家族の宴
 天真は手土産片手に蘭と二人でぶらぶらと歩いている。

 向かうは元宮家。

 蘭と二人、初詣へ行ったついでにあかねの顔を見に行こうということになったのだ。

 あかねとメールのやり取りをしている蘭が言うには、今行くと面白いものが見れるというのだが…

 天真は隣の蘭がニヤニヤと笑っているのをちらりと盗み見てため息をついた。

 我が妹ながら、蘭がこんなふうに笑う時はろくなことがないと思っている。

 だいたい、正月の真昼間からいったいあかねの家に行って何が見られるというのか。

「お兄ちゃん、まだ信じてないでしょ、大丈夫、さっきのあかねちゃんのメールだと絶対面白い場面を目撃できるから。」

「なんだかなぁ…だいたい、元旦なんざ、あかねは頼久んとこ入りびたりなんじゃねーのかよ。」

「ふっふ〜ん、それが違うんだなぁ。違うから行こうって言ってるの。」

 上機嫌な蘭に天真が再び溜め息をついた時、二人はあかねの家の前に立っていた。

 果てしなく嫌な予感がしながら天真が渋い顔をしているうちに蘭がちゃっかりドアチャイムを鳴らす。

 するとすぐにドアが開いて中からあかねが笑顔を見せた。

「二人ともあけましておめでとう。」

「おめでとう、今年もよろしくね、あかねちゃん。」

「おう、今年も宜しくな。」

「うん、二人とも今年も宜しくね。」

 3人がそんな挨拶を交わしていると、あかねの後ろに長身の人影が現れた。

「頼久……お前、こっち来てたのか…。」

「うむ。今年も宜しく頼む。」

「お、おう。」

 満面の笑みで出迎えた相棒に天真が面食らっているうちに、あかねと蘭はさっさと中へ入るとあかねの部屋へ向かって歩き出していた。

 頼久が天真を中へ入れるとしっかりと戸締りを確認する。

 その手馴れた感じにまるで自宅にいるようだなと心の中でつぶやいて天真が苦笑した。

「どうした?」

「いや、なんでもねーよ。」

「こっちだ。」

 あかねではなく思いもよらず頼久に誘われて天真は既に女性二人が笑い声をたて始めているあかねの部屋へと足を踏み入れた。

 そこは女子高生の部屋とは思えないほどきちんと片付いていてシンプルだが、それでもやっぱり部屋全体がピンクっぽい色合いになっているあかねらしい部屋だった。

 あかねに勧められて座布団を受け取ると、天真は蘭の隣に座った。

 あかねの隣にも一人分のスペースがあったが、そこが頼久の指定席であることくらいはわかっている。

 案の定、あかねの隣に座った頼久はこの上もなく幸せそうな笑みを浮かべていた。

「しかし、驚いたな、年越しは頼久んとこだと思ってたぜ。」

「ああ、うん。最初はそのつもりだったんだけど……。」

 そこまで言ってあかねは「はぁ」と深い溜め息をついた。

 森村兄妹が小首を傾げる。

「今年はどうしてもこちらへこないかと神子殿のお父上にご招待頂いたのだ。私はどうせ家では一人なのだし、せっかくのご招待なので受けた。」

「……。」

 天真と蘭は一瞬絶句してから顔を見合わせて溜め息をついた。

 その家族ぐるみのお付き合いはいったいなんなのだ…

「お、お父さんがどうしても頼久さんとゆっくりお酒飲んでみたいって言い出して…この年末は外泊は絶対認めないって言い出してどうしようもなくてそれで……。」

「ま、いいんじゃねーの、それで頼久は結局ここで楽しく年越ししたんだろ?」

「うむ。」

「た、楽しくって……あれ、楽しかったですか?」

「はい、とても。」

 あかねの困ったような問いに頼久がにっこり微笑みながらうなずいた。

 天真と蘭が再び顔を見合わせる。

 あかねが疑うような楽しい義父との宴とはいったい…

「おい頼久、お前、昨日の夜、親父さんと飲んだのか?」

「ああ、朝方までな。」

「……お前、ぴんぴんしてんな、相変わらず…。」

「お父上があまり飲む方ではなかったのでな。」

「お父さん、あんまりお酒強くないのにすっかり調子に乗っちゃって酔いつぶれちゃって、頼久さんに迷惑かけて…。」

「迷惑などでは決して。人を運ぶのは慣れておりますし。」

 恋人の父親を横抱きで運んだのか……

 天真と蘭の脳裏に頼久に運ばれる中年男性の図が浮かんだ。

「そ、それはなんだ……て、点数稼ぎはできたんじゃねーの。」

「点数稼ぎなんてもんじゃなくて……お父さんすっかり頼久さんのこと気に入っちゃって、これからはちょくちょく飲みにこいとか、なんなら泊まりにこいとか言い出して、さっきまで頼久さんを離してくれないしもう……。」

