サバイバル
「よーっし、全員そろってるな!」

「お兄ちゃんなに張り切ってんのよ。」

「団体行動はリーダーシップとるヤツ必要だろうが。」

「たかがハイキングで浮かれすぎ!」

 森村兄妹がそんな会話を交わすのをあかね、頼久、詩紋の三人は苦笑しながら見守っていた。

 いつものように夏休みを満喫するべく集まったいつものメンバー5人は今、それぞれリュックなど背負っている。

 たまには思いっきり体を動かすレジャーがいいと主張した天真の意見が通って、5人はハイキングにやってきたのだ。

 張り切る天真を先頭に5人はちょっとした山道を歩き出した。

 人気のトレッキングコースだから辺りにも同じくハイキング目的で歩いている人がちらほら。

 天気は快晴、木々の間を抜ける風は緑の香りがして心地いい。

「神子殿、荷物は重くありませんか?」

「大丈夫です。だって重いものみんな頼久さんが持ってくれたじゃないですか。」

「相変わらず頼久さんてば過保護だなぁ。あかねちゃんはこう見えて意外と頑丈だから大丈夫!お兄ちゃん、かわいい妹の心配は?」

「お前は…心配される前に重いものはみんな俺に持たせただろうが…。」

 言いだした天真と妹の蘭はずっとこの調子でなんだかやたらと楽しそうだ。

 ゆるやかな上りの山道は5人にとってはちょうどいい運動だ。

「うわぁ、かわいい花。」

「綺麗な花だね。」

「名前わからないのが残念。」

「写真とっておけばいいんじゃない?後で図書館で図鑑見たらわかるかもしれないよ?」

「詩紋君あったまいい!そうする!」

 あかねはリュックから携帯を取り出すと手当たりしだいに気に入った花を見つけては写真をとっていく。

 山道には見たこともない可愛らしい花がたくさん咲いていて、そのたびに立ち止まって写真を撮るあかねを頼久は優しい笑顔で見守る。

「おい、あかね、そんなことしてたら日が暮れるぞ。」

「ごめんごめん。」

 今回、リーダーを自称する天真に促されてやっとあかねが写真をそこそこに切り上げる。

 それでも歩き出してまたすぐに新しい花を見つけては立ち止まるので、天真も蘭も深い溜め息をついて急かすのをあきらめた。

「おい、頼久、お前あかねについてろ。このままじゃ昼飯食いっぱぐれるから、俺達は先に行って食事の準備しとく。」

「承知した。」

「えー、大丈夫だよ。」

「お前はいいからゆっくり写真取りながらこい。蘭、詩紋、行くぞー。」

『はーい。』

 こちらも心得たもので、蘭と詩紋は天真についてさっさと歩き出した。

 もちろん、あかねと頼久の二人の間に置いていかれてはたまらないからだ。

 急いで後を追おうとするあかねの腕を頼久が優しく引きとめた。

「急ぎましょうよ。」

「天真の気遣いです、少し遅れて参りましょう。」

「気遣い?なのかなぁ。」

「神子殿はお心おきなく花の写真を撮りながらお進み下さい。」

「ん〜、わかりました。じゃぁ、ちょっとだけ。」

 あかねにしてみればとりあえず頼久が一緒にいてくれるなら何の心配もないので、ここは素直にゆっくり行くことにしたのだった。

 かわいい花の写真が撮れればそれにこしたことはない。

 頼久はというと「神子殿」を口にするたびに周囲から不思議そうな視線を送られることも気にせずに、楽しそうに微笑を浮かべてあかねの後をついていく。

 あかねはというと見たことのない花はないかとキョロキョロ辺りを見回し、綺麗な花を見つけては駆け寄って写真を撮るを繰り返し…ついに…

「きゃっ」

 とうとう小さな悲鳴をあげてつまずいた。

 もちろん、すっと伸びた頼久の腕がしっかりとあかねを受け止めて転ばせなどしない。

 体勢を立て直したあかねは真っ赤になって頼久にぺこりと頭を下げた。

「はしゃぎすぎでした、ごめんなさい。」

「慣れておりますから。」

「もう、頼久さんったら、それじゃまるで私がいつも転んでるみたいじゃないですか。」

