あかねはゆっくり目を開けた。

 一瞬、自分が今どこにいるのかわからなくて辺りをゆっくりと見まわす。

 そこは見慣れた部屋だった。

 そう、週末には必ず訪れている頼久の家のリビングだ。

 部屋のあかりは消えていたけれど、窓からうっすらと差し込む光で部屋を見渡すことはできた。

 あかねはソファに横になって眠っていたようだった。

 床に転がってぐっすり眠っている天真と詩紋を見てくすっと笑って、あかねはそれまでの記憶を呼び起こした。

 頼久と二人で新年を迎えた後、しばらくしてからコンビニへ買い物に行った3人は帰ってきた。

 それからはみんなでお菓子を食べたりジュースを飲んだりしながらおしゃべりをして、テレビを見て、ゲームをして…

 つまりはドンチャン騒ぎになって、力尽きてみんなで雑魚寝になってしまったのだ。

 テーブルを挟んで向かい側のソファには蘭が眠っている。

 女性二人はソファに寝かそうという話を天真達がしているところまでは覚えていたが、それ以降の記憶があかねにはない。

 つまりそこで眠ってしまったということだ。

 確か、眠る直前は隣に頼久が座っていて、よりかかっていたような気がしたのだが…

 あかねはゆっくり上半身を起こして更に辺りを見回した。

 すると、窓辺に座る人影が見えた。

 一人だけ、眠らずに座っているその後ろ姿は間違いない、頼久のものだった。

 どうやら窓の外を眺めているらしい。

 あかねは眠っている3人を起こさないように気をつけながらゆっくり立ち上がった。

 すると、今まで外の景色に集注していた頼久がすっとあかねの方へ振り返った。

「神子殿…起こしてしまいましたか?」

 小声でそういう頼久にあかねは首を横に振って見せた。

 別に自分が目覚めたのは頼久がおきていたからではない。

「変な時間に寝ちゃったから。」

 そういいながらあかねはにっこり微笑んで頼久の隣へ座った。

 カーテンをあけたままの大きな窓からは白く明け始めている空が見えた。

「綺麗…。」

「もうすぐ夜明けです。」

「よかった、初日の出、見られそう。」

「はい。」

 並んで座って二人で微笑み合って、同時にまた空を見上げた。

 新年初の太陽はもう昇り始めているらしくて、空はどんどん明けていく。

「新しい一年かぁ。」

「神子殿?」

 つぶやいたあかねの声がどこか寂しげなのを頼久は聞き逃さなかった。

「ごめんなさい、なんか…いつまでたっても追いつかないんだなぁと思っちゃって。」

「追いつかない、ですか?」

「頼久さんと同じ時間を過ごしてるのは、それは嬉しいことなんですけど…それって一緒に年をとっていくっていうことだから…いつまでたっても私は頼久さんよりずっと年下で子供で、そういう差って縮まらないんだなぁと思って。」

「神子殿…。」

「もちろん、頑張りますけどね!でも、ずっとこのまま差が縮まらないと、頼久さん待ちくたびれちゃって嫌になっちゃうんじゃないかなって思うこともあって…。」

 初日の出直前の白々とした空を見上げて苦笑するあかね。

 頼久はそんなあかねの横顔を神々しく感じて見つめながら、真剣な顔で口を開いた。

「…それは私とて同じ想いです。」

「はい?」

「差が縮まらないのは私も同じことですので。」

「えっと…。」

「神子殿は私の年が上なのでと色々背伸びをして下さっていますが、私もこう見えて神子殿がお若いので私のように年のいった者が相手では物足りなくお思いなのではと気になることもあります。」

「そ、そんなことっ!」

 思わず大声を出しそうになってあかねは慌てて口を手で押さえた。

 ゆっくり振り返ってみれば、天真達はまだぐっすり眠っているようだ。

 頼久とあかね、二人で顔を見合わせてほっと安堵の溜め息をついた。

「同じ年頃の相手であれば、共に登下校したり学校の行事にも参加できましょうが、私にはそれができません。常にお側にいることもこの世界ではかないませんし、腕が立ってもさして役にも立ちません。私のような者がと思うこともありますが、神子殿は私を選び、この世界にお連れ下さった、その事実を信じることにしております。」

