内と外
 今、天真の視界にはあかねと蘭の二人が何やら真剣に話し合っている姿が入っている。

 ついさっき何やら浮かない顔をしてやってきたあかねは蘭に出迎えられてそのままひそひそと真剣に話し合いを始めたのだ。

 天真はちょうどリビングでコーラを飲みながらバイク雑誌をめくっていたところで、あかねに「よう」と挨拶をしたきりかまわないことにした。

 女二人の話に首をつっこむとろくなことがないと学んだからだ。

 だからといってここから出て自分の部屋へこもるのもなんだかおかしい気がして、とりあえずコーラを飲みつつ雑誌をめくる作業を続行中というわけだ。

 女性二人は案の定、天真に聞かれてはまずい話なのか、小さな声でひそひそと真剣な面持ちで話し合っている。

 だいたいが、あかねが何か悩み事があるような顔でやってきた時は頼久の話になる。

 頼久に最近会えなくて寂しい、頼久に自分が大人になるのを待ってもらうのは申し訳ない気がする、頼久は自分を迷惑に思っていないだろうか、などなど…

 今まで受けた相談は数知れない…

 もちろん、天真とてあかねはかわいい、今では妹の親友でもある、相談には喜んでのるが今回はどうやら自分は必要とされていないらしい。

 女同士の相談となるとこれはもう自分が口を出せばやっかいなことになるのは間違いないので、今回ばかりは見て見ぬふりをきめこんだ。

 ところがだ。

 そうやってなるべく無関心を決め込んでいた天真の方へ、急に女性二人の視線が向いた。

「お兄ちゃん。」

「なんだ?急に。」

「お兄ちゃんもやっぱり恋人にするなら胸は大きい女性の方がいい?」

 ブハーーッ

 天真は思わず口にしていたコーラを噴き出した。

「お兄ちゃん汚い!」

「おまっ、何聞いてんだ。」

「天真君、大丈夫?」

 慌ててコーラをふく天真をあかねが慌てて手伝う。

「もう、お兄ちゃん、ちゃんと答えてよ、大事なことなんだから。お兄ちゃんだって一応男でしょ?」

「一応って…。」

「さ、女は胸が大きい方がいいのかどうか、はっきり答えて!」

 妹にびしっと指まで突きつけられて、天真は深い溜め息をついた。

「もういいよ、天真君困ってるし。」

「よくない!詩紋君はまだ子供だし、お兄ちゃんは一応私達より年上の一応男でしょ!参考になるのはお兄ちゃんしかいないの!」

「なんだそりゃ…何の参考にすんだよ…。」

「あかねちゃんがバストアップを努力するべきかどうかの参考!」

「はぁ?」

「い、いいよもう、恥ずかしいし…。」

「何言ってるの!それ悩んで一週間も考えてるんでしょ?ここは一つ解決しておいた方が絶対にいい!」

「何がなんなんだよ…。」

 途方にくれる天真に向かって蘭は恐ろしいほどの形相でにじり寄ると、おののく兄を相手に口を開いた。

「あかねちゃんはね、自分の体型のことで悩んでるの。特に胸が小さいっていうのを悩んでるの。私は女は胸じゃない!と思ってるけどね!」

 そりゃお前も胸ないからな、などと口にすると一生口をきいてもらえそうにないので天真はあわてて口をつぐむ。

「でもね、頼久さんみたいな大人の恋人を持つあかねちゃんとしては胸が小さいのが凄く気になるって言うの、だから、お兄ちゃんに参考までにきいてるわけ。」

「女は胸が大きい方がいいか?ってか?」

「そうそう、よくできました。で、答えは?お兄ちゃんも女は胸だ!とか言う?」

「もってなんだよもって…まずな、俺に聞くの間違ってるだろ、それは頼久に聞けよ。」

「聞けるわけないでしょ!」

「俺はいいのかよ…。」

「お兄ちゃんはいいの!お兄ちゃんだから!」

 胸をはる蘭に天真は深い溜め息をついた。

 100歩譲って自分にきいてもいいことにしよう。

 いいとしてもだ、質問自体が無意味だということに妹はどうして気づかないのか…

「あのな、あかねの場合な…。」

「答えは単刀直入に!わかりやすく!」

 どうやらイエスかノーで答えろと言ってるらしい蘭に天真はまた溜め息をついた。

 これはとりあえず妹を黙らせるしかない。

「ハイハイ、答えはノー。俺は胸なんか気にしたこともねーよ。ていうか、胸じろじろ見て品定めしてたら変態だろ…。」

「そりゃそうだけど、やっぱり胸の大きい女の子の方がいいって男は多い!」

 偏見だろ、とはもちろん天真は言わない。

「で、あかねの場合だけどな、あかねはそんなこと全く気にしなくていいと思うぜ。」

「そうかなぁ?」

「頼久に女の好み聞いてみろよ、神子殿のような女性って言われるに決まってるんだぜ?胸が大きい方がいいか?とか聞いたら神子殿くらいがいいっていうに決まってんだろ。」

「そ、そんなことは…。」

「それもそうか…。」

「ら、蘭までそんな…。」

「だから、そんなこと悩まんでいい。」

「そうかなぁ…。」