 すっかりご両親に気に入られていますか、と心の中でつぶやいた天真と蘭はもう苦笑しかできない。

「いいじゃねーか、親に気に入られてるのはいいことだろ。」

「そ、それはそうだけど……だって、全然頼久さんと話もできなかったし……。」

「お前、自分の親父に妬いてんのかよ……。」

「ち、違う!と、思う…。」

 だんだん声が小さくなっていくあかねの顔は真っ赤だ。

 そんなあかねを頼久が幸せそうに見つめている。

「ま、頼久はそれでいい正月を迎えたみてーだし、いいんじゃねーの。んで、ザルのお前と飲み明かしちまった親父さんは寝てんのか?」

「ううん、今朝になったらけろっとしてて、さっきお母さんと二人で初詣に行ったの。ついでに晩御飯をお父さんの同僚の人と一緒に食べてくるんだって。」

「なるほどな、やっと二人っきりになったってのに、俺と蘭がおしかけたわけか。」

「そ、そんなふうに思ってないから!本当は一緒に初詣行こうって思ってたし。」

「俺たちもう初詣は行ったぜ?」

「あ、うん、私達もさっき二人で行って帰ってきたところだから…。」

「お兄ちゃん、私だってまだ二人きりで初詣にも行ってないところに押しかけたりしないって。」

 赤くなってうつむくあかねの向かい側で胸を張る蘭に天真は深い溜め息をついた。

「年末年始、お前らが何も誘ってこねーからどうしたのかと思ってはいたが、こんなことになってたとはな。」

「本当はお父さんの話はなんとかごまかして去年みたいにみんなでって思ってたんだけど…お父さんに押し切られちゃって。」

「私は楽しませて頂きました。」

「頼久さんが楽しかったんならいいんですけど…。」

「頼久はほんと、幸せそうな顔してんな。」

「うむ。」

「もうさ、あかねちゃん、結婚しちゃえば?」

「へ?」

 あかねだけではなく、何を言い出すのかと頼久と天真の視線もいっせいに声の主、蘭へと向いた。

 一番呆気にとられているのはあかねだ。

「だってさ、お父さんもお母さんも頼久さんをお気に入りなんでしょ?」

「う、うん。」

「しかもお父さんはちょくちょく頼久さんとお酒を飲んだりしたいと。」

「そう、だね。」

「お母さんだってあかねちゃんに頼久さん逃がすなって言ってるんでしょ?」

「そうなのですか?」

「はい……。」

 蘭の言葉に驚いたのは当の本人の頼久だ。

 目を丸くしている頼久にあかねは真っ赤な顔でうなずいた。

「それはもうさっさと結婚して、両親と同居でもなんでもして、あかねちゃんは毎日頼久さんといちゃいちゃ、お父さんは毎晩頼久さんと晩酌でよくない?」

「よくないっ!」

 蘭の言葉にあかねは間髪いれずに叫んでいた。

 その顔は真っ赤だがどこか拗ねたような表情だ。

「よくない、のですか?」

 と、こちらは顔色を多少青くした頼久。

 そんな相棒を天真は苦笑しながら見守った。

「よくないです!だって、そんな……お父さんとお母さんと頼久さんと一緒に暮らすなんて……。」

「いけませんか?」

「いけませんよ!」

 両親が気に入っているというのだし、頼久も恋人の両親と一緒にいることを楽しんでいるというのだからそれなら一緒に暮らしてもなんら問題はない。

 天真も蘭も、当の頼久でさえそう思うのだが、どうやらあかねは一人だけ違うらしい。

 3人の視線が今度はあかねに集中した。

「その、何故、いけないのかお教え頂けますか?」

 これで「頼久さんとは一緒に暮らしたくないからです」などといわれたら、自分はどうすればいいのか…

 と頼久が青い顔をしているのには気付かずに、あかねは真っ赤な顔で口を開いた。

「だって……お父さんとお母さんと一緒に頼久さんと暮らしたりしたら……お父さんとお母さんに頼久さんをとられそうじゃないですか…。」

『……。』

 これにはさすがの頼久も絶句した。

 もちろん森村兄妹もだ。

 だが、言われてみれば確かにそうで、自宅で仕事をする頼久があかねと両親と同居するとどうなるか?

