Rose Kiss
 あぁ、この世界を救うためとはいえなんということをなさったのですか。

 頼久の目の前で龍神の神子は今、その身に龍神を降ろしていた。

 あなたの姿が神気に滲んでよく見えない。
 お願いです、どうかこのまま消えたりはなさらないで下さい!
 どうか、どうかお願いです!
 この頼久の元に戻ってきてください!

 みるみるうちに神気に包まれ、その姿が見えなくなっていくあかね。
 その顔にはうっすらと微笑みさえ浮かんで…

 一生をかけてお守り致します!
 ですからどうか、消えないで下さい!
 どうかこれからもずっと、ずっとこの頼久にお側にいさせて下さい!
 たとえ異世界であろうとどこであろうと、どこまでもお供致します!
 お願いです、神子殿!





「神子殿!」

「はい?」

 頼久は上半身を勢いよく起こして荒くなっている呼吸を整えた。

 そして気付くと至近距離にいるあかねのきょとんとした顔を見つめた。

 大声で呼ばれた理由がわからなくてあかねはただひたすら目を丸くして頼久を見つめている。

 体中にいやな汗をかいていることに気付いた頼久は額に手を当てると軽く首を横に振った。

 夢だったのだ。

 全てはただの夢だった。

 頼久はそう自分に言い聞かせて深呼吸をした。

 さきほどまで見ていた夢があまりにもリアルでその夢の内容は頼久の背筋を寒くさせるのに十分だった。

「頼久さん?」

 声の主を見上げて頼久は痛くなるような想いに駆られた。

 そしてその手は自然とあかねの頭に回されて…

 あかねが状況を理解するより早く、頼久はあかねに口づけていた。

 突然の、しかも今までのものとは違う長い口づけにあかねは一瞬目を丸くして、そして徐々にうっとりとして、頼久が唇を離した時にはぐったりと頼久の腕の中にもたれかかっていた。

「神子殿、何故、ここに…。」

 口づけてあかねの存在を感じてようやく落ち着いた頼久は、今日が平日であったことを思い出した。

 あかねが学校から帰ってくるにはまだ早い時間だ。

「授業が午前中で終わったからすぐにここへ…玄関が開かなかったから鍵を使って中へ入ったんですけど、そうしたら頼久さんがお昼寝してて…それで起こさないように静かにしてたんですけど、急に呼ばれて…。」

「申し訳ありません。」

「…どうしたんですか?突然。」

「夢を、見ていたようです…。」

「夢?」

 頼久から身を離して小首をかしげるあかね。

 そんなあかねに頼久は寂しそうな苦笑を見せた。

「神子殿が京を救うため、龍神をその身に降ろしてそのまま儚くなってしまわれる夢です。私がいくらお側に置いていただきたいと懇願しても神子殿は神気の中にその姿を消してしまわれて…。」

「そんなこと!絶対にありません!こうして私はここにいるじゃないですか!」

「はい……自分でも何故あのような夢を見たのか…。」

 頼久が再び額に手を当ててうつむくと、あかねはその首に優しく抱きついた。

「安心、しました?」

「……はい。」

 やわらかくて温かくて、それでいて細くて儚いあかねの体を優しく抱きしめて、頼久はほっと安堵のため息をついた。

 もともと夢など見ない性質だというのに、何故あのような夢を見たのか見当もつかないが、おかげでこうして安らかな一時を得ることができた。

 あかねの髪の香りを静かに吸い込んで頼久は微笑む。

「そうだ。」

 まだその感触を味わっていたいのにあかねに体を離されて、少しばかり寂しく思った頼久の目にあかねの楽しそうな笑みが映る。

「さっき、花の香りがしましたよ、頼久さん。」

「花の香り、ですか?」

「そうそう。」

 突然何を言われたのかわからずに頼久は小首をかしげる。

 さっき、とは、抱きつかれた時だろうか?

 花の香りには心当たりがない。

「特に花の香りがするようなものを身につけた覚えはありませんが…さっきとは正確にはいつのことでしょうか?」

「えっと…。」

 あかねは急に顔を赤くしてうつむく。

「……さっき、キス、した、時です…。」

「あぁ。」

 そういわれると思い当たることがあって、頼久は微笑みながらテーブルの上へと視線を移した。

 そこには空になっているティーカップ。

「それは紅茶の香りです。」

「紅茶?」

「はい、眠る直前までローズティを口にしていましたので。」

「あぁ、あのローズティ、頼久さん気に入ったんですか?」

「はい。」

「よかったぁ。私あの香りが凄く気に入ったんですよ。」

「はい。あの紅茶を口にすると、初めて神子殿があの紅茶を口にされた時の幸せそうな笑顔を思い起こすことができますので、私も好きになりました。」

「えっ。」

 にこりと微笑む頼久が語った言葉の意味を理解してあかねはまた顔を真っ赤に染め上げた。

「私ももう少し飲みたくなりました。神子殿の分もおいれしましょう。」

「あっ!お茶くらい私がいれますから〜。」

 素早く台所へ向かう頼久をあかねが慌てて追いかける。

 そうして二人で台所へ立ち、結局、ローズティは二人の手でゆっくりといれられるのだった。






管理人のひとりごと

キスシーン入れたら短くなった…
花の香りがするお話を書きたかっただけなんですが…
私はお茶なら全般なんでも好きなので、これからもお茶ネタは出てきそうです。
でもやっぱり頼久さんには緑茶が似合う(笑)
花の香りのするお茶なんて頼久さんはあかねちゃんの影響受けなきゃ絶対飲みそうにありません(笑)



プラウザを閉じてお戻りください