
あかねは一人、縁で庭を眺めていた。
それというのも特にやることがないからだ。
朝から頼久は後輩達の面倒をみるために出かけていってしまってすっかり寂しくなった。
ということで、掃除でもしようかと思って動き出したところ、今度は女房達に見つかって止められてしまった。
結局、あかねは手持ち無沙汰になって、一人ぼーっと縁で庭を眺めることになったのだ。
春がやってきたとはいえ、まだ外は肌寒い。
あかねはしっかり着込んだ十二単の重さに負けそうになりながら縁で一人、溜め息をつきながら座っていた。
するとそこへ…
「どうした神子、気が弱っているぞ。」
「あ、泰明さん。」
ひょっこりと姿を現したのは泰明だった。
最近では忙しくなった師の手伝いが入り、あかねの屋敷へもあまり姿を見せなくなっていただけにつまらなそうにしていたあかねの顔にはパッと笑顔が浮かんだ。
そんなあかねを見れば、いつもは無表情な泰明の顔にもうっすらと笑みが浮かぶ。
「泰明さんこそどうしたんですか?久しぶりですね。」
「色々とお師匠の手伝いが入っていた。神子が無事かどうかは常に式神に探らせていた、問題ない。」
「……問題、ある気がするんですけど…。」
「どこに問題があるのだ?」
「…私の知らないところからいっつも式神さんを使って見張ってたのかなぁと…それは…のぞきなんじゃないかと思うんですけど…。」
「神子を守るのが役目たる八葉の私が神子が安らかであるかを確認することになんの不都合があるのだ?」
「……問題ありません…。」
「神子はおかしなことを言う。」
そういった泰明は心底わけがわからないという顔をしている。
あかねは溜め息をついて苦笑した。
純粋にあかねを守ろうとしている泰明のことだから、きっと問題はないはずだ。
「ところで、泰明さんはそんなに忙しいのに今日は遊びにきてくれたんですか?」
「そのような暇はない。」
「ですよね。」
はははと乾いた笑い声をあげて、あかねは頭をかいた。
「今日は上巳祓(じょうしのはらえ)のためにきた。」
「ジョウシノハラエ?」
「…上巳祓だ。」
そう言って泰明は懐から木でできた人形(ひとがた)を取り出してあかねに渡した。
「それに息を吹きかけろ。」
「はい?」
「それに息を吹きかけろと言った。」
「えっと…。」
泰明が言うのだから言われたとおりにすれば間違いないのだろうとは思う。
でも、あかねにはどうしてそうしなくてはならないのかがわからない。
「泰明殿、それでは神子殿が戸惑われますよ。上巳祓について何もご存じないのですから。」
「鷹通さん。」
あかねは穏やかに微笑みながら姿を現した鷹通ににっこり微笑んで見せた。
鷹通も仕事が忙しくなり、なかなか会えなくなっている八葉のうちの一人だ。
大好きな夫と暮らしているとはいえ、大切な仲間になかなか会えなくなってしまって寂しく思っていたあかねとしてはこれも嬉しい来訪だった。
「神子殿、ごぶさたしております。」
「鷹通さんもお仕事忙しいって聞きました。風邪とかひいてませんか?」
「はい、おかげさまで息災ですが…いったいどなたが私の仕事が忙しいと…。」
「友雅さんです。」
「……あの方は…ご自分はよく仕事を放り出しておいでですから…さぞかしここへはよくいらっしゃるのでしょうね…。」
「あはは、よく来ますね、友雅さんは。」
鷹通はあきれたような溜め息をついて首を振った。
「さて、神子殿、私も本日は上巳祓ですのでそのお話でもと思って参ったのです。」
「あ、はい。すみません、何も知らなくて…。」
「いえ、神子殿は異界からいらっしゃった天女、ご存じなくて当然のことです。」
「て、天女ではないんですけど…。」
「上巳祓とは、穢れを贖物(あがもの)に移して川へ流す日のことなのです。」
「穢れを移して流す?」
「はい。さきほど、泰明殿が渡されたその人形、それが贖物です。それに神子殿についている穢れを息を吹きかけることで移します。そしてその穢れを移された人形を川へ流すことで穢れを祓うのです。」
「へ〜。」
「宮中では歌を詠んだりも致しますが…。」
「う、歌…。」
