プリンセスの登場
「クリスマス、クリスマスだぞ?なんでそのクリスマスに俺がお前と二人でこんなところを歩いてっかな…。」

 隣を歩く天真が不満を申し述べることこれで何度目か…

 頼久はちらりと隣を睨み付けてから視線を前へと戻し、小さく溜め息をついた。

「いい加減にしろ。お前ではないか、バイトを抜けられないと言ったのは。」

「だからって、なんでお前が一人で迎えに来るんだよ。」

「あかねが買い物へ行っているからだ。」

「だーかーら、なんで今日なんだ?前もってしときゃいい話だろ。」

「クリスマスが今日なのだ。」

「はぁ?」

「あかねは今、私からのクリスマスプレゼントを選んでくださっているのだ。」

「私からの?私のための、じゃなくてか?」

「ああ、今年はあかねに好きなものを自分で選んで買って頂くことにした。」

「ああ…。」

 ここで天真は苦笑を浮かべながら思わずため息をついた。

 ここ数日、いや、数週間、頼久はひたすらあかねへのクリスマスプレゼントを何にするかで悩み抜いていた。

 それはもう生きるか死ぬかというくらいの悩みっぷりで、最終的には天真が相談を受け付けた。

 最終的に胃潰瘍にでもなるのではないかという状態だったということは、相談を受け付けた天真だけが知るところだ。

 つまり、最終的に何も思いつかなかった頼久の最終手段が本人に選んでもらう、だったというわけだ。

「お前はそれだけはやらないと思ってた。」

「それが…先日あかねの方から、欲しい物があるからクリスマスプレゼントということにして買ってもらえないかと…。」

「言われちまったわけな。さすがあかねというかなんというか…。」

「気を使わせてしまった…。」

「平謝りに謝っとけ。」

「謝罪はしたのだが…もう夫婦なのだからそんなことは気にしなくていいと言って頂いた。」

 今までひどく落ち込んでいた頼久の声が最後のこの一言で突然幸せ色に響いた。

 思わず一瞬隣の男の顔へと視線を移して、天真はまた苦笑することになった。

 その顔に浮かんでいる幸せそうな微笑といったら…

「そこまではわかった。で、なんで俺があかねがお前からのプレゼントを選びに行っているおかげで、お前とこうして二人で歩かなきゃならんことになってんだ?」

「私が謝罪の意味も込めてイブの夜はうまい料理を出す店で食事をとお誘いしたのだ。すると…。」

「あー、わかった。せっかくだからみんなでパーティでもいいですか?とか言い出したんだろ?」

「よくわかった。」

「ま、お前がそれに反対して二人きりでなんて言い出すわけもねーってのもわかってんよ。で、俺が店の場所がわかんねーって言ったんで現地集合ができなくて。」

「私が迎えに出たのだ。あかねの買い物が長引いたので共には行けぬことになったのでな。」

「なるほどな。だから蘭はあかねの方に張り付いてて俺達はクリスマスイブを今まさに二人で過ごしているというわけだ。」

「妙な言い方をするな。」

「妙って…事実だろうが…。」

「……。」

 微妙な空気で会話を途切れさせたのと同時に二人は待ち合わせの場所へと到着していた。

 足を止めて二人同時に軽く溜め息をつく。

 辺りを見回せばカップルが手をつないでいる姿が数えきれないほど…

「お前はともかく俺は地獄だ。」

 天真がそうつぶやいた刹那、頼久の呼吸が止まった。

 隣から小言の一つも飛んでくるかと思っていた天真が視線を驚きの表情を浮かべて凍り付いている頼久からその目が見つめている物へと移すと…

「あかね…。」

 あかねは可愛らしいクリーム色のワンピースを着ていて、上半身には温かそうな白いショールが巻きつけられていた。

 髪も綺麗にセットして白い薔薇のコサージュまでついて入る。

 首元には真珠のペンダント。

 そしてそのいつもとは違った装いのあかねはちょうどデパートから出てきたところで、デパートの入り口から伸びている大階段を降りてくるところだった。

 頼久に笑顔を向け、小さく手を振りながら階段を下りてくるあかねはまるで女優かプリンセスのように見えた。

「すみません、遅くなっちゃって。」

「…いえ……。」

「頼久さん?私、どこかおかしいですか?」

「とんでもございません!」

「おーい、昔の口調に戻ってんぞー。」

 思わず天真が突っ込みを入れれば、あかねの隣にいた蘭がクスッと笑みを漏らした。

 対してあかねはといえば不思議そうに小首を傾げて頼久の顔を覗き込んでいる。

「頼久さん?」

「あかね、察してやれ。お前のその格好見て、頼久はただ今、絶賛見惚れ中だ。」

「そ、そんな…見惚れてもらうほどのものじゃないんですけど…。」

「いえ、よくお似合いです。」

「頼久さん…有り難うございます。頼久さんがプレゼントしてくれたんですから、それ、忘れないでくださいね。」

 やっと二人が微笑みを交わしたところで、今度は天真が盛大に溜め息をついた。

 それでなくても何故か同じように着飾った中でもあかねは目立っているようで、周囲の視線を集めている。

 そこに頼久の目立つ長身に容姿、更には大声だ。

 辺りを行き交う人々の全ての視線をまともに受けているのは当然のことだった。

 けれど、そんなことなどすっかり幸せそうになっている二人は気付くはずもなく…

「おい、急がねーと店の予約時間になるんじゃねーの?」

「そうだな。あかね、参りましょう。」

「はい。」

 頼久に腕を差し出されて、あかねは自然とその腕に手を乗せた。

 頼久は特に正装をしていたわけではないけれど、もともとが見栄えのする男だ。

 二人並んで歩き出す姿はやはり周囲の目を引いて、天真を苦笑させた。

「お兄ちゃんには私がいるから、泣かないでね。」

 そう言いながら左腕を掴む蘭に引きずられるように天真も前へと一歩を踏み出した。

 前を行くのは幸せそうに寄り添う頼久とあかね。

 隣にはニコニコと機嫌良さそうな妹の姿。

 人混みの中を視線を浴びながら歩きつつ、天真はこんなクリスマスも悪くないと胸の内でつぶやいていた。








管理人のひとりごと

管理人の生息地ではだいたい辺りが真っ白になるのがクリスマスの定番なのです。
ので、ホワイトクリスマスとかなんのこと?って感じで育ちました。
白いの当たり前じゃんってことですね(^_^;)
出も今年は…地面見えてる(゚Д゚|||)
という衝撃と共にこれを一本書きました!
あかねちゃん出番少ないですが、頼久さんと天真君の友情をお楽しみ頂ければ(笑)








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