
頼久は縁でゆっくり刀の手入れをしていた。
先日、左大臣の警護で賊を相手に太刀をふるったからだ。
刀は武士の魂だが、それ以上に自分の身を守る大切な相棒でもある。
この京で最も尊き己が妻に命を粗末にしてはいけないと言われている以上、頼久は己の命を何がなんでも守らねばならない。
今までも刀の手入れを怠ったことはなかったが、妻を得た今は特に念入りに刀の手入れをするようになっていた。
この世で頼久が最も恐れるのは妻の涙だ。
刃が欠けていないかを確認し、丁寧に磨いて一つうなずき、その刀身を鞘へ戻したその瞬間、頼久は背中に暖かいものを感じて目を丸くした。
やわらかい感触、かすかに薫る梅花の薫り。
間違いない、それは愛しい妻のぬくもりだった。
そう、振り返ってみれば、背後から愛しい新妻が自分の背に抱きついているではないか。
頼久は驚きで目を見開いたまましばらく凍り付いていたが、愛しい人の様子が何やらいつもと違っているのが気になって刀を脇へ置くと妻を膝の上に抱え上げた。
「神子殿?どうかなさいましたか?」
「頼久さんが…刀を持ってたから…。」
「は?」
頼久が刀を持っているのは武士なのだからいつものことだ。
だから頼久にはあかねが何を言いたいのかがわからない。
「刀がお嫌ですか?」
そう尋ねてみれば頼久の方に顔をうずめたあかねはふるふると首を振る。
「では…。」
「…怨霊と戦っていた頃、頼久さんはよく私をかばってくれて…怪我とかいっぱいしてたでしょ?」
「はぁ、それは、まぁ…。」
「思い出して…今だって頼久さんは武士のお仕事してるし……。」
そこまで話すとあかねの声は涙声になって…
ここで頼久は初めてあかねが何を言いたいのかに気づいた。
そして愛しい人の小さな体を優しく抱きしめる。
「御心配なく。私は龍神の神子殿を妻に迎えた果報者です。間違いなく、龍神の加護がありましょう。こうして傷一つ負うことなく、息災にしているのが何よりの証拠です。」
「そ、そんなことは…。」
「神子殿が簡単に命を捨ててはならぬとおっしゃって下さいますから、私もそう簡単に命を捨てるつもりはございません。何より、神子殿が悲しまれるようなことをするつもりはございませんから。」
「頼久さん…。」
やっと顔を上げたあかねは涙をぬぐうと、優しく微笑んでいる夫に自分も笑みを返した。
目の前にいる実直な武士の夫は、八葉であった頃よりもやわらかく微笑んでいて…
そっとあかねに口づけると優しく抱きしめてくれた。
その優しさやぬくもりに安心してあかねはうっとりと夫にもたれかかって目を閉じる。
そして心の中で一人、龍神に祈りを捧げた。
私の大切なこの人が、戦いで傷ついたりしませんように、と。
管理人のひとりごと
結婚しようが何しようが、頼久さんは武士なわけです。
ということはこれからもきっと仕事で危ないことがいっぱいあるだろうなと。
それをあかねちゃんが心配しないわけはない!
ということでできたお話。
まぁ、龍神の神子様がついてるから頼久さんは無敵っていうお話でもあります(’’)
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