
あかねは一人、縁に座ってぼーっと庭を眺めていた。
すっかり秋も深まって、庭の花は枯れてしまい、寂しげな風情だ。
肌寒さは一層増して、あかねは十二単姿でじっと縁に座っていた。
側に置かれた火桶は藤姫があかねの身を案じて送ってきたものだ。
寒いのならば局の中に入って妻戸も閉めてしまえばいいのだが、あかねにはそれができない理由があった。
この三日というもの許婚の頼久の顔を見ていないのだ。
理由は簡単、お仕事、である。
藤姫の父親である左大臣が帝に召されて三日、内裏から出てくることができず、その警護をしている頼久も任務から離れることができないためにあかねはこうして一人でぼーっとしていることになってしまった。
別に、やることがないわけではない。
文字の練習、香合わせ、歌を詠む練習、やることはいくらでもあるのだが、頼久に会えないとなるととたんにやる気が失せてしまうあかねなのだ。
最初のうちはそれでも女房達が気を利かせて色々と話しかけたり、遊びを勧めてくれたりしていたのだが、話しかけられたあかねの方が常に上の空とあっては女房達も自分達ではあかねの機嫌を直すことはできないと諦めてしまった。
ここはもう、許婚に早く会いに来て頂くしかないと女房達さえもあきらめたこの日、あかねは朝から縁でぼーっと庭を眺めて数え切れないほどの溜め息をついていた。
溜め息をついても頼久が現れるわけではないし、仕事が早く終わるわけでもないのだが、それでも溜め息は止められない。
寒いなら中に入ればいいのだが、もしかしたら仕事を終えた頼久が会いに来てくれるかもしれないと思うと縁から離れることもできない。
というわけで、こうしてあかねは着膨れて縁に座っているしかできないのだった。
「まったく、神子殿…。」
「あ、友雅さん。」
突如として現れた地の白虎にあかねは久々の笑顔を浮かべて見せた。
共に命をかけて京を救った仲間は今でもあかねにとっては大切な人に違いはない。
友雅はというと相変わらず手に持った扇子をもてあそびながら優雅な足取りでやってきてあかねのすぐ隣に座った。
「こんなところでは寒いだろう?」
「そうなんですけど…。」
「頼久を待っているのかな?」
「待ってるっていうか……こうしてないと落ち着かないだけで…。」
「噂に聞いたとおりだね。」
「噂、ですか?」
「藤姫がね、神子殿がそうして無理をしてこの寒いのに縁で頼久を待ち続けていると心配していてね。」
「あぁ…火桶、送ってもらっちゃいました。」
そう言ってあかねは苦笑した。
自分を姉とも慕ってくれている藤姫に心配をかけているのは申し訳ないと思うのだが、それでもどうしても縁から離れる気にはなれなくて。
「帝が左大臣殿を離して下さらなくてね。」
「はい?」
「つい先程まで私も帝の御前にいたのだけどね、私だけ先に下がらせて頂いたのだよ。女人と逢瀬の約束があるからと言ってね。」
「えぇーーー。」
この京の支配者、一番偉い人、帝との対面を女性との待ち合わせのために中断していいのかとあかねは目を丸々と見開いて驚いた。
そんなあかねに友雅は綺麗にウィンクして見せる。
「まぁ、私は帝に信用して頂いているからね。それに、こう京が平和だと私の仕事などないようなものだし。それに引き換え、平和になったからこそ左大臣殿はお忙しいようでね。」
「そ、そういうものなんですか?」
「京に危険があれば皆で一致団結して乗り切ろうともするが、一度平和になれば皆己の利益のことしか考えなくなるものさ。そうなればまつりごとというものは乱れると相場は決まっていてね。左大臣殿はその辺の面倒をみるために帝に頼りにされているというわけだよ。」
「凄い人なんですね、藤姫ちゃんのお父さんって。」
と、感心することしきりなあかねを見て、友雅はくすっと笑ってしまった。
まつりごとの汚さなどこの神子には無縁であるかのような無邪気な顔をしていたからだ。
だが、馬鹿にされたと感じたらしいあかねはぷっと頬をふくらませてむくれてしまった。
「友雅さん、今、私のこと子供だって思ったでしょ。」
「子供だと思ったわけではないよ。ただ無垢な方だと思っただけでね。」
あかねが上目遣いに恨めしそうに眺めてみても、遥か年上で女性の扱いに長けたこの少将には通用しない。
