月
 頼久は部屋が暗くなってきてやっと気付いて本から目を上げた。

 書斎で資料に目を通していると時間を忘れてしまうことが多い。

 視界が暗くなってきて初めて窓を見れば、外はもう夕陽に照らされて赤く染まっていた。

 静かな書斎で一人、ぱたりと本を閉じて深い溜め息をついた頼久はそれ以上何をする気も起きず、椅子にもたれてだまって空を眺めていた。

 これから軽く夕食をとる準備でもして、それから簡単に風呂を済ませて、あとはあかねにメールの一つもうって眠るだけだ。

 今日は金曜。

 平日、あかねがここを訪ねてくることはめったにない。

 あかねが訪ねてきてくれる週末以外は頼久にとってはただ淡々と過ぎていくだけの味気ない毎日なのだ。

 今日もまた、いつもと同じ一日が終わるのかと頼久が何気なく再び溜め息をついたその時。

 頼久は表に人の気配を感じて立ち上がった。

 あかねの気配のような気がしたからだ。

 慌てて玄関へ駆け込んだ頼久が玄関の扉を開いてみると、そこにはやはりあかねが立っていた。

 一度家へ帰ったらしいあかねは、可愛らしいワンピース姿で紙袋を手にして微笑んでいる。

「神子、殿?」

「はい。こんにちわ。あ、もうこんばんわかなぁ。」

「どうなさったのですか?」

「あ、突然訪ねてきちゃってごめんなさい。あの、今日は何の日か頼久さん知らないだろうなぁと思って。」

「今日、ですか?」

 あかねを中へといざないながら頼久は今日がなんの日だったかを考えてみた。

 あかねの誕生日は夏だし、自分の誕生日はまだ先だ。

 あかねと頼久が出会ったのは京の春だったから今は違う。

 では、いったいなんの記念日だっただろうか?

「えっとですね、今日は十五夜なんです。」

「あぁ。」

 あかねに言われて初めて気付いた頼久はあかねと共にリビングの窓辺に立った。

 空を見上げれば綺麗に晴れている。

「凄く綺麗に晴れてるから、今日は一緒に中秋の名月が見られるかなぁと思って、それでお月見団子作ってきたんです。あ、お父さんとお母さんにはちゃんと許可もらってきましたから。月が出てからしばらく一緒に眺めててもいいって、そのかわり…。」

「お任せ下さい、帰りはご自宅までお送りいたしますので。」

「はい、お願いします。」

 あかねはそう言って簡単に二人分の食事を作るとお茶をいれて頼久と二人、窓辺に並んで座った。

 するとちょうど綺麗な満月が顔を出して、雲ひとつない夜空に輝き始めた。

 あかねと頼久は視線を交わして微笑み合うと、何を語ることもなく二人寄り添って望月を眺め続けた。

 秋の静かな時間、ただ二人でいることがとても幸せだった。





管理人のひとりごと

管理人は天体観測も趣味なのですが、お月見大好きです(^^)
頼久さんはそういう風流なことはあまり得意ではないので、やりましょうというのはあかねちゃんの方ですね。
ウィークデイはあかねちゃんに会うことができないので頼久さんはたぶんボーっと過ごしています(笑)
頼久さんにはお仕事があるはずなんですが、たぶん脳の80%くらいがあかねちゃんで占められていると思われます(’’)




プラザを閉じてお戻りください