除夜の鐘
 髪型よし、洋服よし、リップの色よし。

 あかねは鏡の前で頭から足の先までチェックして一つうなずいた。

 今日は12月31日。

 そう大晦日だ。

 クリスマスに約束した通り、頼久があかねの両親に許可をとってくれて今日は一緒に除夜の鐘をつきにいって、一緒に新年を迎えてそれから頼久の家で初日の出を一緒に見ることになっている。

 もちろん、二人きりではなくて天真達も一緒だ。

 何日も前から何を着るか悩んで、髪にも綺麗な髪飾りを選んで、やっとこの日になった。

 もうすぐ頼久が迎えにくる。

 そう思うともうそわそわして黙って座っていられないのだった。

 そうこうしているうちにドアチャイムが鳴って、あかねは自分の部屋を飛び出した。

 玄関のドアを開けるとそこには優しく微笑む頼久がたっていた。

「お迎えに上がりました。」

「有難うございます。」

 いつも通りのそんな会話を交わして二人並んで歩き出す。

 雪は降っていないが、さすがに夜は寒くてあかねは小さく溜め息をついた。

「寒いですか?」

「それはまぁ…夜ですし。でも、大丈夫です。」

 気遣ってくれる頼久にそう言って微笑んで見せて、あかねは前を向いた。

 そう、寒いなどとは言っていられないのだ。

 これから行事が盛りだくさん。

「鐘つき堂まで行けば少しはましだと思いますので。」

「はい。天真君達とは現地集合ですよね?」

「はい、何やら張り切っていましたから先についているでしょう。」

「天真君お祭り好きそうだもんなぁ。」

「妹御と迎える正月が嬉しいのやもしれません。」

「そっか、そうですよね。」

 あかねは微笑を浮かべながら空を見上げた。

 そう、これまで天真は蘭がいないことで自分を責め続けてきたのだ。

 これから迎える正月が妹と一緒というのはさぞかし嬉しいものだろう。

 そう思えばあかねもなんだか嬉しくなって、綺麗にはれている星空を見上げる顔も晴れやかになった。

「天気、いいですね。」

「はい。おかげで冷え込んでいるようですが、星は綺麗ですね。」

 頼久の言葉にうなずいて、それでもまだ上を向きながら歩くあかねがつまずくと、すかさず頼久の腕がのびてあかねを抱きとめる。

 あかねは顔を真っ赤にしてうつむいた。

「ご、ごめんなさい。私、子供みたいに…。」

「いえ、神子殿の天真爛漫なところはいいものだと思っておりますから。」

「そ、そんなことは…もうちょっと落ち着かないと。」

 頼久の腕から離れながらあかねは一つ深呼吸した。

 これでは正月だといって騒いでいるであろう天真のことを笑ってはいられない。

 それでなくても遥か年上の頼久といると早く大人にならなければと思うのに…

 急に黙り込んでうつむいて歩く隣の恋人に気付いて頼久は苦笑を浮かべた。

「もし…。」

「はい?」

「もし神子殿が他の京の女性達と同じように落ち着いていておとなしく、しとやかで、御簾越しにしか話をしないような女性であったら、私は神子殿をお慕いしたりはしませんでした。」

