
目の前にいる愛しい人が悲しそうな顔で自分を見つめていた。
今にも消えてなくなりそうな儚い表情をしている。
頼久はなんともいえない不安にかられて必死に愛しい人を見つめ返した。
このままこの人は消えてなくなってしまうのではなかろうか?
いや、この愛しい人は確か自分の妻となり、一生を共に過ごすと約束してくれたのではなかったか?
本来いるべき世界さえも捨てて自分の隣にいることを選んでくれたのではなかったか?
頼久がパニックに陥っているうちに目の前の愛しい人はその目から涙をこぼした。
あぁ、この方は元の世界に帰ることを決断されたのだ。
今まで自分が信じてきたものは真実ではなく、己の願望が見せる夢だったのだ。
頼久はそう気付いて絶望した。
気付いてしまえばそれはもっともな現実に思えた。
愛しい人−あかねはその双眸から涙をこぼしながら消えようとしていた。
その姿がだんだんと薄くなり、今にも消えそうだ。
頼久は必死に手を伸ばし、声の限りに叫んだ。
「神子殿!」
自分の声に驚いて頼久ははっと目を見開いた。
するとそこは…
「頼久、さん?」
勢い余って上半身を起こして宙に手を伸ばした頼久は声のする方を見て手を下ろし、安堵の溜め息をついた。
そこにいたのは愛しい妻。
「頼久さん…もしかしてまた変な夢見ましたね?」
「はぁ…。」
一瞬のうちに不機嫌そうな声になる妻に頼久はおののいた。
頼久にとってはこの妻が不機嫌になることが何より恐ろしい。
「もぅ…頼久さんが急に私のことを大声で呼ぶ時って絶対私がいなくなる夢を見てるときなんですから。」
そう言って不機嫌そうにして見せるあかねは愛らしくて、頼久は思わずその肩を抱き寄せようとして拒絶された。
「寝ぼけないで下さい、ここは真昼間の縁ですよ?」
辺りを見回して頼久は溜め息をついた。
そう、ここはあかねの屋敷の縁だ。
頼久はどうやらうたた寝をしていたらしい。
「もう、お昼寝して私がいなくなる夢なんか見ないで下さい!」
「申し訳ありません…その…先日泰明殿がもしかすると神子殿を元の世界へお帰しするための道をもう一度開くことができるかもしれないとおっしゃっていたので…。」
「それ、私も聞きました。たとえ元の世界へ今すぐ戻れるとしても私は絶対戻りません。頼久さんと一緒にいられない世界へなんて絶対行きませんから!」
少し怒っているようなあかねの言葉に安堵して、頼久はその顔にやっと笑みを浮かべた。
そして不機嫌そうに抵抗するあかねを力ずくで抱き寄せて腕の中に閉じ込めて、満足げに目を閉じた。
腕の中に閉じ込められてしまったあかねは「もぅ」と不満そうな声をあげはしたものの、すぐにうっとりと幸せそうに目を閉じる。
頼久は腕の中にある確かなぬくもりを抱きしめて、午睡の夢の不安を追い払うのだった。
管理人のひとりごと
珍しく頼久さんが積極的にというか力ずくであかねちゃんをギュウギュウしてますね(w
色々あって、違う世界の二人が一緒に暮らしてるわけで、引き止めちゃった頼久さんはやっぱりすぐに幸せいっぱいってわけにはいかないかなと。
いや、基本は幸せなんですが心のどこかにある不安が夢になって出るくらいのことはあるのではないかと思うわけです。
まぁ、目が覚めたらあかねちゃんがいるから大丈夫です(^^)
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