秋雨
 クラス委員が体調を崩してしまって、代わりに物理の教師に実験基材を運ぶのを手伝ってくれとか、数学教師にプリントの準備を手伝ってくれとか言われてしまって、あかねはすっかり暗くなった玄関先で立ち尽くした。

 こんなに遅くなってから帰宅するのは初めてのことだ。

 しかも午前中は綺麗な秋晴れだったというのに午後から雨が降り出して、今は土砂降りの状態だ。

 朝は晴れていたから傘も持ってきていない。

 あかねは玄関先で深い溜め息をついてから校門へ向かって歩き出した。

 これはもう、家に帰るまでには全身ずぶ濡れを覚悟した方がいいようだ。

 ところが、校門を出るとすぐに自分の体を激しく打ち付けていた雨がなくなった。

 驚いて視線を上げるとそこには…

「頼久さん?あれ、どうしてここに?」

 目の前には傘を差し出してにっこり微笑む頼久の長身があった。

 もちろん、雨に降られたからといって呼び出すような真似はしていないし、待ち合わせていたわけでもない。

 あかねは目を丸くして街灯に照らされる恋人の顔を見上げた。

「珍しく夕刻に天真がきまして。」

「はぁ。」

「この雨だというのに神子殿が傘を持たずに登校なさったと聞きましたので。」

「それでわざわざ迎えにきてくれたんですか?」

「はい。秋の雨は冷たいですからお体に障ります。」

「夕刻って……もしかしてこの雨の中すーーっごく待たせちゃいました?」

 頼久はただ微笑むだけで答えない。

 ということはそうとう長いことこの辺に立って待っていてくれたのだと気付いてあかねは悲しそうにうつむいた。

「ごめんなさい、私がちゃんと傘を持って出なかったから…。」

「いえ、私がしたくてしていることですから。まぁ、天真を放ってきたので、あれは今頃酔いつぶれているかもしれませんが…。」

「天真君、またお酒持って行ったんですね…。」

 あきれて溜め息をつくあかねの肩を抱き寄せて、頼久はゆっくり歩き出した。

「あれ、頼久さん、車じゃないんですか?」

 駐車場とは違う方向へ歩き出したのに気付いてあかねが小首を傾げると、頼久は優しく微笑んでうなずいた。

「はい、家に戻れば天真がいますし、神子殿のお宅へお送りするにも車だとあっという間に到着してしまいますので。」

 そう言って微笑む頼久を見て一瞬キョトンとしたあかねは、しばらくしてその言葉の意味に気付いて顔を真っ赤にした。

「そ、そうですね、えっと…じゃぁ、少しだけ遠回りしましょうか、お母さんに電話して大丈夫って言っておくので…。」

「はい、神子殿のお望みのままに。」

 頭上から降ってくる優しい声を聞きながら、あかねは携帯を取り出して自宅に電話をかけた。

 電話の向こうの母に「頼久さんが迎えにきてくれたから大丈夫。」と話すその声は雨音に混じってとても楽しげだった。




管理人のひとりごと

頼久さんが雨の中を傘も持たずに歩くあかねちゃんを見逃すはずがありません(爆)
おかげで天真君が放置されてますが、きっと天真君もそれでよしと思っています。
いいやつなんで(笑)
秋の雨って冷たくてどこか寂しい感じがするなぁと管理人は思っているのですが、頼久さんと二人ならあかねちゃんもきっと幸せでしょう(^^)




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