「頼久さん…。」

「私は一生神子殿をお守りするとそう思ってこの世界へ参りました。この想いが揺らぐことはございません。ですから…。」

「はい、私も信じることにします。この世界に京の全てを捨てて一緒に来てくれた頼久さんを。」

「はい。」

 想いが通じて幸せで、互いに微笑み合って、そして自然と二人は口づけをかわした。

 しばらくして二人の影が離れた時、空に太陽が姿を現した。

 差し込む朝日に照らされてあかねが目を細める。

「あ、日の出。」

「明けましたね。」

「綺麗…。」

 うっとりと朝陽に見惚れて、それからあかねは何か思いついたようにぱっと笑みを浮かべた。

「みんなを起こして一緒に見ようっと。」

 そう言って立ち上がろうとするあかねの手を頼久が優しく引く。

 バランスを崩して立ち上がりそこねたあかねの体はすっぽりと頼久の膝の上に収まった。

「頼久さん?」

「せっかくの美しい朝陽ですから、今しばらく二人で…いけませんか?」

「い、いけなくないです…。」

 赤い顔をしてうつむくあかねを大事そうに抱え込んで頼久は満足げに微笑んだ。

 そんな二人を新年初の朝陽が暖かく照らしていた。





「お前、絶対わかってたろ。」

「なんの話だ?」

「今朝の話だっつうの。」

「ん?」

「ん?じゃねーよ。」

 元旦の夜。

 頼久の家のリビングには家の主、頼久とその真の友、天真の二人がいた。

 朝から雑煮だおせちだと大騒ぎして昼過ぎまで騒いでいた他の3人は疲れ果てて帰宅したのだが、天真だけが酒を飲むためだけに残っている。

 テーブルの上には昼まではなかった酒瓶が並んでいて、つまみはあかねのお手製のおせち料理だ。

 頼久はそれを一つ口に入れるたびに幸せそうに微笑んでいた。

「今朝、日の出の時、お前、俺が起きてたの気付いてたろ?」

「そうか?」

「とぼけんなよ、わかってたくせにあかねといちゃついてたろうが。」

「いちゃついていたわけではない。」

「あれがいちゃついてるんじゃなくてなんだってんだ。おかげで30分も狸寝入りしなきゃならなかったんだぞ、こっちは。」

「ふむ。」

「ふむってお前なぁ…。」

 天真は深い溜め息をついてビールを一気に飲み干した。

「冬休みとはいえ神子殿を独占しては御家族に申し訳ない。」

「ん?」

「夜までにお返しせねばと思ったのでついな…。」

「……。」

 思わぬ頼久の告白に天真は黙り込んでしまった。

 それでも料理を口に運ぶ頼久は幸せそうに微笑んでいて、一瞬凍りついた天真はほっと溜め息をついた。

「あかねがなんでお前選んだのかってずーっと考えてたこともあるんだよな、俺。」

「ん?」

「なんで俺じゃねーんだろって。」

「……。」

「なんかわかった気がするわ。俺には無理だからな、そういうの。」

「そういうの、とは?」

「物凄い遠い未来のことまで考えて、自分だけじゃなくてあかねのこととかあかねの周りのこととか考えて、それで自分が物凄い我慢するとかそういうの、俺には無理だ。俺だったらきっとすぐあかねかっさらって結局どうにもこうにも身動きとれねーみたいな、そんなことになってた気がする。」

「そんなことはあるまい。お前はいい男だ。」

「お前なぁ…。」

「本心で言っている。ただ、まだ少しばかり若いだけだ。私もお前と同じ年頃の頃は無鉄砲だった。」

「お前が?想像できねー…。」

「良くも悪くも私は年が上だからな。」

 そう言って苦笑する頼久に天真はちっと舌を鳴らした。

「俺にはいい所ばっかみえんだよな、その年上ってーのは。」

「私もそうだった、兄上のことをいつも見上げていた。」

「……。」

「そう暗い顔をするな。今となってはよい思い出ばかりだ。神子殿とお前達のおかげだ。」

「だーかーらー、そういう恥ずかしいことをさらっと言うなってんだ。」

 照れ隠しにまたビールを飲んで天真が不機嫌そうにするのを頼久は微笑みながら見つめていた。

 自分が兄をうらやんでいた頃もこうだったのだろうかと懐かしく思いながら。

「七草粥、作りに来るって言ってたぞ、あかね。」

「ん?」

「まぁ、その前にも何回か来るだろうが、七草粥は必ず作りに来るってよ。」

「そうか。」

 返事はたった一言、だが、その顔に浮かんだ笑みがどれほどあかねの来訪予定を知って喜んでいるかを物語っていた。

「俺にも食わせろ。」

「うむ。」

「押しかけてやっからな。」

「うむ。」

 そうはいいながらもちゃんと二人きりの時間を作ってくれる。

 それがこの真の友だと思いながら頼久は煮豆を口に入れた。

 甘辛く煮付けられた豆はどこか幸せな味がした。










管理人のひとりごと

お待たせしました後編でございます(^^;
大変ながらくお待たせしてしまいました(><)
当初は天真君達と騒ぐ場面を書こうかと思っていたのですが、どうしてもいちゃつく二人が書きたくなりました(’’)
まぁ新年なのでおめでたく(マテ
あかねちゃんたちは楽しくお正月を迎えたようです♪
皆さんにも楽しい一年の始まりでありますように(^^)




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