「いえ、神子殿をお守りするのは私の役目ですので。」

 悪戯っぽくそう言って微笑む頼久に一瞬見惚れて、すぐにはっと我に返ったあかねは真っ赤になりながら歩き出す。

 その後を頼久は幸せそうな顔でついていく。

 そんな微笑ましい二人を周囲の人々は優しい笑顔で見送った。

 男の方の口調が何やらおかしいことに気付いてはいても、話しかける人間はいない。

 どこからどう見てもアツアツな状態の二人に話しかけるような勇気ある人間はそうはいないのだ。

 結局、天真達と昼食を作る予定になっている炊事場で合流したのはそれから1時間ほど後になった。

「どうしたの?天真君。」

 合流してテーブルに荷物を置いたあかねはどうやら竈作りに四苦八苦しているらしい天真をみつけた。

 レンガを積み上げては小首をかしげ、また積み直すを繰り返していた天真は、やっと合流したあかねと頼久を見てため息をついた。

「どうもこうも、火はあるって聞いてたのによ、竈作るところからって…。」

「天真、任せろ。」

 そう言って荷物を下ろした頼久は天真に代わって4人が見守る中、すぐに竈を作り上げる。

 ただただボーっと見守っていた4人は頼久が竈に火を入れる頃になってようやく手伝い始めた。

「頼久、お前さすがだな。作りなれてるというかなんというか。」

「竈を作るのはこれが初めてだが、外で火をおこすことはよくあったからな。」

「なるほどな。」

 感心しながら天真が手伝うことで竈には順調に火がおこり、それを見て安心した残る3人は食材の準備を始めた。

 5人が選んだ本日の昼食はカレーだ。

 5人でゆっくりおしゃべりでもしながら煮込んで、おいしいカレーを食べようという計画なのだった。

 天真と頼久が素早く火の準備をし、詩紋をメインにあかねと蘭が手伝ってカレーの準備は着々と進み、鍋を火にかけて煮込み始めると5人はやっと一息ついて竈の周りに輪になって座った。

 5人とも手には麦茶を入れた紙コップを手に、やっとゆっくりと辺りの風景など眺めることができた。

「けっこう大変だなぁ、外で食事作るのは。」

「ワイルドそうに見えてお兄ちゃんも結局は都会っ子だからねぇ。」

「お前に言われたくねぇよ。」

「でもやっぱり頼久さんは凄いよね。慣れてるって感じ。」

「うんうん。頼りになるよね。」

 それはもう嬉しそうに詩紋の意見に同意するあかねに天真は深い溜め息をつき、そんな天真を蘭と詩紋が哀れみの目で見つめた。

 あかねに頼りになると言われて頼久は上機嫌だ。

「お前は人前で堂々とのろけんな…。」

「の、のろけてなんかないよ!」

『のろけてるのろけてる。』

 天真、蘭、詩紋の3人に合唱されてさすがにあかねも何も言えなくなってしまった。

 助けを求めようとあかねが頼久を見てみると、そこには嬉しそうに微笑んでいる頼久の姿が…

「な?自分がのろけたってわかったか?こいつのこの嬉しそうな顔といったらもう。」

「嬉しそうだと何かいけないのか?」

「いや、悪くはねーよ…悪くはねーんだけどな…。」

 一人で果てしなく脱力していく天真に頼久が訝しげな表情を浮かべて見せるのを残る3人は苦笑しながら見守った。

 この二人、いつもこうしてどことなく行き違いがあるように見えるが、これはこれでどうやらじゃれ合っているということらしい。

 何しろ互いに命を預けて戦ってきた相棒、真の友と認め合う仲だ。

「そんなことより、カレー、たまにかき混ぜないとこげちゃうんじゃない?」

「こげるかも、交代でかき混ぜる?」

「向こうに川が流れてるらしいからお前ら行ってこいよ。俺が混ぜとく。」

 蘭とあかねが心配しているところへ果てしなく落ち込み続けていく天真の声がはさまった。

 あかね、蘭、詩紋の3人は互いに顔を見合わせる。

 このまま天真を置いていっていいものだろうか?