「えっと…。」

「ですから、神子殿は何も気にせず、神子殿の思うままにお過ごし下さい。」

「頼久さん…。」

「無理はなさらずに。」

「……それって、私は落ち着きがなくておとなしくないし、おしとやかじゃないってことですよね?」

「いえっ…その…そういうわけでは…。」

 慌てふためく頼久にあかねは思わずくすっと笑った。

「冗談です。うん、焦らないで頑張ります。」

「はい。」

 二人は微笑み合って再び歩き出した。

 しばらくすると目的地の寺が見えてきて、案の定、その前で天真、蘭、詩紋の3人が待っていた。

「おっそーい、二人とも。」

「ごめんごめん。」

 蘭にせかされてあかねが3人へ駆け寄る。

 その姿がいつものはつらつとしたあかねで、頼久は満足げな笑みを浮かべてゆっくりとあかねの後を追った。

「さ、並ぼう!鐘つくのにもう大行列なんだよ。」

「ほんと、凄い人の数…。」

 蘭に手を引かれてあかねは人込みの中、鐘つき堂の方へ向かって歩き出す。

 男性3人はそんな二人の後を追った。

「まったく、落ち着きねーな。あぶなっかしくて目がはなせねーよ。」

「いいではないか、無邪気で。」

「はぁ、お前はそうだろうな、あかねがかわいけりゃそれでいいんだもんな。」

「そ、そういう意味ではない!」

「天真先輩と違って頼久さんはあかねちゃんが危なっかしくても守ってあげるから心配してないんじゃない?」

「言うじゃないか詩紋。」

「痛い、痛いよ先輩。」

 天真が詩紋の頭を拳でグリグリしているのを頼久は微笑みながら見守っていた。

 これでは前を行く二人と大差ない落ち着きのなさだ。

「お兄ちゃん!詩紋君いじめないの!」

「いじめてねーよ。」

 慌てて天真が詩紋を解放すると、それでよしとばかりに振り返った蘭がうなずいた。

 これではどちらが年上かわからない。

 そんな様子も微笑ましくて、頼久の顔には微笑が絶えなかった。

「頼久さん、こっちこっち、やっぱり鐘はあかねちゃんと二人でつかないと!」

 勝手にあかねを連れて先に歩いたのに、今度はその蘭があかねの隣を頼久に譲った。

 ニコニコと楽しそうなあかねの隣で頼久の顔にも自然と笑みが浮かぶ。

 後ろからやってくる3人の声を聞きながらあかねと頼久は二人で行列に並び、数十分後、鐘の前に立った。

 頼久がしっかりつかんだ縄にあかねも手を添えて、一つ大きく鐘を鳴らす。

 重々しくてそれでいて澄んだ鐘の音が響いて、あかねと頼久は言葉は交わさずともお互いに微笑み合ってうなずいた。

 二人先に鐘つき堂を後にして、後から鐘をついているはずの3人を待つ。

「綺麗な音でしたねぇ。」

「はい。」

「本当に煩悩も消えそう。」

 あかねはそう言ってクスッと笑った。

「凄い人の数だけど、来てよかったです。」

「はい、私もこのように幸せな年越しは初めてです。」

「ま、またそんな…。」

「お前ら人前であんま恥ずかしいことすんな。」

「な、何もしてないよ!」

 鐘をつき終わって合流した天真、蘭、詩紋の3人は同時に深い溜め息をついた。

 二人が普通に会話しているつもりでも、周囲にはじゅうぶんにいちゃついているように見えるとどうやったらわかってもらえるだろうか。

「人前にいるの恥ずかしいから移動しよう。」

「蘭まで…。」

「あ、俺達ちょっと買出ししてから行くから、お前ら先に帰ってろ。」

「へ?買い物なんかしなくても昨日のうちにお料理もジュースもお菓子も用意してあるよ?」

「俺が欲しいもんがあるんだ。行くぞ、蘭、詩紋。」

 そう言って天真がテクテクと歩き出すと、蘭と詩紋は一瞬顔を見合わせてからうなずいて天真の後を追った。

 去り際に蘭があかねにウィンクして見せたのだが、あかねは意味がわからず小首を傾げるばかりだ。

 そして、その意味を悟ったのは頼久の方で、こちらは苦笑を浮かべていた。

「3人とも変なの。」

「ここに立っていては体が冷えますから、帰りましょう。」

「そうですね。」

 まだまだ鳴り続ける除夜の鐘を背後に聞きながら、二人はゆっくり歩き出した。

「早く帰ってきてくれないと年が明けちゃう。3人ともわかってるかなぁ。」

 そう一人つぶやくあかねの隣で頼久は苦笑していた。

 おそらく3人は年が明けるまで帰ってこないだろう。

 新年をあかねと頼久、二人きりで迎えさせてやろうとして買い物に行くなどと言い出したのだろうから。

 一年最後の綺麗な夜空の下を二人でゆっくり歩いて、頼久の家につく頃にはもう日付も変わろうとしている時間だった。

 案の定3人は帰ってこなくてあかねは腕を組んで時計をにらみつけた。

「もう、ほんとに間に合わないじゃない。」

「まぁ、初日の出は一緒に見られるでしょうから。」

 と、頼久はそれもあやしいものだと苦笑しながらあかねをなだめ、あかねの隣に並んだ。

 テレビをつけるともうカウントダウン直前だ。

 頼久はこの世界へやってきてから今までを思いながら、そしてあかねは頼久と出会ってから今日までを思いながらカウントダウンの声を聞いた。

 3、2、1、0。

『あけまして、おめでとうございます。』

 カウントダウンが終わるのと同時に二人で声を合わせて、そして向かい合って軽く一礼した。

「今年も宜しくお願い致します。」

「こ、こちらこそ!宜しくお願いします。」

 頼久の丁寧な挨拶を受けてあかねが慌てて深々と一礼する。

 新年の挨拶を済ませて顔を上げた二人は、一瞬見詰め合って、それから微笑んだ。

 天真達が帰ってくればこれから初日の出を見るまでは宴会の予定だ。

 そう、今夜は徹夜で大騒ぎ。

 これからの楽しい一時を思いながら、二人は一緒に宴会の準備を始めるのだった。



      
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管理人のひとりごと

いかがだったでしょうか、あかねちゃん達のお年越し。
こちら実は大晦日のお話。
年が明けてから初日の出を見るところをUPしたいと思っております。
とりあえずは大晦日のみ(’’)
なんだかんだいって結局二人きりの時間を作ってくれる暖かい友人達に頼久さんは感謝しないと(笑)
きっとお正月も楽しく過ごせそうです♪




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