「ああ、俺が保障する。頼久は胸で女を差別したりしないし、むしろあかねとそれ以外の女というか生き物という選別をしてる。」

「それもそうか、そうだった。」

 やっと気づいたとでもいうように蘭がそう言ってうなずくのを見て、天真はまた溜め息をついた。

 今日は何度溜め息をつかされるのか。

「ところで、あかねはなんでそんなこと気になってんだよ。」

「うん…今年はね、夏休みにみんなで海に遊びにいけたらいいなぁって思ってて…水着着ると…その…体型がすっかりわかるなって…。」

「海ねぇ…。」

 夏の海。

 リゾートな感じでいちゃつく二人をまたも自分達に見守れと?

 そう想像して天真と蘭は視線を交わす。

「あかね。」

「何?」

「お前さ、そろそろ頼久と二人で行く、くらいのこと考えろよ。」

「考えてるけど…。」

 考えてるのかよと突っ込みたい気持ちをこらえて天真はまた溜め息をついた。

「でも、頼久さんとは夏休みになったら毎日二人でいられるし、だったらお出かけはみんな一緒の方が楽しいかなって。ダメ?都合悪い?」

「毎日二人でいられるね、なるほどね、ハイハイわかりました、いいよ、私は、海、いいじゃない、いいんだ、恋人とかいないし、お兄ちゃんで我慢するんだ。」

「俺は行くこと決定かよ…。」

「行くでしょ?」

「…行くけどな…。」

 そんな蘭と天真の会話を聞いてあかねは楽しそうに微笑んだ。

 そんな笑顔を見せられては、また二人につき合わされるのかと言いたかった蘭と天真もそんなことはいえなくて、結局その顔には笑みが浮かんだ。

「じゃぁ、あかねちゃんはバストアップを気にする必要はないってことになったから、どんな水着にするか考えよう!やっぱビキニだよね?お兄ちゃん!」

「だから、なんで俺に聞くよ…。」

 こうして3人はわいわいがやがや、夏に向けて楽しい話で盛り上がるのだった。





「頼久さん、今年の夏は海に行きませんか?」

「海、ですか?」

 週末、頼久は自宅でゆっくりあかねと二人の時間を楽しんでいた。

 紅茶をいれて一息ついて、あかねの最初の一言がこれだった。

 頼久は綺麗な空と海を背後に立つあかねを想像してその顔に笑みを浮かべた。

「頼久さん海嫌いですか?」

「いえ、喜んでお供させて頂きます。」

「お供じゃないんですけど…で、デートっていうか…あ、みんなも誘ってあるんですけど…。」

「そうですね、そういう場所には大人数で行った方が楽しそうです。」

 そう言って微笑む頼久は本当に楽しそうで、あかねはほっと安堵の溜め息をついた。

「この前、この話で天真君のところで盛り上がったんです、で、絶対行こうって話になって…。」

「天真のところ、ですか?」

「はい……えっと、別に内緒にしてたわけじゃないですよ?その、蘭にちょっと相談したいことがあって、それでそこに天真君もいてたまたま…。」

「相談…神子殿には何か悩みがおありだったのですか?」

 恋人に心の底から心配そうな顔でのぞきこまれて、あかねは「うっ」と言葉につまってしまった。

「おありだったのですね…。」

「そ、そんなたいしたことじゃありませんからっ!」

「私のような者ではお役に立てませんでしたか…。」

「ち、違います!」

 否定してみてもどんどん落ち込んでいく頼久。

 これはちゃんと説明しないとと焦ったあかねは何故蘭に相談したのかも忘れて説明を始めてしまった。

「あのですね、頼久さんじゃ役に立たないから相談しなかったんじゃなくて、頼久さんに相談するのはちょっと恥ずかしいというか…。」

「恥ずかしい…私が相手では恥ずかしいのですね…。」

「違います!えっと…その…。」

「どのような時も神子殿のお力になりたく…。」

「わ、わかりました!話しますから!あのですね…夏に海に行くと水着を着ることになるし…その…私、あんまりスタイルに自信がなくて…それで…。」

「スタイルですか?」

「はい…。」

「神子殿は理想的な体格をしておいでかと思いますが…特に太っていらっしゃるようにはお見受けしません。」

「ふ、太ってるとかじゃなくて…というか逆というか…。」

「は?」

「む、胸が小さいな、と……頼久さんが胸の小さい女の子嫌いだったら困るから……その…今から大きくする努力を…しておいた方がいいのかな…とか……。」

「……それを天真に相談なさったのですか…。」

「ち、違いますからっ!蘭に相談にのってもらってて…その場にいたからたまたま天真君も聞いちゃっただけです…。」

 あかねが必死にそういうと頼久はやっと安堵の溜め息をついた。

「そのようなことでしたら気になさる必要はありません。私は女性の胸の大きさを気にしたことはありませんし、神子殿のお側にいるだけで幸福です。ですからどうかそのようなことはお気になさらず。」

