
頼久は深い溜め息をついて力ない笑みを浮かべた。
「どうしたんですか?頼久さん。八葉のみんながそろったら楽しそうじゃないですか。」
「それは、そうなのですが…。」
「みんなで一緒にお花見、みんなで一緒に海に遊びに行って、みんなで紅葉狩りでしょ、あとみんなでクリスマスにお年越し、どれも凄く楽しそうじゃないですか。」
本当に心から楽しそうあかねはそう言うのだが、あかねが楽しそうにすればするほど頼久の顔色は悪くなった。
頼久にしてみればどれもあかねと二人で過ごす楽しい行事なのに、八葉全員がそろったりしたら、全て邪魔が入るということになるのだ。
今は真の友天真とその後輩である詩紋だから気を使ってくれているのだ。
他の八葉、それもあかねにそれなりの想いを寄せていた面々がこちらの世界で一緒となれば頼久は気が気ではない。
「頼久さん?」
「神子殿は…。」
「はい?」
「神子殿は…皆一緒がよろしいのですね。」
「楽しそうじゃないですか、みんなでわいわいって。頼久さんはいやですか?騒がしいの。」
「私は…騒がしいのがいやというよりも、神子殿と二人きりがいいと…そう、思ってしまいます、どうしても…。」
「そっ、それは…。」
あかねは急に顔を真っ赤に染めてうつむいた。
こうストレートに二人きりがいいと言われてしまうと、いくら恋人同士とはいえ照れてしまう。
「神子殿は皆の心をとらえ、全ての八葉が神子殿をお慕いしております。その八葉が全て神子殿の周りにいるとあっては…いつ、神子殿が心変わりをされるかと…。」
「はい?」
頼久の口からついてでた言葉に驚いてあかねが目を丸くする。
あかねは八葉のみんなと楽しく一緒に食事をしたり遊んだり、そんなことを想像していたのだが、どうやら頼久はそうではなかったらしいとやっと気付いたのだ。
「頼久さんはいったい何を想像してたんですかっ!」
「は?」
「もぅ、いくらみんながここにいたって、私そんな浮気者じゃないですよ。」
「それは…もちろん神子殿をそのように軽んじてはおりませんが…。」
「……頼久さんは、全然わかってないんですね。」
「申し訳ありません…。」
「そうじゃなくて。」
そう言って深い溜め息をつくあかねの表情を頼久は恐る恐る上目遣いにうかがった。
憂いに満ちたあかねの顔はいつもより少し大人びて見えて美しい。
だが、そんな美しい人に今にも愛想をつかされるのではないかと心配な頼久は、一瞬見惚れたもののすぐに悲しそうに表情を崩した。
「そ、そういう顔は反則です…。」
「は?」
「そ、そんなふうに、なんていうか、うるうるな目で見つめられたら何も言えなくなっちゃうじゃないですか…。」
「はぁ…。」
どうやら頼久には自覚がないようだが、あかねはこの頼久の心の底から救いを求めるような目に弱い。
「あのですね、私はそんなに簡単に浮気したりしません。それは私が軽いとかそういうことじゃなくて、そんな簡単に違う人を好きになったりできないくらいたくさん頼久さんのことが好きだからです。」
「神子殿…。」
「で、そんなに頼久さんのことを私が好きなのは、それだけ頼久さんが素敵な人だからです。私にとってはもう、こうして一緒にいてくれることだって奇跡的だって思うくらい頼久さんは素敵な人です。だから、そんなふうに他の八葉のみんながいたら自分は捨てられる、みたいなこと考えるのやめてください……って……は、恥ずかしい…。」
頭から湯気さえ出しそうなほど顔を赤くしてあかねはうつむいた。
何やら頼久がすっかり落ち込んでいるので思わずいつも思っていることを口に出してしまったが、改めて自分の言葉を振り返るとあかねにとっては溶けてなくなるほど恥ずかしい内容だった。
だが、頼久はというと、このあかねの言葉が嬉しいことこの上なく、その顔にこれ以上ないほどの幸せそうな笑みを浮かべてすっとあかねを抱き寄せた。
