
頼久宅の庭。
夕陽に照らされた庭には夏の花が満開に咲いている。
そんな庭で今、あかね、頼久、天真、蘭、詩紋の五人はバーベキューを楽しんでいた。
というのも、夏休みに入ってすぐ持ち上がった天体観測お泊り会が実現したのだ。
せっかくだからもうお祭り騒ぎみたいにしようという高校生組の決定で夕食はバーベキュー、それから天体観測しながら徹夜というスケジュールになっている。
「詩紋、そっち焦げてきてるぞ、食っちまえ。蘭、野菜も食えって。」
鍋奉行ならぬバーベキュー奉行になっている天真があちこちに指示を出す。
それに従って蘭と詩紋は焼きあがった食材を次々に更に移しながら、自分達もちゃっかり焼きたてを頂いているのだが、頼久とあかねはというとまだ台所で何か用意しているようでなかなか出てこない。
「せっかくみんなで楽しくって言ってるのに、あの二人は結局二人きりでいちゃついてる方がいいんだから。」
最初につまらなそうに声をあげたのはやはり蘭だ。
詩紋はその隣でノーコメントとでも言いたそうに苦笑している。
「飲み物の用意とかしてんだろ、文句あるならお前手伝って来いって。」
「いーやです。なんでいちゃついてる二人の邪魔しに行かなきゃならないのよ。」
天真と詩紋は同時に溜め息をついた。
もちろん、蘭とて頼久とあかねの仲がいいのが気に入らないというわけじゃない。
ただ、頼久にあかねを独り占めされるととにかく機嫌が悪いのだ。
これも一種の嫉妬だろうと残された男二人は少しばかり情けない気分になるのだった。
男の自分達よりも激しく妬いている蘭とはいったい…
「みんなお待たせ〜、ジュースとお茶と両方持ってきたから好きな方飲んでね。」
「あかねちゃん、おっそーい!」
「ごめんごめん。」
トレイにコップを大量に載せてやってきたあかねの後ろにはジュースとお茶と缶ビールを持って従っている頼久の姿があった。
あかねから蘭と詩紋がコップを受け取り、頼久がテーブルの上に置いたジュースを注いでいる間に、頼久は缶ビールを一本、天真の方へと放り投げる。
何を言われなくても見事にキャッチした天真がニヤリと笑った。
「お、どういう風の吹き回しだよ。お前から酒すすめてくるってのは。」
「神子殿が一本だけなら許してくださるそうだ。」
意外そうな顔で天真があかねを見ると、当のあかねはいつの間にかお茶を注いだグラスを持ったままきりりと天真を厳しい顔で見つめているのが見えた。
「一本だけだからねっ!天真君!」
「お、おう。」
厳しく言い渡してすぐに蘭や詩紋と食事を始めるあかねに深い溜め息をついて、天真は頼久を手招きした。
小首を傾げながら近づいてきた頼久の肩に手を置いて、天真は心底同情しているような視線を向ける。
「お前、今から尻に敷かれてるのな。」
「なんのことだ?」
「今からこんなにあかねに頭が上がらなかったら、結婚してからが思いやられるって言ってんだ。」
「別に尻に敷かれているとは思わないが………け、結婚?!」
「バカ、そこ大声出す…。」
「天真君!頼久さんに何を変なこと吹き込んでるの?!」
ジト目でにらまれて天真がひるむ。
「別に吹き込んでるわけじゃねーよ。」
「お兄ちゃん、余計なこと言わないでよ。せっかくみんなで集まったんだから楽しくね!」
妹にまで牽制するような目を向けられて天真は髪をかき回した。
「わ〜かったわかった。まったく、女ってのは。」
手がつけられんと言いそうになって言葉を飲み込んで、天真はそのまま同意を求めるように隣の相棒を見た。
ところが、その相棒はと言うと何やら幸せそうに微笑んでいるではないか。
「お前なぁ…。」
「ん?」
「ん?じゃねーよ。女ってのは手がつけられねーよなって言おうとしてたんだが…お前の場合、可愛らしくていらっしゃるくらいのこと言いそうだな…。」
「よくわかったな。」
天真は深い溜め息をつくと缶ビールをぐびぐびと飲み込んだ。
いつの間にこの相棒はこんなふうになったのやら。
京にいた頃はとにかく鋭い気配を放って、どこか手負いの獣みたいだったというのに。
だが、京を離れたこの世界でも手負いの獣みたいなままだとしたらそれはそれで大問題なわけで、これはこれでいいのかと思い直して天真は苦笑を浮かべる。
「どうした?」
「いや、平和だと思ってな。」
「あぁ、そうだな…。」
二人は感慨深げに視線を交わすと、何やら楽しそうに騒いでいる三人を見つめた。
こうしているとつい数ヶ月前まで命をかけた戦いをしていたとは思えない。
「二人ともちゃんと食べてる?せっかくあかねちゃんが用意してくれたんだから残しちゃダメなんだからね!」
「わぁかってるよ。まったく、あいついつからあんな世話女房みたくなったんだ。」
蘭にせっつかれて焼きあがった野菜や肉を口に放り込む天真。
頼久もあかねに微笑んで見せながらゆっくり食事を楽しんだ。
バーベキューが終わると最後には詩紋が作ってきたデザートが出された。
