両方とも
「ん〜、どうしよう…。」

「何をそんなに悩んでるの?あかねちゃん。」

 昼休み、屋上に集まってお弁当を広げているのはあかね、蘭、天真のいつもの3人だ。

 秋も深まってだいぶ涼しくなってきたが、まだ寒いというほどではない。

 だから、3人はよく屋上に集まって一緒にお弁当を広げていた。

 楽しい昼食の時間だというのに溜め息をついたのはあかねだ。

 蘭と天真は心配そうにあかねを覗き込んだ。

「もうすぐハロウィンでしょ?」

「あぁ、そういえばそうだねぇ。凄いかわいい飾りつけとかしてるお店あるよねって、どうしてハロウィンであかねちゃんが悩んでるの?」

「あのね、せっかくだから何かこう仮装かなんかして、頼久さんとハロウィンを楽しく過ごそうかなと思ったんだけど…何をどうしていいのか…。」

 真剣に悩んでいるらしいあかねを見て蘭と天真は溜め息をついた。

「な、何?二人とも。」

「また頼久がらみかよ…。」

「ま、あかねちゃんがそれ以外で真剣に悩むってのもあんまり考えられないけどねぇ…。」

「ちょっ、二人とも!」

「まぁまぁ、ハロウィンを楽しくといえば仮装じゃない?やっぱり。」

『仮装?』

 珍しくあかねと天真が声を合わせて聞き返すと、蘭は胸を張ってうなずいた。

「ハロウィンといえばお化けのかっこうをして人を驚かせて歩く行事じゃない!」

「ちょっと違うような…。」

「といってもあの頼久さんのことだから、並大抵のことじゃ驚かないよねぇ。」

 と、今度は蘭が考え込んでしまった。

「なんでお前が真剣に考え込んでんだ。」

「だって、お兄ちゃん思いつく?頼久さんが驚くような仮装って。」

 蘭に聞かれて天真は不敵な笑みを浮かべた。

「思いつくに決まってんだろ。こう見えても俺はあいつの真の友だぞ。」

「お、お兄ちゃん、気持ち悪い…。」

「天真君、わかるの?頼久さんが驚くような仮装って。」

「お前ら、あいつが生粋の武士で、朴念仁で、カタブツってことを忘れてないか?」

 今度はあかねと蘭が顔を見合わせて小首を傾げた。

 生粋の武士で朴念仁でカタブツだから驚くことがないんじゃないだろうか?

