ぺあるっく
 頼久は悩みに悩んだ末、再び悩むことになっていた。

 最初に悩んだのは『ほわいとでー』の贈り物を何にするか?という問題だった。

 『ばれんたいんでー』にはあかねから贈り物をもらったから、この弥生十四日には必ず自分も贈り物をするのだと息巻いたのは良かったのだが…

 結局、何を贈ればいいのかとひと月の間考え抜き、思いつかず、何が欲しいかと本人に尋ねるという最低の結果になってしまった。

 あかねは初めこそキョトンとしたものの、快く自分が今一番欲しいと思っている物を教えてくれた。

 頼久にとってそれは非情に有り難いことではあったのだが…

 今度は欲しいと言われた物に困惑してしまった。

 あかねはいつも高価な調度品や飾り物、香といった普通の女性が欲しがるものをあまり欲しがる方ではない。

 欲しがるとすれば、夫である頼久が恥をかかない程度のものをというくらいだ。

 だから、欲しいと言った物が高価なものではない、という点では納得がいった。

 だが、逆に、こんなものでいいのだろうか?と思ってしまったのだ。

 高価ではなくてももっときらびやかなものとか綺麗なものが世の中にはいくらでもある。

 頼久はそう思ってしまうのだが、あかねは何にしても異界から舞い降りた天女。

 考えることも頼久とは違って当たり前といえばそれまでで…

 思いあぐねて頼久が頼った相手はあかねと親しくしていて、同じ女性である藤姫だった。

 主筋に当たる人物にお伺いをたてたわけだが、こんなものを贈って良いかと尋ねたその答えはといえば…

『神子様が欲しいとおっしゃるのならそれでよいのでしょう。そもそも頼久が己の力で神子様を喜ばせる品を見つけられないのが…』

 と、結論よりも説教の方が八割の意見を聞くことになった。

 説教の内容は頼久も自覚していることなので神妙に受け取っておくとして、問題は贈り物の方だった。

 藤姫がそれで良いと言うのなら良いのだろうが…

 考えながら歩いていた頼久はいつの間にか屋敷の前に到着してしまった。

 いつもなら一も二もなく飛んで帰る頼久だが、今日ばかりは屋敷の奥に足を踏み入れるのを思いとどまってしまった。

 今からでもいいから、この手の話にはめっぽう強い友雅辺りに相談して何か用意してもらった方がいいのではないか?

 などと頼久が思っている間に、その愛らしい足音は頼久の前へとやってきた。

「頼久さん、早かったですね。お帰りなさい。」

 もちろん足音の主はあかねだ。

 珍しく水干姿で何かしていたらしい姿は、いつもよりも少しだけ幼く見えて愛らしい。

「ただ今戻りました。何やらお忙しそうですが…。」

「今までは。武士団の皆さんからホワイトデーの贈り物が色々届いて片づけていたところなんです。」

「は?私の部下から、ですか?」

「はい。バレンタインデーにちょっとお菓子を配っただけなのに、みんなちゃんとお返しをくれて。嬉しいんですけど、気を遣わせちゃったなって。」

 そう言って苦笑するあかねを見て、頼久は眉間にシワを寄せて考え込んでしまった。

 部下達までがそれぞれにあかねにお返しをと考えて何かしらの物を贈っていると言われては、あかねに望まれた物とはいえ、こんなものをただ渡してしまっていいものだろうか?と悩みは増すばかりだ。