「よよよ、頼久さん!は、恥ずかしいですからっ!」
「神子殿にそのように言って頂けるとは、この頼久、身に余る光栄。これより先もきっと神子殿の御身のことだけを想って参ります。」
「だ、だから、恥ずかしいですってば…。」
そうあかねが腕の中で抗議してもあかねを抱きしめている頼久の腕から力が抜けることはなくて、それどころか逆にギュッと力をこめられてしまって、あかねは観念して頼久の腕の中でおとなしくすることにした。
頼久の腕の中は暖かくて安心できる大好きな場所。
抱きしめられて嫌なわけではないのだ。
「八葉全員…。」
「はい?」
頼久がやっと腕を緩めてくれたのであかねが顔を上げて小首を傾げる。
するとそこには頼久の幸せそうな笑顔があった。
「八葉全員がこちらの世界にそろうのもいいかもしれません。」
「へ?さっきはいやだって…。」
「神子殿に八葉皆の前で今のように言って頂けるのならそれも悪くはない、と思いました。」
「ひ、人前であんなこといえませんよ…。」
ニコニコとひたすら幸せそうな顔を見ているとまた恥ずかしくなってしまって、あかねは赤い顔でうつむいた。
どうやらしばらくは頼久の顔をまともに見ることなどできそうにない。
「夢を見ているようです。」
「はい?」
「こちらでの生活は私にとってはまるで夢に見ているような日々です。」
「そう、なんですか?」
あかねが視線を上げてみると頼久は柔らかな笑みをたたえてうなずいて見せた。
「京にいた頃は毎日が左大臣家の方々の警護の日々で、命をかけて戦うこともありましたし、何より兄を亡くしたあの日より暗闇の中で生きているように思っておりました。それが、神子殿にお仕えし、こうして想い通わせてこちらの世界へとお供することを許して頂き、何一つ不自由なく神子殿に嬉しいお言葉まで頂けるとは、夢ではないかと不安になることがあるほどです。」
「そ、それは私だって同じです。京で目が覚めた時も現実だって思えませんでしたけど…それより何より頼久さんみたいな立派な大人の男の人が私と一緒にこっちの世界へ来てくれて、こうして恋人でいてくれるなんて夢みたいだって思います。」
お互いにそんな話をして、互いに見詰め合って微笑んで…
二人互いに同じ想いを抱いていることが嬉しくて、二人はしばらく微笑みあったまま微動だにしなかった。
そしてどちらからともなく体を寄せ合って、静かに口づけを交わして、また微笑み合う。
そんな時間が幸せで、二人の顔から笑みが消えることはなかった。
「私、京に残ってもきっと頼久さんがいてくれれば幸せに暮らせたと思います。残ればよかったかなぁ。」
「いえ、私もこうしてこちらの世界でも神子殿がいて下されば幸福です。」
「じゃぁ、結局どっちでも二人とも幸せってことですね。」
「そうかもしれません。」
二人は声をあげずに微笑み合った。
今なら二人とも断言できた。
八葉が全員この場にそろっていようといまいと、ここが京であろうと現代であろうと、そんなことは関係なく二人こうして並んで座っていられるなら自分達は幸せなのだと。
そして二人とも、互いに互いさえいてくれればいいとそう思っては八葉の皆には申し訳ないと心の中で苦笑するのだった。
管理人のひとりごと
というわけで、完結致しました(^^)
やっとですね(^^;
あかねちゃんがモテモテのシーンはどうやら頼久さんの妄想だったようですよ(’’)
結局のところ珍しくあかねちゃんの恥ずかしい告白が聞けたので頼久さんは満足です(笑)
管理人としては八葉のみんなが現代にいたら、みんな個性的なのでとっても楽しいと思うのですが…
まぁ、頼久さんはたまったもんじゃないでしょうね(^^;
では、ここまでお付き合い、有難うございました(^^)
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