「あかね。」

「何?」

「メイド、巫女、ナースどれがいい?」

「へ?」

「あぁ、そういう方向ね。」

 きょとんとしているあかねとは逆にどうやら蘭は兄が言いたいことがわかったらしい。

 感心してうなずく蘭と、どうだといわんばかりの天真を見比べてあかねは考え込んだ。

 メイド、巫女、ナースとくれば…

「天真君…それって仮装じゃなくて…。」

「コスプレって言いたいのかもしんねーけど、大差ないだろ?それに、頼久が驚き、なおかつ喜ぶ!」

「喜ばない!」

 驚くかもしれないが、喜びはしない…と思いたい。

 と、あかねが心の中でつぶやいていると天真がちっちっと舌を鳴らして指を振って見せた。

「甘いな、あかね。男ってのはそういうのに弱いもんなんだ。」

「頼久さんは違います!」

「まぁ、巫女はイマイチだろうなぁ、京で和装の女はさんざん見てるだろうし。」

「そういう意味じゃなくて…。」

「でも俺の神子殿が巫女姿ってちょっとダジャレっぽくていいんじゃない?」

「蘭までそんなこと言ってないで!」

 さすが兄妹と言おうか。

 すっかり息ぴったりで楽しげな森村兄妹を見てあかねは深い溜め息をついた。

 これはもう相談になんかなりそうにない。

「まぁ、究極はあれだけどな。」

「あれって?」

 ニヤリと笑う天真に小首を傾げる蘭。

 あかねは嫌な予感がしてジト目で天真をにらみつけた。

「純白水着とか裸エプ…。」

 そこで蘭にどつかれて天真は苦笑しながらどつかれた頭を撫でた。

「お兄ちゃん!下品!」

「冗談だって、悪かった。」

「罰として、頼久さんが驚いてなおかつ喜びそうなあかねちゃんの仮装について探りを入れてくるように!」

「はぁ?」

「簡単よ、お兄ちゃんが気付かれないように頼久さんにリサーチすればいいんだよ。」

「お前なぁ…。」

「下品なこと言った罰ね!乙女二人を前に何を言い出すんだかまったく。だからお兄ちゃんはもてないんだからねっ!」

「言いたい放題だな、お前…。」

「天真君。」

 今まで黙っていたあかねに急に名前を呼ばれて天真は何かいいづらそうにしているあかねの方へ優しい視線を向ける。

 なんだかんだ言いながらあかねと妹には甘いのだ。

「どうした?あかね。」

「さりげなく聞いてもらっていい?頼久さんが驚いて、それで楽しめそうな仮装…。」

 申し訳なさそうにそう言うあかねに天真はにこっと笑って見せた。

 妹にも言われていることだし、もとよりそれくらいのことはしてやるつもりだ。

「しょーがねーなー。任せとけ、それとなく聞いといてやるよ。」

「有難う!」

 嬉しそうに微笑むあかねは輝かんばかりで、天真も思わず見惚れてしまうほどだ。

 そんな天真の腕をこづいたのはやはり蘭だった。

「な、なんだよ。」

「あかねちゃんに横恋慕なんかしたら真の友に斬り殺されるよ?」

「わかってんよ、誰がするかよ命がけでそんなこと。」

「頼久さんはそんな人じゃないよ、大丈夫だよ。」

 にこっ。

(絶対斬り殺されます。)

 楽しそうに微笑んでいるあかねに心の中でそうつぶやいた森村兄妹は無言のまますっと立ち上がった。

「さ、教室戻るぞ。」

「うん、戻ろう戻ろう。」

「ちょっ、二人とも急にどうしたの。」

 先を歩き出す二人にあかねはわけがわからないままあわててついていく。

 そんなあかねを振り返った天真と蘭の顔には優しい笑みが浮かんでいた。





 頼久は調べ物を終えて自宅への道をゆっくりと歩いていた。

 仕事の資料を図書館と書店でそろえての帰り道だ。

 夕暮れの道を一人ゆっくりと歩いて玄関の前に立って、初めて夕飯のことを考えるのを忘れていたことに気付いた。

 だが、帰宅してしまってから気付いてももう遅い。

 さてどうしようかと考えながら鍵を差し込んで回して、そこでやっと鍵がかかっていないことに気付いた。

 出かける時は間違いなく鍵をかけて出たから、鍵が開いている理由は一つしかない。

 その理由にたどりついて頼久はその端整な顔に笑みを浮かべた。

 この家の鍵を持っているのは自分ともう一人、愛しい恋人だけだ。

 頼久が扉を開けてみれば、そこにはやはり見慣れた愛しい人の可愛らしい靴があった。

「ただいま戻りました。神子殿、お待たせ致しましたか?」

 いつ訪ねてきてもらってもかまわないという意味で鍵を渡してあるから、当然あかねがやってくるとき、自分が不在である可能性もある。

 それも承知の上であかねも訪ねてきているのだが、それでもやはり不在の間、長く待たせてしまっては申し訳ないと思ってしまうのが頼久だ。

 いつもなら嬉しそうな笑顔で出迎えにきてくれるあかねが出てこないので、これは夕食の準備でもしてくれているのかと頼久はにこにこと微笑みながらリビングへ足を踏み入れた。