 仕事の合間にあかねの母にお使いなんか頼まれて、あかねが学校から帰ってすぐにあかねの父も帰ってきて、そこからは頼久はもう父親の晩酌に付き合うことになるわけで…

「確かにねぇ、頼久さんと二人きりになる時間が減っちゃうか。」

 最初に納得したのは蘭だ。

 あかねはもう激しく首を縦に振った。

「まぁ、そういわれりゃそうか…。」

「そのようなことを心配して下さっていたのですか。」

 あきれる天真とは逆に何やら嬉しそうな頼久だ。

 そんな頼久にあかねは必死の形相でうなずいた。

「頼久さんにとってはたいしたことじゃないかもしれませんけど、私にはすっごく大きな問題なんです!」

 真剣にあかねが言えば言うほど頼久は嬉しそうにニコニコと微笑んでいる。

 そんな相棒を見て天真が深い溜め息をついた。

「あかね、心配すんな、頼久は何があってもお前最優先だ。」

「そ、そんなことは…。」

「いえ、天真の言う通りです。全ては神子殿のお望みのままに。」

 ニコニコ。

 京ではあんなにとっつきにくかった青年武士がこうも変わるものかと思うほどの笑顔に、天真はもう苦笑しかできない。

「ま、頼久さんがあかねちゃんが嫌がることするわけないからねぇ。あかねちゃんは何も心配することないよね。」

「まぁ、そうだな。」

「二人ともっ!」

 ニヤニヤと笑う森村兄妹を真っ赤な顔で睨みつけるあかね。

 そんなあかねさえ愛らしくて頼久の口元はゆるみっぱなしだ。

「私、お茶!お茶いれてくるから!」

 首まで真っ赤になりながらあかねが立ち上がると、当然と言うように頼久も立ち上がった。

「では、お手伝い致します。」

 いらないと言おうとしたあかねを視線で制して、頼久はあかねと共に部屋を出た。

 頼久はそのまま抵抗しようとするあかねの手を引いて台所へと歩き出す。

「頼久さん、いいですよ、一人でできるし、それに天真君達が退屈しちゃう。」

「天真ならば大丈夫です。それに、お一人で運ぶのに4人分の茶は少々重いかと。」

「大丈夫ですよ、それくらい…。」

「お手伝い、させて頂けませんか?一瞬でも神子殿と二人で過ごしたいと思うのですが…。」

「頼久さん…。」

 頼久は苦笑しながらあかねの手を引いて台所へ立った。

 ついさっきあかねと二人で初詣には行ったのだが、近くの神社で済ませてしまったのでかかった時間はほんの少しだった。

 今は天真とその妹が訪ねてきていて、賑やかで楽しくはあるがあかねとの時間は更に減ってしまった。

 ほんの一瞬でもいいからあかねと二人きりになりたいと思ってしまうのは自分のわがままだろうかと反省はするものの、どうしても頼久はあかねの側を離れられないのだ。

 あかねと頼久は二人で台所に立つと何を打ち合わせるわけでもなく、手早く手分けしてお茶をいれ始めた。

「頼久さん、私、今年受験生になっちゃうんです。」

「はい。」

 急須から玉露の香りが漂ってきた頃、あかねはポツリと言葉をこぼした。

 頼久の視線があかねの横顔をとらえる。

「一応、ちゃんと大学受験しようって考えてて、だから、今年は今までみたいに夏休みとかも一緒に遊んだりできないかもしれないんです。」

「はい、承知しております。」

