
頼久は下弦の月に照らされながら歩いていた。
夜はすっかり更けて、普通なら足下がおぼつかないほど暗い。
もちろん頼久は夜目がきくからどうということはなく家路を急いでいた。
どんなに急いでも妻がもう眠りについているのはわかっている。
いくら遅くなっても帰ると言ってある日は妻が起きて待っていてくれるが、今日は違った。
左大臣の都合でたまたま解放されただけで、本来ならば3日ほど家を開けるはずだったのだ。
だから、頼久の愛しい妻は今日は夫が帰ってこないと思って眠っているはずだった。
それでも、どうしても武士溜まりで一夜を明かす気にはならなくて、頼久は深夜にもかかわらず帰路を急いでいた。
眠っている姿を一目見るだけでかまわない。
頼久は屋敷に到着すると静かに気配を殺して妻の寝所へ向かった。
刀を外し、衣を解いて単だけの身軽な姿になってからすーすーと愛らしい寝息をたてている妻の傍らへ。
愛しい人の眠りを妨げたりしないようにとそっとその寝顔を覗き込めば、ふわりと梅花が薫った。
頼久が小首を傾げてよくよく見れば、どうやらあかねは着物を一枚握り締めて寝ているようだ。
梅花はその着物から薫っているものらしい。
頼久がそれをそっと取り上げようとするとあかねが嫌がって着物をぎゅっと抱きしめた。
「頼久、さん…。」
悲しげにそう名を呼ばれて頼久ははっと動きを止める。
手によくなじんだその着物は自分のもののようだ。
どうやら妻は一人でいるのが寂しくて自分の衣と共に眠っていたのだと気づいて、頼久の顔には笑みが浮かんだ。
自分がいない間も自分のことを思ってくれる妻の想いがうれしくて、頼久は妻が目覚めるのもかまわずに着物を無理に取り上げると、むずがるあかねの隣に身を横たえてさっとその小さな体を抱きしめた。
「ん?あれ?へ?」
腕の中で寝ぼけながら見上げてくる妻に微笑んで見せて、頼久の大きな手があかねの髪をなでる。
「夢?」
「いえ、ただ今戻りました。」
「頼久、さん?」
「はい。今宵はこのまま。」
どうやら寝ぼけているらしいあかねはそれ以上目をあけていられなくて、きゅっと頼久に抱きつくとそのまま寝息をたて始めた。
「お前の役目は終わりだ。」
小さな声でそう言ってあかねから取り上げた着物を局の隅へ放ると、頼久は苦笑しながら妻をしっかりと抱いた。
自分の着物だというのに妻に抱かれていたというだけで着物にまで嫉妬しそうで。
そんな想いを取り払うようにやわらかい妻の体をしっかり抱きしめて頼久も目を閉じる。
静かな夜、腕の中には最も大切な人のぬくもり。
頼久にとってこれ以上はないほど満ち足りた眠りが訪れた。
管理人のひとりごと
頼久さんに禁断症状が出てますねぇ(’’)
そして自分の衣にまで嫉妬してますよぉ(’’)
ここは自分の衣を抱いて寝てくれているって喜ぶところですよっ!(マテ
でもまぁ、それくらいあかねちゃん溺愛な頼久さんってことです!
プラウザを閉じてお戻りください