
頼久は紙の束を抱えてアーケード街を歩いていた。
仕事の原稿を印刷する紙が切れたので買いに出てきたのだ。
なるべく外出はしないようにしている頼久だが、さすがに仕事道具がなくなったとなれば買いに出ざるをえない。
まだ3月で寒い日も多いというのに街中はすっかり春めいていた。
人々も笑みを浮かべて楽しそうに歩いている。
時折自分に向けられる視線を無視するように心がけながら、頼久は早足で帰路を急いだ。
油断するとすぐ女性から声をかけられるのだ。
そんなところを万が一にも何よりも大切な恋人に見られでもしたらと思うと生きた心地もしない。
一刻も早く帰宅しようと急ぐ頼久はだが、ある店の前で立ち止まった。
ショウウィンドウに飾られているものに目がとまったのだ。
それは桜をモチーフにした可愛らしいブローチだった。
花びらがいくつか風に舞っているかのようにあしらわれていて、大きさも大きすぎずに上品だ。
薄紅色が可愛らしくて、一瞬でそれはあかねを連想させた。
こういうものには詳しくない頼久は、この店が女性に人気の店なのかも有名なブランドなのかも何一つわからない。
ブローチに使われている宝石の類が本物なのかプラスチックなのかもわからない。
それでも、そのブローチはどうしてもあかねを思わせて、あかねが身につけてくれたらどんなにか似合うだろうと想像するともういても立ってもいられなかった。
こんな店には入ったこともないが、頼久の足は自然と店の扉をくぐって中へと向かった。
店員に何を尋ねるでもなくすぐにブローチがほしいと宣言し、値段も聞かずにカードを差し出した。
カードで買い物をすることなどないだろうから必要ないと思っていたが、いつどんなことがあるかもわからないからと天真にすすめられて作っておいてよかったと心の中で真の友に感謝する。
そうしている間にも店員はさっさと作業を進め、贈り物であるのかと問われたので一瞬考えて頼久はうなずいた。
あかねの誕生日でも何かの記念日でもなんでもないが、それでもこのブローチはすぐにあかねに贈りたかった。
だから贈り物の包装を依頼して待つことしばし。
待っている間に女性店員に恋人への贈り物ですか?と尋ねられてそうだと即答する。
何故か女性店員が小さく溜め息をついて包装の終わった包みを手渡してきた。
それを受け取って、頼久は礼を言うのもそこそこに店を出た。
何やら女性店員からよからぬ雰囲気を感じたからだ。
店員が女性であった場合、かなりの確率で頼久は雑談を求められることが多いのだ。
そんな気配を察していそいそと店から出た頼久は、左腕いっぱいに荷物を抱えて右手で携帯を取り出すとあかねへメールを打ち始めた。
できれば今から、不都合なら明日にでも5分でいいから会えないかとメールしてみる。
あかねが出てくるのが無理ならば自分の方から出向いてもいいのだ。
メールを送ってすぐに返信が来て…
そこにはこれからすぐに頼久の家へ行くというあかねの嬉しい返事が書かれていた。
頼久はうっすらと笑みを浮かべて歩き出す。
左手に抱えた小さな包みを開けたときにあかねがどんな顔をしてくれるかと想像しながら歩く帰路は、いつも一人で歩く道とは全く違う道に感じた。
管理人のひとりごと
管理人はプレゼントを選ぶのが苦手です。
誕生日とかクリスマスとか決められた時期に選ぶのが苦手です。
贈り物って、あ、これはあの人に絶対喜んでもらえる!って思えた時にそれを贈りたい。
そう思っておりますので、それを頼久さんにやってもらいました(’’)
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