友雅はすっとあかねの間近に顔を寄せると艶な笑顔を浮かべて見せた。
今度はあかねが顔を真っ赤にしてその身を少し後ろに引いてしまう。
「まったく、可愛らしいね、神子殿は。」
「友雅さんっ!」
「というわけで頼久はしばらくこちらへは来られないだろう。神子殿には中に入ってちゃんと休んでもらいたいのだがね?」
「それは…まぁ…お仕事だから来られないっていうのはわかってるんですけど……。」
「わかっていてもここで待たずにはいられないかい?」
「…はい……。」
小さい声でそう返事をしたあかねは深い溜め息をついて欄干にもたれかかった。
友雅は庭を一度見回してからふっと微笑むとあかねの腕を取ってその体を起こさせ、あかねと欄干の間に自分の体を滑り込ませた。
「友雅さん?」
「そのように憂い顔でもたれかかるなら、望むらく私の胸に、と思ってね。」
「またそんなこと言ってっ!」
くすりと笑った友雅はあかねの腕をくいっと引っ張ってあっという間にその体を自分の腕の中に閉じ込めてしまった。
だが、あかねも怨霊を封印し、京を救った龍神の神子、というよりはこの京の女性とは違って闊達な少女なだけに黙ってはいない。
友雅の胸をどんとついて器用にその腕から逃れたあかねは、心底不機嫌そうな顔をして見せた。
「友雅さん!私は頼久さんの許婚なんですからっ!そういうこと簡単にするの止めてください!」
「許婚だからといって私が懸想してはいけないという道理でもないのだがね。」
「ここではそうでも、私の常識ではダメなんです!」
「はいはい。神子殿の仰せとあらばこれからは控えるとするよ。」
そう言ってくすくす笑う友雅が恨めしくて、あかねはしばらく不機嫌そうにその綺麗に整った顔を見上げていたが、結局、数刻後にはまた欄干にもたれかかって溜め息をついてしまった。
「これは重症だね。」
「言わないで下さい、自覚してます……。」
「私が左大臣殿に話をしてみようか?頼久を解放してくれるようにと。このままでは許婚が焦がれ死にしてしまうと言えば左大臣殿も頼久を離して下さるかもしれないよ?」
「や、止めてください、そんなことっ!恥ずかしい上に、そんな頼久さんに迷惑かけるようなことできません!」
「わかったわかった。神子殿の気持ちはわかったから落ち着いてくれないかい?」
苦笑する友雅を見てようやく我に返ったあかねは深い溜め息をついた。
「すみません。」
「まぁ、神子殿も頼久を思ってのことだろうからかまわないが、それにしてもこのままというのは神子殿の体がもつまいよ?」
「頑丈さには自信あります。」
そう言って儚げに微笑むあかねを見て、友雅は一瞬表情を曇らせたが、そんなことはあかねに悟らせずにすぐにいつもの艶な笑顔を取り戻した。
「まぁ、私などでも気晴らしになるのなら呼んでほしいね。神子殿のおんためとあらばいつでも参上するよ?私は頼久とは違うからね。それこそ、帝の御前に在る時でもすぐにこちらに参上するさ。」
「友雅さんはそれはお仕事より女性をとるんでしょうけど、頼久さんは真面目なんです、真面目に真剣にお仕事してるんですっ。」
「はいはい、わかったよ。これ以上惚気られてはたまらないからね、退散するとしよう。」
「の、惚気てなんていないですっ!」
抗議するあかねにはかまわずにからからと笑い声をたてながら友雅は去っていった。
「もう、友雅さんったら。」
とむくれてみたものの、友雅がいなくなってしまうとあかねが今いるこの縁はひどく静かでさみしくて。
誰もいない庭先を見つめてあかねはその目にうっすらと涙さえ浮かべてしまうのだった。
友雅が再びあかねの元を訪れたのは三日後のことだった。
友雅自身はこんなに早くあかねの元を訪れるつもりはなかったのだが、雪が降ろうと風が吹こうと毎日縁に出ているというあかねの話を聞いて心配でならないと藤姫に涙ながらにうったえられては様子を見にこないわけにはいかなくなったのだった。
幼い姫の泣き顔を思い浮かべて苦笑した友雅はだが、縁に座って肩を震わせているあかねの姿を見つけてその秀麗な顔を歪めた。
泣いている。
多くの女性と逢瀬を重ねてきた友雅にはすぐにわかった。
あかねの肩が震えているのは泣いているからだ。