 もう夕暮れ時だから共にいられる時間はそう長くはない。

 一刻も早く愛しい人の姿を目にしようと急いでリビングへ入って見れば、当のあかねは何故かキッチンの食器棚の陰にかくれて顔だけ出していた。

「神子殿?何をしていらっしゃるのですか?」

「えっと、その……。」

 何やら顔を赤くしているあかね。

 頼久には何故あかねがそんな状態なのかが全くわからない。

「お待たせしたことをお怒りですか?」

「ち、違いますっ!えっとですね……その…。」

 もじもじとしていたあかねは意を決したように一つうなずくとすっと食器棚の影から飛び出した。

「と、トリックオアトリート!」

「……。」

 思い切って叫んだあかねの言葉に頼久の反応はなし。

 あかねが泣きそうな顔で恐る恐る頼久の様子をうかがってみれば、頼久は驚きで大きく目を見開いて固まっていた。

「よ、頼久さん?」

「……あぁ、その、予想していないお姿でしたので…。」

「あの、これはその…ハロウィンだから仮装をって思ったんですけど、天真君がこれがいいって……似合いません?」

「いいえ!よくお似合いです!」

 赤い顔で上目遣いに尋ねられて頼久が平常でいられるわけがない。

 慌てて答えた頼久はふっと息を吐き出して自分を落ち着かせるとその顔に笑みを浮かべた。

「お菓子をくれないと悪戯するぞ、でしたか?」

「あ、はい、そういう意味みたいですね。」

「では両方で。」

「はい?」

 頼久はにこりと微笑むと手にしていた紙袋をあかねに差し出した。

 あかねが中を覗き込むと中にはおいしそうなクッキーがつまった袋がいくつも入っている。

「これは?」

「もしやハロウィンということで神子殿が何か企画なさっているのならと思いまして。」

「ばれちゃってたんですね…。」

「いえ、そのようなお姿を見せて頂けるとは思っておりませんでした。」

 そう言って微笑む頼久はあかねの頭の先からつま先までを再びゆっくり眺めた。

 頼久を一瞬絶句させたあかねの姿はというと、真っ白な上に綺麗な桜の花があしらわれている浴衣に萌黄色の帯を結んでいるというものだ。

 まるで桜の精のように儚く愛らしい。

「そ、そんなに見られると恥ずかしいです…。」

「それで、どんな悪戯をして頂けるのでしょうか?」

「はい?」

「両方と申し上げたはずですが。」

「えっ、両方って…お菓子と悪戯?」

「はい。」

「えっと……考えてませんでした…。」

 考えてみれば頼久は自宅にお菓子を買い置きするタイプではないのだから、お菓子をもらえなかった時の悪戯を考えておくべきだったのだが、とてもじゃないがあかねにそんな余裕はなかった。

 仮装のことだけでいっぱいいっぱいだったのだ。

 あかねがしゅんとしていると頼久が突然、軽々とあかねを横抱きに抱き上げ、驚くあかねをそのままソファに座らせた。

「お茶をいれて参りますので、神子殿はおくつろぎ下さい。」

「あ、お茶は私が…。」

「いえ、その出で立ちでは何かと不便でしょうから今日は私が。」

 そう言って微笑んで頼久が台所に立つのをあかねはただ見守るしかなかった。

 頼久の言うとおり、浴衣姿で台所に立つのはかなり無理がある。

 そしてお茶をいれて戻ってきた頼久があかねの隣に座って、ようやく二人はおちついた。

「ごめんなさい、急に変なことして…。」

「いえ、少々驚きましたが、そのように美しい神子殿を見せて頂けるとは嬉しい限りです。」

「う、美しいてほどじゃ…仮装、何がいいかなって色々考えたんですけど、頼久さんって何を見ても驚きそうにない気がして…それで天真君に一緒に考えてもらったんです。」

「天真に…。」

 ここで頼久の表情が曇った。

 だが、あかねはそれに気付かず、お茶を一口飲んで溜め息をついた。

「天真君てばなんだかわかりづらいこといっぱい言ってて、頼久のあかねのイメージは白だ白!とかあいつは桜が好きだとか、もう何を言いたいんだかさっぱりわからなくて…それで、天真君の意見を色々総合してこのかっこうになったんですけど…。」

 そう言ってあかねが頼久の様子をうかがえば、今度は頼久が深い溜め息をついた。

「そういうことでしたか…天真がいつになく色々と尋ねてきたと思えば…。」

「天真君、頼久さんに何を聞いたんですか?」

「神子殿にはどんなお姿が似合うと思うかと聞かれたので、どんなお姿でも神子殿はお美しいと答えましたが、それでは納得がいかなかったらしく、神子殿に似合う色は何色だとか和服と洋服はどちらがいいだの、神子殿に似合う花はどれだと思うかだの…とにかく挙動不審でしたので何かたくらんでいるとは思いましたが…。」

