
頼久は足音も高らかにあかねの屋敷へ駆け込んだ。
いつもなら庭を眺めていることの多いあかねが庭にはいなかった。
慌ててあかねの局へ回ってみればそこにもいない。
頼久は顔色を青くしながら屋敷の中を走り回った。
あかね付きの女房達が怪訝な顔をしてこの青年武士を見つめ、声をかけようとしてはためらった。
何しろ、この腕の立つ武人が血相変えて走り回っているのだ。
しかも腰には太刀を下げている。
女房達としては恐ろしさが先に立った。
だが、頼久にはそんなことにかまっている暇はない。
今はただ、大切な妻の姿を見たかった。
もうこの屋敷に妻はいない可能性もあるのだ。
頼久はここが最後とばかりに厨に駆け込んだ。
「頼久さん?どうしたんですか?そんな…。」
振り返ったあかねにそれ以上何も言わせず、頼久は物凄い勢いで料理をしているあかねに駆け寄るとその小さな体を腕の中に閉じ込めてしまった。
「ちょっ、頼久さん!」
あかねが抵抗しようとしても、その鍛えられた腕でギュッと抱きしめられてしまってどうにも身動きが取れない。
周りで料理を手伝っていた女房達はクスクスと笑いながらあっという間に姿を消した。
この屋敷ではこうして夫婦がよく言えば仲良く、下世話にいえばいちゃつくことが少なくない。
「神子殿…。」
自分を呼んだ頼久の声が苦しそうに、まるで搾り出すかのように発せられた事に気づいて、あかねはぐっと顔を上げた。
そこには悲壮な頼久の顔が…
「どうかしたんですか?」
「神子殿が内裏に召されるという噂を聞きまして…。」
「あぁ、今日、お使いの人が来ましたけど…。」
そこまで言ったあかねは更にギュッと強い力で抱きしめられて、二の句がつげない。
「神子殿が内裏になど……私は…もうあなたを手放すことなど…。」
「ちょっと待ってください!雨乞いをするから龍神の神子にちょっと顔を出して欲しいって言われただけです!了解しましたから、当日は頼久さんも警護してください!」
「は?雨乞いだけ、なのですか?」
「だけです!」
ほっと安堵の溜め息をついて頼久が腕の力を緩めれば、ぷっとむくれたあかねが自分をジト目で見上げていて…
そんな顔も愛らしくて、手放さなくてもいいことが嬉しくて、頼久は再びあかねを抱きしめた。
「ちょっ、頼久さん?もう、変な誤解する前にちゃんと私の話を聞いてくださいよぉ。」
「御意。」
ただ一言紡がれたその声がとても落ち着いていて幸せそうだったので、あかねはむくれるのをやめることにした。
といっても、こうもきつく抱きしめられていてはそれ以上何もできなかった。
管理人のひとりごと
まぁ、あかねちゃんは龍神の神子ってことですから、年中行事には参加ですよ(笑)
でも、内裏からの使いとなるとやっぱりねぇ。
頼久さんは分不相応なお嫁さんをもらったと思っているので、まだドキドキなんですねぇ。
いつか、妻は誰にも渡さん!と言って欲しい(爆)
でも、それは頼久さんじゃないような気もする複雑な管理人でした(’’)
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