この京を命がけで守った尊き神子は今、肩を震わせ、声を殺して泣いている。
どうしようもない怒りと憤りと愛しさとに狩られて友雅は何も言わずにあかねの側に膝をつくとその華奢な体を抱き寄せていた。
「と、友雅、さん?」
「黙って…。」
耳元で囁かれる友雅の艶のある声に思わずあかねは顔を赤くしてしまった。
涙で濡れた顔を見られるのが嫌で顔を上げることもできない。
すると友雅があかねをかき抱く腕の力は少しずつ強まって…
「友雅さんっ!」
あかねは慌てて力いっぱい友雅を突き放した。
「すまなかったね。神子殿が泣いておいでのようだったから、つい、ね。」
そう言って苦笑する友雅を見たあかねは何故かまた涙を流し始めてしまう。
何があったのかと友雅は再びその整った顔を歪めた。
「そんなに泣きはらすほど、何があったのかな?」
「ずっと…その……頼久さんに会えなくて……。」
「あれからずっと来ていないのかい?頼久は。」
「はい……。」
「……神子殿、筆と紙を借りるよ。」
「はい?」
あかねが戸惑っているうちに友雅はさっさと御簾の内に入ると、あかねの筆と紙を使って手紙らしきものを書いてそれを使いの者に渡してしまった。
「あの、友雅さん?まさか…。」
「心配しなくてもいいよ、神子殿。私は別に左大臣殿に頼久を解放してほしいと頼んだわけではないからね。」
「えっとそれじゃぁ今のは…。」
「神子殿が気にするようなものじゃない。それより、神子殿はそんなに、涙を流して泣くほど寂しいのかい?」
「えっと……寂しいと言うか……こんなに長い間会えないのが初めてだから…もしこのままずっと会えなくなっちゃったらどうしよう?とか、もしかしたら頼久さんは私が会いたいって思うほど私に会いたいって思ってくれてないのかな?とか色々考えちゃって…もし、頼久さんに嫌われたりしたら、私どうしようって……。」
なるほど思考が悪い方へばかり傾くようになってしまったということか。
と、心の中でつぶやいて友雅は溜め息をついた。
全ての八葉が慕ってやまない神子殿を独り占めにしておいて、頼久め、何をやっているのか。
落ち込むあかねに対して友雅は不機嫌そうに眉根を寄せる。
「頼久さんと一緒にいたくてこの京に残ったのに、その頼久さんに嫌われたりしたら…。」
そこまで言ってあかねはもう泣き出しそうだ。
あかねにしてみれば、この京では頼久が一番側近くにいつもいた人物だ。
しかもそれが想い人とあっては一日離れているだけでも寂しいというのに、今回はもう一週間近く会っていない。
自分は今にも許婚に会いに飛んで行きたいほどなのに、一方の頼久はそこまでの想いはないのかと思うとあかねの心は重くふさぎ込むばかりなのだ。
頼久と共に在りたいからこそこの京に残ることを選んだ。
それがあかねの全てだ。
その全てを失ったら…
「神子殿、忘れないでもらいたいね。」
今までに見たことがないほど悲しそうなあかねを見つめていた友雅は、とうとう我慢ができずに口を開いた。
「はい?」
「この京には我々もいる。元八葉の我々がね。こう見えて、元八葉は皆、神子殿を心から慕っているのだよ?」
「そ、それは…。」
「恋人としてと言ってるのではないよ、共に戦った同士として、この京を救ってくださった神子殿として、そして何より我々に安らぎを与えて下さる女性としてね、八葉は皆、神子殿を慕っているし幸せを願っている。」
「友雅さん……。」
「もし頼久が神子殿を泣かせるようなことをしたら、すぐに私でもいい、他の誰でもいい、元八葉に話しなさい。きっとなんとかしてあげよう。もし、頼久が神子殿を捨て置くようなことがあったらその時は…。」
「その時は?」
小首を傾げるあかねの肩をそっと抱き寄せると、友雅はその可愛らしい耳元に唇を寄せた。
「私に言いなさい。きっと頼久の代わりに私が幸せにしてあげるから。」
「友雅さんっ!」
「友雅殿!」
文字通り飛びのいて友雅をにらみつけようとしたあかねは、庭先から聞こえた声に驚いて慌てて声の主へと視線を向けた。
庭先、そこに立っていたのは源頼久。
あかねが待ち焦がれていたその人だ。
どうやら怒っているらしい頼久は眉間にシワを寄せて何故か友雅をにらみつけている。
「頼久、さん?」
「友雅殿!お戯れが過ぎます!」