「はぁ…天真君の言ったとおりだった。」

「はい?」

「天真君が頼久さんは女の子の胸の大きさなんか気にする人じゃないから安心していいって言ってくれたんです。」

 さすが真の友と頼久が満足そうな笑みを浮かべてうなずく。

 それを見てあかねもすっかり安心したのか、顔にはいつものやわらかな笑みが浮かんだ。

「やっぱり頼久さんに最初から聞けばよかったんですね。」

「はい、何も心配なさらずになんなりとお尋ね下さい。」

「はい。じゃ、聞いちゃおうかな。」

「何かまだ私に聞きたいことがおありなのですか?」

「はい。えっと、頼久さんはワンピースとビキニだったらどっちがいいですか?」

「は?」

「水着です。せっかくだから新しいのを買おうっていう話になって、来週、蘭と一緒に買いにいくことになってるんです。頼久さんはワンピースとビキニどっちがいいですか?よかったら何色がいいかも教えてもらえると助かります。一人で探すと迷っちゃって…。」

 そう言ってあかねが顔を赤くして微笑むと、頼久は眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。

 そんなに難しい質問だっただろうかとあかねが小首を傾げる。

「頼久さん?そんなに真剣に悩まなくても…。」

「いえ……その…水着を着ないという選択肢はないのでしょうか?」

「はい?海に行くのにですか?」

「はぁ…。」

 あかねはわけがわからなくてキョトンとするばかりだ。

 頼久はそんなあかねを見て深いため息をつくと、本当に苦しそうな表情で口を開いた。

「神子殿が楽しみになさっているのはよくわかるのですが…その…水着姿で海に入るということは…その姿を海に着ている皆が目にするということになりますので…。」

「あぁ…。」

 ここでようやくあかねは理解した。

 あかねにしてみれば「頼久に見られる」ことだけが気になっていたのだが、頼久にしてみると「不特定多数の人間(特に男)」にあかねの水着姿を見られるという解釈になるのだ。

 そのことに気づいて、あかねは真剣に悩んでいる頼久にくすっと笑って見せた。

「わかりました。頼久さんが嫌なら水着を着て泳ぐのは止めます。ミニスカートかなんかにして、足だけ海に入ることにします。」

「神子殿…申し訳ありません、私のわがままで…。」

「気にしないで下さい。別に泳ぎたくて海に行くわけじゃないですし。私は頼久さんと楽しい思い出が作れればそれでいいんですから。」

 そう言ってにっこり微笑むあかね。

 頼久はそんなあかねに思わず見惚れる。

 自分のわがままをいともたやすく聞き入れてくれた恋人の笑みは、慈悲深く清らかであまりにも美しく…

 やはりあの京を救った尊きお方よと頼久が黙ってあかねに見惚れていると、さすがにあかねがそんな頼久に気づいて再び小首を傾げた。

「頼久さん?どうしたんですか?」

「いえ、やはり神子殿は天女の如き尊きお方と…。」

「なななな、何をどうして今そういう発想になるんですかっ。」

 顔を真っ赤にしてあかねが抗議すると、今度はその姿が幼くも愛らしくてならず、頼久はそっとあかねを抱き寄せた。

「よ、頼久さん、今日の頼久さんはいつにも増して恥ずかしいです…」

「申し訳ありません、今度は神子殿があまりにも愛らしく、いとおしく思われましたので。」

 優しい声でそういわれては顔を真っ赤にしながらもうあかねに抵抗はできない。

 だから、もう抵抗することはあきらめて、さっき許可をもらった質問を更にしてみることにした。

「頼久さん、もう一つ聞いてもいいですか?」

 腕の中で自分を見上げるあかねの瞳の輝きがまた愛らしくて、頼久はその顔に優しい笑みを浮かべてうなずいた。

「はい、どうぞ、なんなりと。」

「海まで行く間に食べるお弁当、私と蘭と詩紋君で作ることにしたんです。おかずは何がいいですか?」

「私は…。」

「神子殿がお作りになるものならなんでも、は、ナシです。」

「ナシですか?」

「はい、ナシです。ちゃんと頼久さんが食べたいものを言ってください。頑張って練習しますから。」

 そう言ってきりりと見上げられては今度は頼久に抵抗する術はない。

 本当にあかねの作るものならばなんでもかまわない頼久だが、それではこの恋人は満足してくれそうにないと悟って、頼久は慎重に考えながら弁当のおかずをあげていくのだった。








管理人のひとりごと

鼻血ふいたりはしません、うちの頼久さんは(爆)
あかねちゃんの水着姿を想像しても冷静なんです(^−^)
冷静に心配してるんです(’’)
神子殿をお守りするのが第一ですから!
もちろん、みんなで海へ遊びに行くってお話しも、時期になったら書こうかなと。
管理人が忘れてるようだったら拍手コメントとかメルフォとかで催促してください(’’;(マテ




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