緒にいたいの。」

「わかっておる…。」

「青葉君…。」

 こぼれそうになる涙を袖で拭う少年はなんだかとてもかわいそうで、あかねの目にも涙が浮かんだ。

 これはどうしたものかとこの場にいる全員が考え込み始めたその時、イノリが少年に近寄ると、その前にどかっと座り込んだ。

「イノリ君?」

「お前、ばっかじゃねーの。お前みたいな子供があかねを嫁さんになんかもらえるわけねーじゃん。でも、あかねは助けてほしいっていうヤツを見捨てたりはしねーんだぜ?だからお前も、助けてほしいときはあかねにそう言えばいいんだ。そうしたらあかねは絶対お前を助けてくれる。そうだろ?あかね。」

 胸を張ってイノリはあかねにウィンクして見せた。

 驚いていたあかねだったが、イノリが言いたいことにすぐに気付いてその顔に笑みを浮かべた。

「もちろん、青葉君が何か助けてほしいことがあったらいつでも相談にのるよ。」

 そう言って優しく微笑むあかねを見て友雅と鷹通は顔を見合わせて苦笑した。

 このまっすぐなあかねの優しさこそが誰をもひきつけ、そしてそれが自分のものにならないと気付いて誰もが悲しむのだと思い知っている二人だから。

 だが、まだ子供らしい少年はというとあかねとイノリを見比べて涙を拭うと一つうなずいた。

「わかった。あかねに嫌われたくはないからな。」

 なんとか少年が悲しみを隠した笑みを浮かべると、イノリはうんうんと満足そうにうなずいた。

 そして…

「あとは私に任せて、皆さんはもうお帰り下さい。」

 イノリの次に一歩前に出たのは永泉だ。

 一同の視線がいっせいに永泉へと集中する。

 いつもは控えめな法親王なだけに、自分から事態の収拾をかってでたのが驚きだった。

「その……あ、青葉殿は全く見知らぬお方というわけでもありませんので…。」

「へ?」

 自分に視線が集中していることに気付いて一気に顔を赤らめる永泉にあかねが驚きの声をあげた。

 そして驚いたのは少年の方も同じようで、子供らしいつぶらな瞳で永泉を捕らえた少年はすぐに息を飲んだ。

「そなたは……。」

「はい、あ、青葉殿とは一度お会いしたことがありましたが、覚えていてくださったのですね。」

 やわらかく微笑む永泉に一瞬見惚れてから、少年はあわてて視線を反らした。

 その様子が可愛らしくて永泉とあかねはクスッと笑みを漏らした。

「さて、永泉様には何かお考えがおありのようですし、我々は姫君を奪還して帰還するとしようか。」

「そうですね、神子殿さえよろしければ。」

「あ、はい、みんな心配して駆けつけてくれたんですもんね。すぐ帰ります。青葉君、私はもう帰るけど、本当に何か困ったことがあったら相談にはのるから、またね。永泉さん、宜しくお願いします。」