あかねがいれたアイスティと詩紋が作ってきたシュークリームは男性陣にも好評で、あっという間にたいらげられた。
バーベキューセットの片づけを男性三人が、食器の後片付けを女性二人が引き受けてさっと片付けも終わらせると、今度は天体観測の準備が始まった。
庭に運び込まれる家庭用の望遠鏡、ゆっくり空を眺めるのだと張り切って準備されたお茶と茶菓子。
あかね、蘭、詩紋の三人は縁側に座って、天真と頼久はリビングのソファに座って天体観測会は始まった。
「ねぇ、星座早見盤は?」
「あ、詩紋君のところにあるはず。頼久さん、お酒、出しましょうか?」
早見盤で蘭が星座の位置を確かめて、詩紋が望遠鏡を覗く中、あかねは頼久の様子をうかがうことも忘れない。
「いえ、先程ビールを少し頂きましたので。」
「ほしくなったら言って下さいね、日本酒、冷やしてありますから。」
「はい。」
あかねが楽しそうに蘭と詩紋の会話に戻っていくと、頼久はそんなあかねを幸せそうな顔で見つめた。
その相棒の様子に天真が再び溜め息をつく。
「どうした天真。今日は溜め息が多いな。」
「そうか?ま、そうかもな。」
「お前も見てきたらどうだ?」
「星か?俺がそんなガラかよ。お前こそ、あかねと二人で見てくりゃいいだろ。」
「あの中に入ってか?」
言って見つめる頼久の視線の先にはキャッキャと騒いでいる三人の姿が。
頼久と天真は顔を見合わせて苦笑した。
詩紋はともかく、現役女子高生二人が楽しげに騒いでいる中へ入っていく勇気は二人にはない。
「それに、おそらく朝まではもつまい。」
「ん?」
「朝まで起きて星を眺め続けるというのは無理だろう。」
「あぁ、だろうな、あのはしゃぎようじゃ。」
「雑魚寝も悪くはないが、上の客間に布団がある、誰か眠ったら布団を下ろしてきて寝かせることになるだろう。」
「なるほど、それでお前、飲まないわけか。」
「最後まで起きているのはおそらく私だろうからな。」
「面倒見る気満々なわけな。ま、俺も起きてるうちは付き合うわ。」
男二人は再び苦笑を交わして縁側の三人を優しく見守った。
見守られている方はというとさきほどから何かが見つからないらしく大騒ぎの真っ最中だ。
「夏の大三角ってどれよ?」
「蘭さん、大三角っていうくらいだから、すぐわかる三角に見えるから…。」
「だから、それ、どこ?」
イライラする会話を交わす蘭と詩紋の間にあかねが割って入ると星座早見盤を蘭に見せて説明を始めた。
「あぁ、なるほどね。もんのすごい上じゃない、見づらいったらないよ。」
「まぁまぁ、見やすい星って冬の方が多いから。」
「そうなんだ、じゃ、冬もやる?お泊り。」
「いいけど……寒くて星どころじゃないかも。」
「それもそうか。」
星を見るためにいるのかおしゃべりするためにいるのか全くわからない女子高生二人は望遠鏡を詩紋にまかせっきりでくすくすと笑っている。
「ねぇ、ちょうど土星が見えるよ。ギリギリ輪も見えるし、見てみない?」
「うそっ!土星の輪ってこんな小さい望遠鏡で見えるもの?」
詩紋に誘われて蘭が望遠鏡を覗くと、そこには小さいが確かに輪まではっきりと土星が見えた。
あかねも蘭にすすめられて望遠鏡をのぞいてみると予想以上にはっきりした土星が見えて大喜びだ。
「頼久さん、見てみません?凄く綺麗に見えますよ。」
こうして呼ばれてしまっては頼久には断る理由もない。
やっとソファから立ち上がった頼久はあかねに変わって望遠鏡を覗き込む。
次にはしかたないなと言いたげな蘭に天真も呼び出されて、渋々望遠鏡を覗き込むことになった。
こうして五人はわいわいがやがや騒ぎながら夏の夜を満喫するのだった。
数時間後。
「やっぱこうなったか。」
ソファで頼久によりかかってすっかり熟睡してしまっているあかね、縁側でうたた寝している詩紋、その詩紋の隣で丸くなって寝てしまっている蘭の三人を眺めて天真は溜め息をついた。
時刻は午前三時。
これでも予想以上に頑張った方だとは思う。
だが、最初にあかねが頼久によりかかって眠ってしまい。
その後は暇になったのか蘭と詩紋が立て続けにダウンした。
予想通り残っているのは頼久と天真の二人だ。
「さて、じゃ、布団運んできて寝かせるか。」
「寝かせるのはかまわないのだが…。」
「ん?何か問題あるか?」
「部屋割りがな。」
「あぁ、まぁ、一応蘭も女だし、詩紋も男だしな。」
「お前と神子殿を一緒に寝かせるわけにもな。」
そう言って一瞬鋭い視線を向けてくる頼久に天真は再び深い溜め息をついた。
「そこで俺を牽制するなよ…今更あかねに手出すつもりなんかねーって。俺もまだ命は惜しい。」
「まあ、常識的に考えて、女性二人は私の寝室で休んで頂こう。」
「大丈夫か?二人。」
「セミダブルのベッドに女性二人はそう無理でもないだろう。」
「……なんでお前セミダブルのベッドなんぞに寝てるんだよ……。」
まさかあかねと二人で寝るためか?
