雪と共に降りつもる

 しんしんとひたすらに雪が降っている。

 庭はもう一面雪で覆われてしまった。

 足跡一つない雪の庭はとても綺麗だ。

 けれど、雪が降っている以上、この京では寒さの厳しさも身に染みるというものだ。

 それでも美しく雪化粧した庭の主であるあかねがニコニコと微笑んでいるのはすぐ隣に頼久が座っているからだった。

「寒くはありませんか?」

「大丈夫です。女房さん達が火桶をたくさん用意してくれましたから。それにいつもよりは厚着してますし。」

「ならばよいのですが…。」

 少しばかり心配そうな顔をしている頼久はというと、あかねならとても耐えられないというくらいの薄着だ。

 本人いわく、鍛えているので寒さは気にならないというのだけれど、あかねは少しばかり頼久の体が心配だったりする。

「それにしても、よくお休みもらえましたね。」

 そう、本日は大晦日。

 いつもなら、左大臣家に仕えている源武士団の若棟梁である頼久は多忙を極めているはずの日だ。

 実際、頼久の部下は全員出払っているらしいことをあかねも知っている。

 そんな頼久が大晦日の夜に妻の元でくつろいでいるのは、もちろん休みが取れたからだった。

 取れたというよりは、強制的に休みとされたと言った方が正しい。

 そう、神子様大事の藤姫が、頼久にもあかねにも相談なしで父である左大臣に頼久に休みを取らせるようにねじ込んだのだ。

 いつもの頼久なら藤姫に丁寧に説明をして休みを撤回してもらい、一人でも多くの部下を休ませるところなのだが…

 今回ばかりはこの部下達が藤姫と共謀していた。

 つまり、こちらも神子様大事の武士団の武士達は、年越しに神子様の側に夫がいないとはなんたることかと考えたらしく、藤姫と共謀して頼久に休みを取らせるべく、皆でここ数日の仕事の割り振りをしてしまっていたのである。

 そこまでされては頼久も好意を受け取らないわけにはいかず、有り難くもこうして愛しい妻と新しい年を迎えようとしているというわけだった。

「そういえば、昼間、お魚の干物ってこっちでは『からもの』って言うんでしたっけ?それがたくさん届いたんです。」

「干物、ですか?」

 そうつぶやいて頼久は頭の中で検索をかけてみる。

 友雅の贈り物にしては風流に欠ける、イノリならば生ものの方を持ってきそうだ、泰明が食べ物を贈ってくるとは考えにくいし、同様に永泉からというのも考え難い、残るは鷹通だが…

「頼久さん、誰からだろう?って考えてます?」

「はい。」

「私も藤姫にしては珍しいなって思ってたんですけど、お父様からでした。」

「は?父とは、その…父上、でしょうか?」

「はい。」

 あかねにとってこの京で父と呼ぶ人物はもう自分の父しかいないとわかっているのに頼久が確認してしまったのは、頼久が知る限り、父が魚の干物を嫁に贈ったりするような人物だとは思えなかったからだ。

「たくさんあるから、明日からご飯が御馳走になりますって女房さん達が喜んでました。」

 そう言うあかねの愛らしい笑顔を見ながら、頼久ははたと気づいた。

 考えてみれば部下達だけで年末年始の仕事を割り振って片付けてしまうなどということができるはずがなかったのだ。

 今回のこの休みは源武士団の棟梁である父までもが話に一枚噛んでいたのだろう。

 だからこそ、頼久に普段苦労を掛けている分、しっかり妻を大事にせよというつもりで御馳走を送ってきたのだ。

 気付いてみれば頼久は小さく溜め息をつかずにはいられなかった。

 なんと自分は至らぬ夫であることか。

「頼久さん?私、お父様に何かお礼の品を送った方がいいですか?」

 小首を傾げる愛らしいあかねの髪を頼久はそっと一撫でして、あかねにはわからないように小さく深呼吸をした。

「いいえ、先日あかねが贈った単への礼のつもりだと思いますので、返礼はお気になさらず。私が一応、文を出しておきます。」

 先日、あかねは寒い冬を温かく過ごしてほしいと、自分で仕立てた単を何枚か頼久の父に贈っていた。

 その礼がまだ届いていなかったことは事実だ。

 が、その礼は礼できっとまた後日に何かが届くだろうと予想して、頼久はちらりと苦笑を浮かべた。

「お願いします。私が文を出せばいいんだと思うんですけど、まだ字がちょっと自信なくて。」

「それについては父も承知しておりますのでお気になさらず。」

 頼久の父は今では息子よりも嫁の方が大事なのではないかと思うことがあるほどあかねを気に入っている。

 気に入っているというよりも、朴念仁極まりない息子のもとへ嫁いでくれた神子様という状態なので、崇めていると言ってもいいくらいだ。

 礼などなくても気にはしないだろうし、文が届けばたとえそれが読めない字で書かれていたとしても肌身離さず持ち歩くくらいのことはしそうだが、それについてはあかねには言わないことにしておく。

 頼久なりに父の威厳を慮ってのことだ。

 だが、あかねからもらった手紙を大事に押し戴く父の姿を思わず想像して、頼久は思わず笑みを漏らした。

「頼久さん?何か楽しいことでもあったんですか?」

「いえ、父の気遣いに感謝していただけです。」

「私も本当に有り難いなって思いながら今日は一日過ごしてました。お父様も、みんなも色々気遣ってくれて。」

「みんなも、ですか?」

「はい。朝一番に友雅さんからいい香りのお香が届いて、次がイノリ君から木の実がたくさん、次が泰明さんで御札がたくさん、永泉さんからは凄く綺麗な笛が一本、鷹通さんからはお薬がいっぱいで、藤姫からは綺麗な袿が五枚、最後がお父様から魚の干物でした。」

「……。」

「たくさんの人に気遣ってもらって、幸せ者だなぁってしみじみ思いました。」

 そう言って嬉しそうに微笑むあかねへと頼久の手がのびたのは自然なことだった。

 周囲の誰からも愛されているあかねなのだ、自分も大切にしなくてはならない。

 そんな想いが頼久の腕を無意識のうちに動かしていた。

「頼久さん?」

「冷えてきましたので。」

 そんな言い訳をしてあかねを抱き寄せて、頼久はしっかりと小さな体をその腕の中に閉じ込めた。

 誰にも贈れないもの、二人きりで過ごす穏やかな大晦日の一時を自分が贈ろうと心に決めて。

 けれど、腕の中のあかねが嬉しくも恥ずかしそうに頬を染めて微笑むその顔を見てしまえば、二人きりで過ごす一年で最後の一日を贈ってもらっているのは自分だと気付いて…

 頼久はもう口にする言葉も見つからず、ただひたすらあかねを大事に大事に、優しく強く抱きしめ続けた。








管理人のひとりごと

クリスマスが体調不良でできなかったからっ!(TT)
年末年始はどっちもやりますよ!
ってことでまずはお年越編を京版です!
相変わらずみんなに愛されているあかねちゃんですよ!
まぁ、一番愛してるのは頼久さんですけどね!(>▽<)









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