「頼久さん?」

「申し訳ありません、考え事をしておりました…。」

「大丈夫ですか?お仕事大変だったとか…。」

「いえ、仕事は何事もなく…。」

「じゃあ、ホワイトデーの贈り物のことですか?」

 頼久は思わず目を見開いてしまった。

 目の前の天女は怨霊と戦っていたあの頃から鋭いところがあったが、今となっては本当にもう何一つかなわないと頼久は思う。

「お見通しで…。」

「やっぱり。そりゃ分りますよ、私はその…頼久さんの…伴侶ですから。」

 今度は嬉しくも恥ずかしそうにそう言って顔を赤くするあかねは見開いた頼久の目を更に大きく見開かせ、そしてその腕が自然とあかねの体を抱きしめた。

「よ、頼久さん!まだ明るいですから!そしてここ、みんなが見ますから!」

「これは、申し訳ありません。」

 慌てて懸命にあかねが頼久の胸を突いてもその力はか弱くて…

 まだまだこの尊い身を守ることは自分にもできると自覚して、頼久はやっと微笑みながらあかねを解放した。

「この前、私が欲しいって言ったものを用意してくれたんですよね?頼久さんは。」

「はい。しかし…。」

「男物だし、女性が喜ぶようなものでもないし、色形も可愛らしくないし、本当にこれでいいのかな?って思ってます?」

「おっしゃる通りで…。」

「そんなこと気にしないでください。私は頼久さんとおそろいで身につけられる物が欲しかったんですから。」

「そう、だったのですか?」

「はい。」

 そう言って幸せそうに微笑むあかねの姿は、頼久の目には後光が射しているように見えた。

 自分とそろいの物を身に着けたいという愛しい人のその一言は、いつの間にか頼久の手を動かして…

「では、これをお受け取り頂けますか?」

 頼久は懐から包みを一つ取り出してそれをあかねに手渡した。

「有り難うございます!ってこれ、ずいぶんたくさんあるような…。」

「はぁ、その…色を少々…。」

「あ、赤とか入ってますね。」

 あかねはその場で包みを解いて中を確認してみた。

 そこにあったのは結い紐だ。

 つまり、頼久が髪を結い上げるために使っている紐だった。

 頼久がいつも身に着けているのは紫苑の紐だったから、あかねが欲しかったのは同じ紫苑色の紐だったのだが、包みの中には紫苑の他、赤や緑といった様々な色の紐がそろっていた。

「ん〜、紫苑以外は私だけつけてもおそろいになりませんよね…じゃあ、違う色は毎朝、頼久さんと一緒に選んでつけることにしてもらえますか?」

「それはかまいませんが…。」

「私が育った世界ではペアルックって言って、恋人同士がおそろいの物を身に着ける習慣があったんです。着る物は最近は流行らないみたいでしたけど、アクセサリーをおそろいでとか。こっちの世界ならこれが一番しっくりくるかなって思ってたから嬉しいです。」

 たくさんの結い紐の束を胸に抱きしめて、あかねは嬉しそうに微笑んだ。

 そんなことを考えていてくれたのかと思えば頼久の想いは複雑だ。

 元いた世界のことを思う時はきっと悲しくなっただろうと思う。

 だが、元の世界へ帰りたいと思うのではなく、同じことをこちらでやりたいと思ってくれることには感謝しかない。

 見ればあかねの髪はすっかり伸びて、今日のように片付け物などをするとなればきっと邪魔になるに違いない。

 あかねは京の女性とは違って活発だ。

 頼久のために京の他の女性と同じように髪を伸ばしてくれているのだから、せめて活発に動き回りたい時は髪を結べるようにしておくべきだろう。

 やっと頼久はそう結論して、その顔に笑みを浮かべた。

「では、明日はあかねの好きな色にしましょう。」

「えっと…それだと、今日と同じ色になっちゃいます…。」

 今、頼久の髪を結い上げているのは紫苑の紐。

 それは頼久の好む色。

 赤い顔をしてうつむくあかねが自分と同じ色を好きだと言ってくれるそれだけで、頼久の体中に幸せが巡った。

 そうなればもう頼久の腕が為すことはただ一つ。

 一度振り払われたその腕は、再びあかねの体を抱きしめていた。

「こんなところでこんなことしていたら誰かに見られちゃいますってば…。」

 今度は振り払われはしなかったものの、やはりあかねは不満な様子だ。

 頼久は再びあかねを解放して、次の瞬間、安堵した表情のあかねの体をひょいっと抱き上げた。

「頼久さん?」

「ここではまずいということでしたので、中へ。」

「……はい。」

 耳元で頼久が囁けば、胸に大切な贈り物を抱きしめたあかねは小さくこくりとうなずいた。








管理人のひとりごと

結局、当日に一気書きしてますけどね!(ノД`)
誤字脱字はご容赦くださいね(^_^;)
いやね、色々ありまして…
色々については日記を見て頂けば(’’)
それにしてもペアルックって最近あんまり言わない気がしますね。
管理人の年がバレマスネ(^_^;)
管理人がよく拝見しているアクセサリー販売サイトではペアのアクセサリーをよく見かけるので、装飾品ならありかなと。
ということで二人には髪を同じ紐で結ってもらうことにしてみました!
あかねちゃんが何かでペンダント作ってあげるとかでもよかったかな。
お守り入りとか。
そのうちそんな話も書きましょうかね…書けたらね(^_^;)










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