本気で怒っているらしい頼久に比べて縁に座り欄干にもたれた友雅はというと、相変わらず艶な笑みを浮かべて余裕だ。
「お戯れも何も、私は本気だよ。頼久が神子殿を泣かすからいけない。」
「そのことではありませんっ!」
「おや、では、私は本気でもいいわけかい?」
「それも違いますっ!」
そう叫んで頼久はつつと階を上るとあかねの側に片膝をつき、きょとんとしているあかねの顔をマジマジと見つめた。
「お体は……。」
「はい?体?全然元気ですけど?」
ほっと溜め息をついた頼久はすっと友雅にまるで敵に向けるかのような鋭い視線を向けた。
「友雅殿!神子殿が明日をも知れぬ病などとっ!お戯れが過ぎますっ!」
「えぇぇーーーーっ!」
驚いて叫び声を上げたのはあかねだ。
驚きで目をいっぱいに見開いているあかねに友雅は綺麗にウィンクして見せた。
「明日をも知れぬ病だと思うがね、恋の病と言うものは。」
「友雅殿っ!」
「友雅さんっ!」
二人に似たような恐い顔でにらまれて友雅は思わずクスッと笑みを漏らす。
「実際、神子殿はさきほど儚くなってしまいたいと思っておいでのようにお見受けしたがね?」
「そ、そんなことは……。」
「神子殿っ!」
「あー、頼久、そういうことは私が退散してからにしてくれないか。」
思わずあかねを抱きしめようとした頼久の手が途中でぴたりと止まった。
「私を恨むのは勝手だが、勤めが終わっているというのに三日も顔を見せない頼久が悪い。何を考えているか知らないが、私の白雪を泣かすような真似は控えてもらいたいね。あまりそういうことをしていると、本当に本気になるよ?」
「勤めが終わっていたって、どういうことですか?」
何がなんだかわからないという顔のあかねに対して眉間にシワを寄せる頼久。
一方、その顔に不敵な笑みを浮かべた友雅は優雅な身のこなしで立ち上がると、頼久においでおいでとでも言うようにヒラヒラと手を振って見せた。
いぶかしみながらも頼久が友雅に歩み寄る。
「私もいつまでも物分りのいい大人をやっているつもりはないからね。」
あかねには聞こえないように頼久の耳元でそうつぶやいた友雅は、ニヤリと笑って去っていった。
その心の中で「私はいつまで君達のお守りをしなきゃならないんだい」とつぶやきながら。
「あの、頼久さん、お仕事、終わってたんですか?」
「あ、はぁ、その……。」
あかねの問いかけに我に返った頼久は振り向いてぎょっとした。
縁にペタンと座っているあかねが今にも泣き出しそうな顔をしていたからだ。
頼久はあわててあかねの側に駆け寄り、その前に片膝をついた。
「何か、用事とかあったんですか?」
「はい?」
「だって…全然来てくれなかったから……。」
最後の方は言葉になるかならないかというくらい小さな声でそういったあかねは急にうつむいた。
「いえ、その……先日、仕事が終わってすぐにこちらに参上したのですが…。」
「へ?でも、私…。」
「友雅殿と…その…抱き合っておいでのように見えましたので……。」
「はいぃ?」
「ご挨拶をせずに帰宅致しました…。」
深く頭を垂れる頼久を見つめながらあかねは先日の自分を振り返る。
三日前、あかねがいつものように縁で頼久を待ち焦がれているところへやってきた友雅はというと、いつものようにあかねの側に座って何やらからかっていったわけで…
そこから先を思い起こしてみると、自分と欄干との間に身を滑り込ませたりいきなり顔を寄せてみたりと、確かに友雅はあやしい行動をしていたような気がする。
もしいつものように頼久が庭からやってきたとしたら角度的に抱き合っているように見えた、かもしれない。
「えっと、それは、たぶん物凄く誤解で……。」
「誤解、ですか?」
「物凄く誤解だと思います……私、友雅さんと抱き合ったりなんてしません……頼久さんとだってそんなことしてないのに……。」
そりゃ友雅さんに油断した自分も悪いかもしれないけれど…
などと考えて、そこであかねはある事実に気付いた。
もし、抱き合っていたとしても、許婚に手を出されたのだから、その場で怒るとか注意するとか、たとえば誤解したとして自分と言うものがありながらなにをしているのかとあかねを責めてもいいものじゃないだろうか?
普通、恋人ってそうするものじゃないだろうか?