と一瞬考えて天真は激しく首を振った。
「天真、お前、今何を考えた?」
「な、なんでも…。」
「身長が…。」
「ん?」
「私は身長が高いらしく、普通のベッドだと狭い。」
「あぁ、なるほどな、確かにそうかもな。ま、お前が余裕で寝れるベッドならあかねと蘭の二人くらい大丈夫だろ。部屋割り決まりだな。」
「うむ。」
一つうなずくと頼久は慣れた感じであかねを横抱きに抱き上げた。
「お前、さすがに慣れてんなぁ。」
「京でもこうしてお運びしたことが何度もあったからな。」
そう言って愛しそうにあかねを見つめた頼久はそのまま自分の寝室へと歩き出す。
その気配に気付いてさっきまで床に転がっていた蘭が目を覚ました。
「あ、あかねちゃんいいなぁ、お姫様抱っこでベッドまで運んでもらうんだぁ。お兄ちゃん、私もお姫様抱っこがいい。」
「なぁに寝ぼけてんだお前は。目が覚めたんなら歩け。」
「めんどくさ〜い。」
「俺はごめんだ、そんなにやってほしいなら頼久にやってもらえ。」
「それはだめ〜。あかねちゃんに殺されるぅ〜。」
完全に寝ぼけている蘭に天真はまた溜め息をつくことになった。
「あのなぁ、俺はお前の彼氏でも婚約者でもなんでもないからな、兄なんだよ兄!ほら、起きてとっとと歩け。」
天真はまだ寝ぼけている蘭の腕をつかむと無理やり立たせてそのまま頼久の寝室へとひきずっていく。
またその気配に気付いて詩紋が目を覚ましたのだが、こちらも寝ぼけていたおかげでソファまで移動するとそのままソファに倒れ込んで再び眠り込んでしまった。
頼久と天真があかねと蘭を寝かしつけてリビングへ戻ってきた時にはもう時刻は三時半、どっと疲れたらしい天真と二人で二階の客間から布団を下ろした頼久は詩紋と天真が眠りについたのを見届けて一人縁側に座った。
見上げればちょうど夜が明け始めた空が幻想的で、頼久はしばらくそんな空を幸せに満たされて見上げているのだった。
翌朝。
「あ、頼久さん、おはようございます。」
「おはようございます、神子殿。」
台所でかわされた小さな声はどこか楽しげだ。
リビングではまだ天真と詩紋がぐっすり眠っているから、頼久とあかねは朝の挨拶も気を使って小さな声で交わしたのだった。
「蘭もまだ寝てるんです。朝ごはんっていうか昼ごはんの支度、手伝いますね。」
「いえ、たいした準備はありませんのでゆっくりしていて頂いてかまいませんが。」
「でも、じゃぁ、コーヒーいれますね。あと、あの…昨日はすみませんでした。」
「はい?何が、でしょうか?」
「先に寝ちゃって…頼久さんが運んでくれたんでしょう?」
「あぁ、そのことですか。お気になさらず。私は神子殿のお可愛らしい寝顔を拝見して幸せでしたので。」
「ええっ。そ、それは恥ずかしい、かも……。」
コーヒーメーカーの前でうつむいて真っ赤になるあかねがまた可愛らしくて、頼久はあかねを腕の中に閉じ込めると驚いて見上げてくるあかねにそっと口づけた。
「よ、頼久さんっ!」
「大丈夫です、まだ皆眠っていますから。」
そう言ってにっこり微笑まれてしまってはもうあかねには何も言えなくて、ごそごそとリビングで天真が起きだす気配がするまで頼久に抱きしめられてしまうのだった。
管理人のひとりごと
前にあかねちゃんが計画していたお泊り天体観測会です。
こういう集まりはだいたい女の子がリードします(笑)
頼久さんのベッドで眠るあかねちゃんと蘭かわいい(マテ
結局一番大人の頼久さんが最後まで面倒見てます。
頼れる彼氏です(>▽<)
最終的に報酬としてあかねちゃんを満喫してるから大丈夫です!
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