「鍋なら私が見ていよう。お前も川へ行ってくるといい。」

「あ、頼久さんが残るなら私も残ります。」

 と、ここで状況は一変した。

 頼久とあかねが残り、更に天真も残って蘭と詩紋が川へ行くことになると…

「お兄ちゃん、おとなしく川行こうよ…。」

「…おう、そうする…鍋はお前らに任せるわ。」

 珍しく妹の提案をあっさり受け入れた天真は蘭と詩紋を連れてさっさと川へ向かって歩き出した。

 そんな3人をあかねは小首を傾げながら、頼久は幸せそうな笑みを浮かべて見送った。

「3人とも変なの。」

「神子殿もどうぞ、気になるのでしたら川へ。」

「私は頼久さんと一緒の方がいいです。」

 そう言ったあかねは鍋の蓋を開けると、ぐつぐつと煮えている鍋をおたまでかき混ぜた。

 みんなで一緒も楽しいけれどやっぱり二人っきりも嬉しい。

 そんなことを考えているうちにあかねの顔は桃色に染まって愛らしい。

 頼久はそんなあかねが愛しくてしかたなくて、優しい笑みを浮かべて鍋をかき混ぜるあかねを見守るのだった。

 それから二人はカレーがいい感じに出来上がるまで何も言わず、ただ時折視線を交わしては微笑みあって過ごした。





 あかねはゆっくりと目を開けた。

 目を開けてすぐに目に映ったのは愛しい恋人の笑顔。

 あかねはまだ覚めきらない頭で今の自分の状況を思い返した。

 確かハイキングに行って、かわいい花の写真をたくさん撮って、おいしいカレーを食べて帰ってきたはず…

 下山して頼久の運転する車に乗っていたところまでは記憶がある。

 その車中で蘭と楽しく学校の話をしたのも覚えている。

 ところが、あかねの記憶はその車中で途切れていた。

「お目覚めですか?」

 低音の優しい声にうなずいて、あかねはゆっくり体を起こした。

 そこは頼久の家のリビング。

 あかねが寝ていたのはソファだった。

「えっと、私…。」

「帰りの車の中で気持ちよさそうに眠っておいででしたので、こちらへお連れしました。」

「そ、そうだったんですか…ごめんなさい、頼久さんに運転してもらってたのに私だけ寝ちゃって…。」

「いえ、天真達もよく眠っておりましたのでお気になさらず。私は普段から鍛えておりますのであれしきのことではたいして疲れもしません。それよりも、まだ時間が早かったので思わず神子殿をご自宅へ送り届けず、こちらへお連れしてしまいました。申し訳ありません。


「へ?別に全然かまいませんけど…でも、私全然起きなかったでしょう?ごめんなさい。」

「私は神子殿の愛らしい寝顔を拝見できましたので、この上なく幸せでしたが。」

「はぅっ。」

 あかねは急に顔を真っ赤にしてうつむいた。

 寝顔を見られるのはあかねにとってはかなり恥ずかしいことだ。

「もうすぐ日が暮れますが、夕食はどうなさいますか?」

「えっと…簡単なものでよければ私作ります。」

「お疲れなのではありませんか?お疲れでしたらもうご自宅までお送りしますが。」

「たくさん寝たから大丈夫です。今日は頼久さんに頑張ってもらっちゃったから、お夕飯くらい頑張っておいしいの作ります!」

 そう言って立ち上がったあかねはすぐにキッチンへと駆け込んだ。

 昼間ハイキングで疲れてはいても、そこは現役女子高生、まだ夕食を作るくらいの体力は残っているらしい。

 頼久はその顔にはっきりと喜びの笑みを浮かべてあかねの隣に立った。

「では、私もお手伝い致します。」

「ダメですよ、私がちゃんと作りますから、頼久さんは休んでてください。」

 そう言って少しだけ怒って見せるあかねが愛しくて、頼久はこれから料理を始めようというあかねに軽く口づけるとそのまま優しく抱きしめた。

「よ、頼久さん!」

「今少しこのままで…。」

「そ、それはいいですけど…その…晩御飯、何がいいですか?」

 頼久の腕の中で真っ赤になりながらもあかねの脳裏を占めるのは頼久に喜んでもらえる夕食のことばかりだ。

 そんなふうに気遣ってくれる恋人の気持ちが嬉しくて、頼久はあかねを抱きしめる腕に力を込めた。

「なんでも。神子殿が心を込めて作って下さるものでしたらなんでもかまいません。」

「じゃぁ、冷蔵庫にあるもので適当に、でもいいですか?」

「はい。」

「えっと…離してくれないと作れないんですけど…。」

「今少しこのままで…料理はお手伝い致しますから。」

 腕の中のぬくもりをどうしても手放すことができなくて、頼久はあかねを腕の中に閉じ込めたまましばらくうっとりと目を閉じる。

 あかねは頼久が幸せそうなのに気付いて顔を真っ赤にしながらも抵抗はしなかった。

 ただ自分を抱きしめるだけで幸せそうにしてくれる恋人が嬉しくて。

「じゃぁ、チャーハン作りますから、玉ねぎの微塵切り、手伝ってくださいね?」

「承知致しました。」

 即答する頼久に、あかねはまだしばらく抱きしめられ続けるのだった。








管理人のひとりごと

サバイバルに一番強いのは頼久さんというお話でした。
やっぱりね、そりゃ武士だし、戦場で炊き出しとかあったでしょうし。
相変わらず残る3人はあてられっぱなしです(笑)
そしてとうとう周囲から「神子殿」ってなんだ?という視線を向けられました(爆)
もちろんそこを突っ込む勇気ある人はいませんが(’’)
そして結局、あかねちゃんは頼久さんにぎゅうぎゅうされてます。
二人っきりの時はそれくらいさせてあげて下さい(’’)(マテ





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