「天真君、バレバレじゃない…。」

 あかねは溜め息をつきながらも、どうやら苦労させられたらしい天真を思って苦笑した。

 それは確かに、どんな姿が似合うかと聞いた答えがどんな姿でも、では天真もどうしようもなかっただろう。

「ろくでもないことを企んでいるのだろうと思っておりましたが、このように美しい神子殿を見せて頂いては文句も言えません。」

「そ、それほどのことじゃ…そ、そうだ、悪戯、してもいいですか?」

「何か思いつかれたのですか?」

「はい。」

 そう言って恥ずかしそうに微笑むあかねに頼久はうなずいて見せた。

「どうぞ、お好きなように。」

「それじゃぁ、目を閉じてて下さい。」

 可愛らしくそうお願いされれば目だろうが口だろうが鼻だろうが閉じてしまうのが頼久だ。

 すぐに目を閉じた頼久があまりに落ち着いているのであかねはどうしても頼久を驚かせたくなってしまった。

 だから、一世一代の勇気を振り絞って身を乗り出して…

 静かに引き結ばれている唇に軽く口づけを。

 そしてすぐにソファに座り直したあかねはそれこそ本当に湯気が出そうなほど赤い顔で自分の膝を見つめた。

 とてもじゃないが、隣に座っている恋人の顔を見ることなどできそうになかったからだ。

 ところが、いつまでたっても頼久のリアクションがない。

 心配になったあかねが恐る恐る上目遣いに頼久の様子をうかがってみれば、大きく目を見開いた頼久がじっと自分の方を見つめていた。

「頼久、さん?驚きました?」

「はい…とても…。」

 まだ驚いたままの様子の頼久を見てあかねは嬉しそうに微笑んだ。

 だが、あかねが余裕でいられたのもそこまで。

 驚きから立ち直った頼久は満面に嬉しそうな笑みを浮かべて見せると、すぐにあかねの腕を引き寄せてぎゅっと抱きしめてしまった。

 今度はあかねが目を丸くする番だ。

「よ、頼久さん?」

「嬉しい悪戯をして頂きましたので、お礼です。」

 そう言うが早いか、頼久の大きな手で優しく顔を上に向けられて、はっとする間もなくあかねは頼久に口づけられていた。

「よよよ、頼久さん!」

 唇が離れて、慌ててあかねが顔を真っ赤にして飛びのくと、そんなあかねを頼久は優しく見守っていて…

「暗くなって参りましたね。」

「は、はい?」

 あかねの声がうわずっているのに苦笑して頼久は立ち上がった。

「そのお姿だともう外を歩くのは寒いでしょう。ご自宅まで車でお送りします。」

「あ、あぁ…えっと…晩御飯作って冷蔵庫に入れてあるんです、一緒に食べようかなと思って家で作って持ってきたんですけど…。」

 一緒に食べちゃだめですか?の視線を送ってくるあかねの言葉に一瞬驚いた頼久は、すぐに笑みを取り戻してうなずいた。

「そこまでお気遣い頂いていたのですね。では、共に食事をしてそれからお送りしましょう。」

「はい!」

 やっとあかねの顔に幸せそうな笑みが戻って、頼久も安堵の笑みを浮かべた。

 そして浴衣姿のあかねと二人、頼久はゆっくりあかねの手料理を堪能することができた。

 綺麗な浴衣で着飾った美しいあかねを堪能して、手料理まで食べることができて…

 頼久にとって初めてのハロウィンは忘れられない幸せに満ちた一日になったのだった。








管理人のひとりごと

ハロウィン時事ネタ短編でございます。
頼久さんは色々とびっくりさせるのが大変そうです(’’)
思ってたより甘い感じになった気がしてるのですが、いかがでしょうか?
天真君が裸エプで小突かれてるのは裸○○ロンのことです、大人の皆さんはおわかりですね?(’’)
もちろん作中でそんなことはしませんよっ!
ということであかねちゃんは季節外れの浴衣姿でした。
頼久さんは清楚なあかねちゃんが好きなのです(^▽^)
たぶん(’’)





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