頼久の妻として恥ずかしくないようにとあかねは日々勉強を続けているが、どうも歌だけは得意になれない。
おかげで今でも歌には拒絶反応が出るほどだ。
ひきつったあかねの顔を見て鷹通はくすりと笑みをこぼした。
「大丈夫です。ここでそのようなことはしなくてもよいでしょうから。」
「当然だ、神子の穢れが祓えればそれでよい。」
あかねと鷹通は笑みを交わした。
こういう泰明の純粋なところは今も変わらない。
「上巳祓について理解したなら神子、早く息を吹きかけろ。」
「あ、そうでした。じゃ、いきます!」
そう宣言してきりりと厳しい表情を引き締めたあかねは、思い切り息を吸い込んで力いっぱい人形に息を吹きかけた。
「はぁ、これでいいですか?」
「…そこまで力を入れずともよい。」
少々あきれたらしい泰明はあかねから人形を受け取るとそれを懐へ入れた。
「えっと、それを川に流すんですよね?」
「そうだ。それは私がやっておく。」
「いえ、えっと…それって誰がやっても効き目があるんですよね?」
「神子は何が言いたいのだ?」
「あぁ、頼久ですか?」
鷹通の問いにあかねはコクコクとうなずいた。
あかねにしてみれば自分のことよりもよほど夫の身の方が心配なのだ。
自分はこうしてたくさんの人に守ってもらっているのに、夫はというと一人、武士という危険な仕事をしているのだと思うとあかねはもういてもたってもいられない。
「頼久さんは今だって武士のお仕事してるわけだし…ということは、怨霊と戦っていた時みたいに危ない目にもきっとあってると思うんです。だったら、こうしてみんなに守ってもらってる私なんかより、頼久さんの方がずっと穢れを祓ったりとかしないと…。」
そう言って張り切って立ち上がろうとして、あかねはよろよろとよろけた。
それを慌てて泰明と鷹通の二人が支える。
「神子、気をつけろ。」
「ごめんなさい、十二単着てたの忘れてました…。」
そう言って苦笑して見せて、あかねはゆっくり体勢を立て直した。
これまでけっこう着てきたのだが、それでもまだ十二単の重さに慣れることができない。
「頼久が着ていろと言ったわけでもないでしょう、以前のように水干などを着てはいかがですか?」
「えっと…普段はけっこうそんなかっこうなんですけど、今日は寒かったから…でも、今着替えてきます、で、すぐ頼久さんのところに行きます!泰明さん、鷹通さん、一緒に来て…。」
「もちろんです、お供致します。」
「神子を守るのが我らの役目、供をするのは当然のことだ。問題ない。」
「有難うございます!じゃぁ、着替えてきますね!」
間髪入れずに供をすることを承諾してくれた二人にあかねは嬉しそうに微笑むと、二人を残して御簾の内側へと姿を消した。
「久々ですね、神子のお供をして外出など。」
「うむ。」
どこか浮かれたような鷹通に一つだけうなずいた泰明の顔にも、うっすらと笑みが浮かんでいた。
鷹通と泰明を伴ったあかねが武士溜まりへ姿を現すと、武士団の若い武士達がすぐにあかねを見つけて幸せそうな笑みを浮かべた。
その若い武士達の態度に驚いた鷹通と泰明があわててあかねをガードしにかかるのにも気づかずに、あかねはすたすたと中へ入ると頼久の姿をさがした。
「あのぉ、頼久さんは…。」
近くにいた若い武士にあかねがそうたずねると、ボーっと幸せそうに微笑んでいた青年ははっと我に返りポッ顔を赤くしてしどろもどろに答え始めた。
「あ、その、若棟梁でしたら…先程、休みを……その…奥の…。」
「何を慌てている、要領を得ぬ男だ。」
不機嫌そうにそういったのは泰明だ。
おかげで若者の方はすっかり口を閉ざしてしまった。
「もう、泰明さん、そんな言い方しなくったっていいじゃないですか。ごめんなさい、泰明さんも別に悪気があるわけじゃないんです。気にしないで下さいね。」
そう言ってあかねが若者に微笑んで見せれば、若者は今度こそまるでゆでだこのように赤くなってあかねに見惚れた。
「落ち着きがなさ過ぎるぞ、何をそんなに騒いでいるのだ。」
若者がどうしていいかわからずに口をあんぐり開けた状態であかねに見惚れていると、そこへちょうど頼久がやってきた。