と、考えてあかねは上目遣いに頼久を見つめた。
するとそこには苦しそうな表情の頼久が。
「頼久さんは物凄く誤解してたと思いますけど、誤解だったとして、どうしてそのまま帰っちゃうんですか、友雅さんを怒るとか私を怒るとか、許婚なんだし、それくらいはしてくれても……。」
「いえ、そのようなことは……私と友雅殿とではその…身分も違いますし…。」
「身分が違う相手だったら許婚とられちゃってもいいんですかっ?!」
さすがのあかねもこれには思わず声が大きくなった。
「………………良くは、ありません…。」
しばしの沈黙の後放たれた頼久の声は、低く掠れて、まるで血でも吐き出しそうだった。
深く眉間に刻まれたシワ、震える握り締められた手。
自分の想いと身分との間で頼久がどれだけ苦しんでいるのかがあかねにもはっきりと見てとれた。
だから、もう身分なんて関係ない、あかねは自分のものだと言ってほしいなんていうわがままは言えなくて、あかねはそっと頼久の方へ近寄ると震えるその手を両手で包み込んだ。
頼久の視線がはっと上がってあかねを捕らえる。
あかねはできるだけ優しく、できるだけ穏やかに、そう、自分で意識してできるだけの笑顔を頼久に向けた。
「ごめんなさい。私、ちょっと頼久さんに会えないだけでなんか凄く落ち込んじゃって、凄く会いたくて、会いたい会いたいってそればっかり考えてたらなんだか悪いことばかり思いついちゃって、それで友雅さんに励まされてただけなんです。誤解されるようなことしてごめんなさい。」
あかねはまたぺこりと頭を下げてから微笑んで見せる。
これで想いは伝わるはず。
自分はただただこの人に会いたかっただけ、失いたくなかっただけだと。
「神子殿…。」
「はい?」
「その……私が参上しなかったばかりに神子殿のお心を傷つけるようなことに…。」
「あ!違いますっ!私が勝手にその…もし頼久さんがもう会いに来てくれなくなったりしたらどうしようとか、頼久さんに嫌われちゃったらどうしようとか、そういうふうに悪い方へ悪い方へ考えちゃっただけで…。」
「神子殿!」
「は、はい?」
今度はあかねが握っていた頼久の手にあかねの手はぐいっと引かれて、バランスを崩した小さなあかねの体はすっぽりと頼久の腕の中におさまってしまった。
ぎゅっと抱きしめられて顔を赤くしたあかねは耳元で頼久の囁くような声を聞いた。
「私が神子殿を嫌うだの、もう会いに来ないだの、そのようなことは絶対にありえません。仕事がございますのでお会いできない日もあるかもしれませんが、会えない時も私の心はいつも神子殿お一人を想っております。たとえこの世が滅ぼうともこの想いが滅ぶことはございません。ですから、神子殿はそのようなこと、二度とお考え下さいますな。」
「……はい……えっと…。」
頼久の恥ずかしい発言に真っ赤になりながらもあかねは何か言いたげだ。
「まだ、何か?」
「じゃぁ、今度はお仕事が終わったらすぐ会いに来てくれますか?」
「もちろんです。この度はその……神子殿と友雅殿の仲睦まじい様を見るに耐えかね、なかなか参上することができなかっただけですので…。」
「頼久さんっ!」
「は、はい。」
急に体を離してきりっと怒ったかのような顔になったあかねに頼久は怯えたような視線を向けた。
今度はどれほどこの愛しい人の機嫌を損ねたのかと不安になったのだ。
「私だって頼久さん以外の人と仲睦まじいなんてことは絶対ないんですから、そういう気の使い方、しないで下さい!」
びしっと指を突きつけんばかりの勢いでそう言ったあかねは可愛くむくれて見せていて、その表情があまりに愛らしくて頼久は再びあかねを抱き寄せる。
「御意。」
耳元でそれだけ言った頼久はあかねに軽く口づけて、すぐにそのまま腕の中に閉じ込めて、真っ赤な顔のあかねをしばし抱きしめ続けるのだった。
管理人のひとりごと
今回はあかねちゃんが失恋するかも症候群になった場合です(笑)
で、こういう内容だとどうしても少将様が出てきます(’’)
大変ね、少将様、ずっと二人の面倒見続けで(^^;
京の場合は身分がありますからね、頼久さんはちょっと引き気味。
八葉として共に戦ったとしても身分は身分、そういうこと、頼久さんは気にしそうです。
でも、最終的にはあかねちゃんを誰にも渡さないとは思います(爆)
プラウザを閉じてお戻りください