「お任せ下さい。」

 友雅と鷹通に促され、いつものようにやわらかく微笑む永泉に全てを任せてあかねが立ち上がると、その小さな体はあっという間に宙に浮いた。

 もちろんそれは頼久があかねを抱き上げたからだ。

 今のあかねはいつも出かけるときのように水干姿でいるわけではないので、衣の裾が邪魔でとても表を歩けるとは思えない。

 それでもあかねはみんなが見ている前で抱き上げられたことが恥ずかしくて、思わず頼久を上目遣いににらみつけた。

「頼久さん!歩けます!」

「承知しております、ですが、今はこのようにさせて下さい。」

「はい?」

 すっかり歩けないから抱いていくと断言されるものと思っていたのに、聞こえたのはどこか力ない頼久の声で驚いたあかねは怒るのも忘れてその横顔をじっと見つめた。

 さっきからあかねを抱く頼久の手には軽く力が込められていて、ゆっくりと歩き出したその足取りは重い。

「頼久さん?」

「神子殿を失うかもしれぬと、さきほどまではそう思っておりました。今しばらくこのままでいさせてください。」

「そ、そんなことあるわけないじゃないですか…もぅ。」

 真剣な頼久の声に反論はするものの、あかねはそれ以上抵抗するのをやめた。

 この暗闇の中、どんな思いで自分を捜し歩いてくれたのかあかねにはよくわかっていたから。

 そして、あかねを抱いて頼久が歩き出したのを先頭に、友雅、鷹通、泰明、イノリがそれに続き、その後を武士団の武士達が抜かりなく辺りを警戒しながらついてきた。

 それというのも騒ぎに気付いて駆けつけてきたこの屋敷の警護の者達に取り囲まれていたからだ。

 もちろん、屋敷の主が帰すなとは言わないから、警護の者達が襲ってくることはなかったが、このまま戦闘になっても武士団の武士達が負ける気配は微塵もなかった。

 それほどに武士団の武士達には隙がなかったのだ。

 頼久を先頭に一同が門を出ようと歩いていると、ちょうど入れ違いに一人の少年が屋敷へと駆け込んだ。

 あかねが慌ててそれを目で追う。

 すると、頼久が絶対に下ろさないといわんばかりに腕に力を込めてから口を開いた。

「あの者がここに神子殿がいるからと案内してくれたのです。」

「あの子……そっか、あの子、青葉君のたった一人のお友達なんだって言ってました。青葉君のことも私のことも心配で頑張ってくれたんだ。」

「あの者がいなければ我々はもう少しで安倍晴明殿の屋敷へ殴りこむところでした。」

「えええっ!なんでそうなるんですか!」

「あの屋敷にお師匠の結界が張られていたために私にも神子の気配がつかめなかったからだ。」

「へ?」

「つまりお師匠が神子を隠した、そう考えた。」

「そんなことあるわけないじゃないですかっ!」

 相変わらず不愉快そうに話す泰明にそう怒鳴ってあかねが顔を真っ赤にすると、隣で友雅が笑みを漏らした。

「神子殿、まぁ、そう怒らないでくれまいか。泰明殿は結界が晴明殿のものと気付いて必死に神子殿を助け出そうとしてくれたのだし、もとはといえば神子殿の文が頼久に届かなかったことが原因だったのだしね。」

「それはまぁ、そうなんですけど…。」

「ところで、神子殿。あの青葉という童、いったいどういう知り合いなんだい?神子殿を妻にしたいだなどとずいぶんと背伸びをしたことを言っていたけれど…。」

「ああ、青葉君はこの前、頼久さんとお散歩をしていた時にたまたま知り合いになったんです。その時は青葉君の名前は聞いてなかったんですけど、私は名前を教えてあげていたから、屋敷を探して会いに来てくれたんです。前に会った時に私、青葉君にちょっとお説教したんですけど、それが嬉しかったって言ってくれて、どうしてもお屋敷に招待してお礼がしたいって言われたのでついていったんですけど、急いで出てしまったから後で青葉君のお屋敷から手紙を出したんです。でも…。」

「届かなかったというわけだね。」

「はい、まさかこんなことになるなんて思ってなくて…ごめんなさい…。」

「まぁ、我々を案内してくれた童子が囮になって武士団の警護の目をくらませたりとずいぶん手の込んだこともしていたようだしね。純真な神子殿なら騙されてもしかたがないというところかな。」