「体を休めよといっただけで騒げとは……神子殿?」
若者達を叱ろうとして頼久はあかねの姿を見つけた。
思いもかけない愛しい妻の来訪に思わず目が点になる。
そして次に満面の笑みを浮かべるとすたすたとあかねに駆け寄った。
「どうなさったのですか、鷹通殿、泰明殿も。」
「えっと、泰明さんと鷹通さんが今日は上巳祓だって教えてくれて、さっき私の穢れは泰明さんがくれた人形に移したんです。それで、その人形は泰明さんが川に流してくれるんですけど、ついでに頼久さんの穢れも人形に移して流してもらおうと思って。」
あかねがそういうと泰明が懐から人形を取り出して頼久に手渡した。
「今日は上巳祓でしたか、私は本日は左大臣様の警護から外れているので気づきませんでした。」
「その人形に息を吹きかけてください。」
「御意。」
あかねに促されてすぐに頼久は人形に息を吹きかけるとそれを手を伸ばしてきた泰明へ渡した。
「ん〜、泰明さん、せっかくだから私も一緒に川までそれ、流しに行ってもいですか?」
「私一人でかまわぬ、が、神子がどうしてもというのなら。」
「初めての上巳祓だし、人形流すところ見てみたいんです。」
「では、せっかくですから私もお供致しましょう。」
そう言って微笑んだのは鷹通だ。
「有難うございます!なんだか懐かしいですね。」
あかねは嬉しそうな笑みを浮かべて泰明と鷹通とを見比べる。
怨霊と戦う時はこうしてこの二人にもよく供をしてもらったものだ。
泰明も鷹通も静かにうなずくと優しく目の前の神子と微笑み合う。
そんな様子を見て頼久が何やら考え込んでしまった。
「じゃ、行ってきます。頼久さんはお仕事頑張って下さい!穢れを移した人形は私達がちゃんと川に流してきますから!」
張り切ってそう宣言して鷹通と泰明を従えたあかねが意気揚々と歩き出すと、その腕を頼久がくいっと引っ張った。
「うわっ。」
思い切りバランスを崩したあかねが後ろへ倒れ込むと、あかねの小さな体は頼久が優しく抱きとめた。
「よ、頼久さん?」
「突然に申し訳ありません、少々お待ち頂けないでしょうか?」
「はい?」
「私も支度をして参りますので。」
「えっと、でも…お仕事あるでしょう?」
「…いえ……後は他の者に任せても…。」
「だめですよ!ちゃんと人形は私達が流してきますから!私一人で行くんじゃないし、鷹通さんと泰明さんが一緒ですから心配ないですから!」
「いえ、すぐに支度して参ります。」
珍しくここは譲らないとばかりに断言した頼久はすぐに支度をするべく奥へと姿を消した。
「頼久さんったら、変なの。鷹通さんと泰明さんがいるから大丈夫なのに。」
一人小首を傾げるあかねを鷹通は苦笑しながら見つめた。
自分と泰明が供につくと言ったから頼久もどうしても供をしたくなったのだろうと、そう気づいたから。
「頼久さんがいないとお仕事困りませんか?」
あかねが近くにいた武士団の年長者にそう尋ねると、尋ねられた武士はこちらも苦笑しながら頭をかいた。
「まぁ、若棟梁の判断をどうしても必要とするようなことはおきてませんし、このまま若棟梁を置いていかれてもおそらく使い物にはなりませんのでお供をお許し頂いた方が我らとしても有り難いのですが。」
「へ?」
苦笑する年長の武士にあかねは小首を傾げた。
頼久は若棟梁として武士団の皆に信頼されていると思っていたが、使い物にならないとは…
「いえ、若棟梁は立派なお方ですが、神子様が他の殿方と一緒にお出かけとなると…。」
「えっと、私が鷹通さんと泰明さんとお出かけすると何かあるんですか?」
さすがにこれには年長の武士は苦笑して見せるだけで答えない。
変わりに口を開いたのは若者だった。
「神子様が他の殿方とお出かけになったのに若棟梁だけ残されては…機嫌の悪い若棟梁に我々が半殺しにされます…神子様、お願いですから若棟梁もお連れ下さい…。」
「はぁ、やっぱり私がお出かけすると頼久さん、機嫌悪くなるんだ…。」
「そういうことではないと思いますよ。」