「もちろん、古典とか、勉強も教えてもらえると嬉しいんですけど……でも今までよりは絶対に一緒にいる時間が減っちゃうと思うんです。」

「はい…。」

「でも、大学生になったらまた頼久さんと一緒にいられるようになるし、そのあともきっと一緒にいられると思うんです。頼久さんと一緒にいられるようになるって思えば頑張れるから、だから…その……。」

 うつむくあかねを優しく見守りながら頼久は急須の茶を手際よく湯飲みに注いだ。

「私は神子殿のお側に置いて頂ければそれだけでじゅうぶん幸せです。神子殿が幸せでいて下さればもう私には望むものはありません。ですから、神子殿の幸せのためならば私はどんなことも致します。神子殿は何も案ずることなく勉学にお励み下さい。」

「頼久さん…。」

「将来のことも、何一つご心配には及びません。全て神子殿のお望みのままになるよう努力致しますから。」

 全ての湯飲みに茶を注ぎ終えて、頼久はあかねに微笑を浮かべて見せた。

 すると、つられたようにあかねもにっこり微笑んだ。

「有難うございます。まずは勉強して、ちゃんと大学に受からないとですよね。」

「はい。それに…。」

「?」

「まずは上の二人に茶を届けねば。」

「そうですね。」

 あかねが湯飲みを盆の上に乗せてよしとうなずいたその時、小さな体がすっぽりと頼久の腕の中におさめられた。

「頼久さん?」

 何事かと目を大きく見開いてあかねが頼久の顔を見上げれば、警戒する間もなく口づけが降ってきて、あかねがそうと気付いた時にはもう頼久は何食わぬ顔であかねを解放して、盆を手に微笑んでいた。

 あかねは一気に顔を真っ赤にする。

「頼久さん!」

「お嫌でしたか?」

「い、嫌じゃないですけど…突然だったから…。」

「ご両親が戻られましたら、私も今日は自宅へ戻りますので。」

「あ、そっか、はい……。」

 そう、このまま天真は夕飯時まで一緒に過ごすだろうし、そうなるともうなかなか二人きりになる時間はないのだ。

 あかねがそのことに気付いて少しだけ落ち込むと、頼久は器用に片手で盆を持ったままあかねの頭をぽんぽんとなでた。

「また、冬休みの間に遊びにいらっしゃってください。いつでもお待ちしております。」

「そう、ですね。はい、必ず行きます、明日の朝一番に。」

「はい。」

 二人は微笑を交わすと並んで歩き出した。

 もう二階のあかねの部屋では天真と蘭が首を長くして待っているはずだから。

 これからの一時を友人達と楽しく過ごす。

 その時を思って二人の顔には笑みが浮かんだ。

 夜には分かれなくてはならないけれど、それまでは思い切り楽しもう。

 二人はそう胸の内で決めていた。








管理人のひとりごと

まぁ、うちは頼あかサイトってことで(笑)
新春一発目はやっぱり頼あかでしょう(^−^)
進展したのは頼久さんがすっかり元宮家の一員になっちゃってるところ(爆)
あかねちゃんはとうとう受験生になりますなぁ。
いや、天真と蘭もだけど(’’)
大学受験やるでしょ、入学やるでしょ、大学生活やるでしょ、就職活動やるでしょ……
でやっと結婚だ…
先は長いです(’’)










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