夜はこれから
「すみませんでした。」

「は?」

 すっかり静かになった部屋の中に響いたのは頼久の間抜けな声だった。

 それというのもたった今、頼久の耳に飛び込んできたあかねの言葉が予想だにしないものだったからだ。

 頼久には何故、突然あかねが謝罪してきたのか、その理由が全くわからない。

 謝罪したあかねはといえば、テーブルの上の使い終わった食器をひとまとめにしながら苦笑していた。

 頼久は空になっている酒やジュースの瓶をひとまとめにして片付ける手を止めて、一瞬立ち尽くしてしまった。

「その……騒がしくしちゃって……。」

「いえ、騒がしかったのは天真達であって、あかねは騒いでなどいなかったかと思いますが?」

「そ、そうじゃなくて…その…今年は二人きりでお正月って、頼久さんは考えてたかなと思って…。」

 頼久はここでやっとあかねの言いたいことを理解して、そして安堵の溜め息をついた。

 どうやら自分が何かあかねを困らせているわけではないようだとわかったからだ。

 ただ、あかねが何か誤解していることもわかったので、ここは頼久、片付けの手を止めてじっとあかねを正面から見つめた。

「私も天真達にも会えましたし、特に問題はありません。お気になさらず。」

「本当ですか?遠慮してませんか?」

「はい。もちろん、あかねと二人でのんびりと正月を過ごすというのも私にとっては幸福な正月ですが、仲間達と騒ぐというのも良いものでした。」

「私も頼久さんと二人きりのお正月もいいなぁって思ってはいたんですけど、でも、特別なことがないとなかなかみんなで楽しく騒ぐっていうこともないなぁとも思っちゃって…。」

 あかねはそう言って申し訳なさそうな苦笑を浮かべると、頼久に背を向けてまとめた食器を洗い始めた。

 確かに頼久もこの正月は二人きりかと心のどこかで楽しみにしていたことは事実だ。

 口に出して言ったことはないが、あかねも頼久の想いを感じ取ってはいただろう。

 けれど、それ以上に頼久にはあかねに無理をしてもらいたくないという想いがあるのもまた事実だった。

 あかねはこちらの世界ではかなり若い年齢で頼久の妻となった。

 京の感覚が残っている頼久としては不自然さは欠片もないのだが、あかねにしてみれば若すぎる結婚だったかもしれない。

 同年代の友人達と騒ぎたいこともあるだろう。

 そう常々思ってもいた頼久だから、今回、天真達を呼んで新年会をやりたいと言われた時、二つ返事で了解したのだ。

 あかねが頼久の知らぬ友人達と遊びたいと言ってもおそらく許可しただろう。

 天真達であれば頼久も信用している共通の友人だ。

 共に新年を祝うことに何の問題もない。

 それでも、二人きりも良かったとあかねに言ってもらえたというだけで頼久の心は浮き立った。

「ちょっと後悔もしてたんです。」

「後悔、ですか?」

「はい。せっかくの初めてのお正月だし…その…やっぱり二人きりも良かったかなって……。」

 背を向けたままのあかねの声がだんだん小さくなっていくのを聞きながら、頼久の顔には笑みが浮かんだ。

 振り返らないのは顔を見られたくはないからだろう。

 響く水音と食器が触れ合うカタカタという音は今の頼久の耳には幸福に聞こえて…

 頼久はテーブルの上に残っていた料理の残りを冷蔵庫へと片付けると、そのままあかねの隣に立った。

「あ、こっちはいいですよ?洗い物は私が…。」

「正月はこれから何度も巡って参りますから。」

「へ…。」

「これからは何度でもあかねと二人で祝うことができます。」

「そう、ですね…。」

「ですが…。」

「はい?」

「今年も元日はまだ終わったわけではありません。ここから先の時間は私に一人占めをさせて頂けますか?」

 思わず手を止めたあかねがゆっくりと頼久の方へ視線を巡らせた。

 時刻はまだ夜に入ったばかり。

 天真達は朝からやってきて騒ぎに騒いで疲れたと言って先ほど解散したばかりだ。

 だから、確かに元日はまだ数時間残っている。

 ほんのり頬が赤く染まっている愛らしいその顔に笑みを深くしながら、頼久はあかねの小さな手から食器用スポンジをそっと取り上げた。

「頼久さん?」

「御手が荒れます。洗い物は私が。」

「でも…。」

「あかねは洗い終わった物を片付けて下さいませんか?」

「いいですけど…でも…今日は私がわがまま言ったのに、頼久さんにこんなことまでしてもらうっていうのはちょっと…。」

「いえ、二人で片づけてしまえば、その後、二人きりで楽しむ時間が長くなりますので。」

「へ……。」

 言われて一瞬考え込んで、あかねはすぐに顔を真っ赤にすると黙って頼久が洗い終わった食器を食器棚へと片付け始めた。

 洗い物を終えてゴミを片付けて、軽くリビングの掃除をしたらもうあとは自由な時間。

 二人きりの元日の一時を楽しもうと、あかねの手は手際よく食器を片づけるのだった。








管理人のひとりごと

ライトですかね?(マテ
もうちょっと糖度高くしたかったなぁ(’’)
でもまぁ、なんというか、二人もいいけどみんなもねっていうお話です。
結局、夜は頼久さんが一人占めなのでOK!
管理人も友人達と新年会やりましたよぉ!
友達とわいわいお正月もいいですよね!
個人的には寝正月が一番好きですが(^^;)









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