何やら理解の方向が違っているらしいあかねに苦笑しながらそういったのは鷹通だ。
あかねの可愛らしい「どういうこと?」という視線が今度は鷹通へ向けられる。
「神子殿が外出すると頼久の機嫌が悪くなるのではなくて、私や泰明殿と共に出かけるから機嫌が悪くなるのだということです。」
鷹通の説明に武士団の武士達が深くうなずく。
「まさかぁ、それはないですよ。だって、私はもう頼久さんの妻なんだし、それに鷹通さんも泰明さんも元は八葉、仲間じゃないですか。」
「なんのお話でしょうか?」
そこへちょうど支度を終えた頼久がやってきて小首を傾げてみせる。
武士団の武士達は皆苦笑しながら頼久から距離を置き、鷹通と泰明は軽く溜め息をついた。
「頼久さんが一緒に来るのは私が鷹通さんと泰明さんと一緒に人形を流しに行くからやきもちやいたからじゃないですよね?」
「…………。」
「頼久、さん?」
「…本日は上巳祓が終わりましたら私も屋敷へ戻りますので、早く済ませてしまいましょう。」
そう言って珍しく頼久はあかねの手を引いて歩き出した。
頼久があかねの前を歩くのはとても珍しいことで、あかねは驚きで目を見開いたまま歩き出した。
そんな二人を鷹通は苦笑しながら、泰明は何が何やらわからないといった表情で追いかけた。
そしてこの奇妙な4人を送り出した武士団の武士達はというと、皆いっせいに安堵の溜め息をついたのだった。
「やきもちなんてやかなくても…みんな仲間なんですから。」
「はぁ…。」
「だいたい、鷹通さんも泰明さんも私のことをそんなふうに見たりしませんって。私、自分でもよーくわかるくらい子供だし、見てると危なっかしいから助けてくれるだけですよ。」
いやいやいやいやと頼久は心の中でニコニコと微笑んでいるあかねの言葉を否定した。
4人で近くの川へ行き、人形を流して戻ってくると鷹通と泰明はすぐに仕事があるからといって帰っていった。
おかげでやっと妻と二人きりになれた頼久がほっと安堵の溜め息をついたので、いつものように縁でニコニコと微笑むあかねは頼久がやきもちをやくなんておかしいと力説を始めたのだ。
「…頼久さんが…。」
「は?」
「……頼久さんが私をお嫁さんにしてくれたことの方が奇跡的なんですから、やきもちなんてやくことないですよ。」
そう言ってあかねはうつむくと寂しそうな笑みを浮かべた。
頼久は一瞬キョトンとして何を言われたのかがわからない。
だいたい先程まで鷹通と泰明相手に楽しそうにしているあかねを見て悋気を起こしていたのは自分の方だったはずなのだが、どうしてかあかねが悲しそうにしている。
頼久はよくよくあかねの横顔を見つめてその言葉を反芻した。
「確かに神子殿が私のような者の妻になって下さったことは奇跡的ですが…。」
「逆ですってば。」
そう言ってまたあかねは寂しそうに微笑む。
頼久はやはりキョトンとして妻を見つめた。
「そりゃ、頼久さんから見たら私は龍神の神子だったわけだし、左大臣さんの養女にしてもらっちゃったし、身分は私の方が高いって思ってるのかもしれませんけど、私の元いた世界では身分なんてなくて、私はまだまだ凄い子供だけど頼久さんは立派な大人の男の人です。とっても優しいしステキです。私の元いた世界じゃ私なんて頼久さんには相手にしてもらえないです、絶対。」
「そのようなことはっ!」
「子供なのは京でも変わらないし…こっちの女の子ってみんな私と同じ年くらいでもしっかりしてますもんね…。だから、鷹通さんや泰明さんや八葉のみんなは私のこと心配してくれてるんですよ。」
「それは…。」
確かに心配はしているだろうが…
それだけではないとこの妻に断言するのも気が引けて頼久は黙り込んでしまう。
「だから、頼久さんは八葉のみんなと私が一緒にいるからってやきもちやいたりすることないんです。」
そう言ってうつむくあかね。
しばらく黙ってうつむく愛しい人を見つめて、それから頼久は何か意を決したように一つ深呼吸をするとあかねの肩を抱き寄せた。
「頼久、さん?」
「私が神子殿をお慕いしたのは龍神の神子でいらっしゃったからではありません。」