「だ、騙されたっていうわけじゃ……。」

「まぁ、なんにしても無事でよかったよ。」

「あ、はい、みんなにも心配かけちゃって本当にごめんなさい。」

 頼久の腕の中であかねが可愛らしく頭を下げると、ようやく不機嫌そうだった泰明の顔にも安堵の色が浮かんだ。

「でも、あれ、晴明さんって確かこの京で一番の陰陽師で、身分の高い貴族の人じゃないと結界なんて……。」

「無論だ。お師匠が直々に結界を張ったとなれば、あの者は相当の身分の者。青葉というのも偽名だろう。」

「えええっ!」

 冷静な泰明の言葉にあかねが再び大声をあげる。

 聞いた当初からそんなことだろうと予想していた友雅と鷹通は苦笑するばかりだ。

「永泉が見知っているというからには帝の血筋の者だろう。」

「み、帝の血筋って……ものすごく偉い人じゃないですか!」

「神子殿、驚くのはそれくらいにしておいた方がいいのではないかな。そのままだと頼久の耳が壊れてしまいそうだ。」

「あ…ご、ごめんなさい、頼久さん、うるさかったですね。」

 慌ててあかねは頼久の頬を優しく撫でた。

 すると、頼久は小さく息を吐いてあかねに力ない笑みを浮かべて見せた。

「二度と聞くことがかなわぬかと思った神子殿のお声です。どれほど大きなお声でも私には天女の歌声に聞こえます。」

「ま、また頼久さんはそういう恥ずかしいことを……。」

「はいはい、見せ付けるのはそれくらいにしてくれるかい?神子殿の奪還もかなったことだし、私はそろそろ屋敷へ戻るとするよ。」

「あ、はい、友雅さん、有難うございました。」

 気付けば一行はもうあかねの屋敷の前へとたどり着いていて、どうやら八葉の面々はこれで解散の気配を見せている。

 きちんと挨拶がしたくてあかねは頼久の腕からおりようとしたが、頼久にがっちり抱きしめられてそれはかなわなかった。

「ああ、オレも帰るわ。姉ちゃんも心配してるだろうし、このままここにいたら頼久の邪魔になるしな。」

「そ、そんなことないけど…。」

「いえ、頼久は我らの中でも最も神子殿の身を案じていたのです、しばらくは二人きりで。私も戻るとします。」

 イノリ、鷹通が友雅に次いでそう宣言すればもちろん泰明一人が留まると駄々をこねることができるわけもなく…

「私もお師匠に事情を説明しに行く。結界を力技でやぶってしまったからな……神子の様子は後日また見に来る。」

 憮然とした表情で泰明がやっとそう言うと、八葉の面々は4人そろって去って行った。

 その後ろ姿が見えなくなるまで見送って、頼久とあかねはようやく屋敷の中へと戻ることができた。

 武士団の武士達は頼久が何も言わなくてもいつもの警護に戻っていき、頼久とあかねはやっとあかねの局で二人きりになることができた。

 あかねが頼久の腕から解放してもらえたのは、そうして二人きりになった御簾の内でだった。

「頼久さん、本当にごめんなさい。たくさん心配かけちゃって…。」

「いえ、もうお気になさらず。」

「でも、私の不注意だし…みんなにもたくさん迷惑かけちゃったし……。」

「皆には後日また。」

「はい…頼久さんは?」

「は?」

「頼久さんにも私、ちゃんとお詫びがしたいです。」

 あかねの悲しげな声と視線に頼久は考え込んでしまった。

 頼久にしてみればあかねが戻ってきてくれただけでもう十分なのだが、どうやらそれではあかねがおさまらないらしい。

 ならばと頼久はあかねの体を自分の膝の上に乗せるとギュッと抱きしめた。

「よ、頼久さん?」

「夜が明けるまで、こうしていては頂けませんか?神子殿はこのままお休み頂いてもかまいませんので。」

「……それで、お詫びになりますか?」

「はい。」

「それじゃぁ…。」

 あかねは頼久の首に腕を回すと、自分もギュッと抱きついた。

 これで大切な旦那様の気持ちが少しでも安らいでくれるなら、そう胸の内で願いながら。

 ところが、二人がそうして抱き合ったとたんに御簾の間から朝陽が射し始めた。

 そう、頼久にとっては長い長い夜が明けたのだ。

「神子殿、どうやらもう夜が明けたようです。」

 そう言って頼久が優しくあかねを膝から下ろして微笑むと、あかねは大きく目を見開いて御簾の向こうを眺めた。

 確かに射し込む朝陽に庭が輝き始めている。

 そんな庭をしばらく眺めてから、あかねは思い切って頼久の首に抱きついた。

「神子殿?」

「じゃぁ、今日はお昼までこうしてます。で、頼久さんとお昼寝します。」

「神子殿……御意。」

 優しい妻の心遣いに頼久の顔はすっかり緩んで、その鍛えられた腕は小さなあかねの体を優しく抱きしめるのだった。



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管理人のひとりごと

一応、本筋はこれで終わりなんですが、ちょっとだけ後日談を更にもう一話だけ…
ドタバタしたのでちょっと落ち着いた後日の様子も書きたかったんですが、長くなりました(^^;
展開よめた〜という方もいらっしゃるかと思いますが、ここはあかねちゃんを大事に抱えて帰ってきた頼久さんを書きたかったということでお許しを(’’)
というか、そこしか考えてないんだな、書き始め(マテ
と、あまり考えずに書き始めておりますが、この後の後日談でとりあえずほのぼのして終了できればと思います(^^)







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