「あぁ、はい…。」
「神子殿は……あかね殿は、たとえ龍神の神子ではなくとも私がお慕いするただ一人のお方です。私があかね殿をお慕いしているのはあかね殿がお優しく、お心広く、清らかで、この世に二人といない素晴らしいお方だからです。ですから、私が他の八葉に対して悋気を起こすのも無理からぬことなのです。あかね殿はそのように自分のことを子供だの身分がなければだのとおっしゃるのはおやめ下さい。」
やっとそれだけを一気に口にして頼久はほっと溜め息をついた。
愛しい妻に言いたかったことは全て口にできた、はずだ。
ところが、その妻はというと頼久の腕の中でうつむいたまま何も言ってはくれない。
二人で黙り込むことしばし、これは自分の想いを伝えるにはやはり言葉が足りなかったかと頼久が眉間にシワを寄せ始めた頃、やっとあかねが口を開いた。
「えっと…は、恥ずかしいです…。」
「は?」
「う、嬉しいんですけど、恥ずかしいです…あんまり、そんなふうに言われると…。」
とうつむいたまま言うあかねは耳の後ろまで真っ赤になっている。
「でも、頼久さんが私のことをたくさん好きでいてくれてるんだっていうのはわかりました。だから、私、もうあんまり自分が子供だって気にしないことにします。そのかわり…。」
あかねの視線がすっと上を向き、頼久の紫紺の瞳をとらえた。
間近に見る愛しい妻の顔は愛らしくて、以前よりは少し大人びて美しく、思わず頼久は見惚れてしまった。
「頼久さんもやきもちなんかやかないで下さい。私だって頼久さんが大好きです。だから、八葉のみんなとは仲間として一緒にお出かけすることはあっても、頼久さんがやきもちやいたりする必要は全然ないですから。」
そう言って極上の笑みを浮かべられて、頼久はうっとりと腕の中の妻に見惚れることしばし。
あまりじっと見つめられて再び顔を赤くしてうつむいたあかねを頼久は優しく抱きしめた。
「承知致しました、悋気は起こさぬことに致します。ですが…。」
「ですが?」
「私以外の誰かとお出かけになった日は、二人きりでしばしこのように。」
耳元でそう囁いた頼久はあかねを抱く腕に優しく力を込める。
「きょ、今日は頼久さんも一緒でした!」
「鷹通殿と泰明殿も一緒でした。」
「…やっぱり妬いてるじゃないですか…。」
そう言って少し拗ねて見せるものの、あかねが頼久の腕から逃れようとする気配はない。
そのことが嬉しくて頼久はますますあかねを解放できなくなってしまうのだ。
「あ。」
ところが、あかねの方は何かに気付いたらしく、頼久の腕の中で再び視線を上げた。
「何か?」
「さっき、頼久さん、私のこと名前で呼んでくれましたよね?」
「……。」
頼久としては龍神の神子ではなく、元宮あかねという一人の女性を愛しいと想っているのだという想いをこめてあえて名で呼んだのだが、こうはっきりと確認されると返答のしようもない。
頼久は自分で顔が上気していくのがわかりながら、それをどうすることもできなかった。
「嬉しかったです。だから、いつもじゃなくてもいいですけど、たまには名前で呼んでください、ね?」
「……善処致します…。」
そう言って難しそうな顔をする頼久を見てクスっと笑ったあかねは、そのまま頼久の胸に持たれて目を閉じた。
自分のことを大切に大切に想ってくれる人。
言葉を紡ぐことが苦手なのに懸命にその思いを言葉にして伝えてくれた人。
そんな夫の腕の中は暖かくて安心で…
あかねはいつまでもうっとりと目を閉じて頼久に抱きしめられ続けるのだった。
管理人のひとりごと
お待たせ致しました(TT)
一応、雛祭り京版です。
内容はあまり雛祭りっぽくなく見えるかもしれませんが、平安時代の雛祭りってこんなだったらしいです。
雛人形のルーツが流し雛っていうのはけっこう有名な話なのかな?
もともと雛人形の並べ方とかも陰陽の考え方から決まっていたりするんですよ、知ってました?(^^)
あかねちゃんと頼久さんは穢れも祓ってより仲良くなっていいお雛様を過ごせたようです♪
これからもずーっと仲良くね(^^)
プラウザを閉じてお戻りください