手土産
 荷物を一つ抱えた頼久は夜が明けたばかりの庭へと音を立てないようにやってきた。

 旅装のままなのは左大臣の警護で遠出をして帰ってきたばかりだからだ。

 もう少し早く戻れたならすぐに新妻と共に寝所に入れたし、もう少し遅ければ目覚めたばかりの新妻に無事に帰ってきたと姿を見せることもできたが、この中途半端な時間ではまだ妻は眠っている。

 だから、頼久はなるべく物音をたてないよう、眠っている妻を起こさないようにと気遣って庭へやってきたのだ。

 頼久は辺りを見回して見慣れた屋敷にほっと安堵の溜め息をつくと、そっと庭の片隅にかがみこんだ。

 そしてそこへ抱えてきた荷物を下ろすと包みをとき、中から花の株を取り出して庭へと植え付けを始めた。

 それは、警護で出かけた先で見つけた珍しい花だ。

 以前から妻が花を好むことはよく知っている頼久だったが、だからといっていつも花を摘んで帰ってきていたら先日妻にあまりたくさん花を摘んではかわいそうだといわれてしまった。

 そんな妻の心優しいところも頼久が愛する妻の美徳の一つだから、それはもっともなこととうなずいたところまではよかったのだが、ではどうやって妻に手土産を持って帰ればよいかと苦悩した末、株で持って帰って庭に植えることを思いついた。

 そうすれば花を手折ることなく、花が好きな心優しい妻を喜ばせることができるというわけだ。

 頼久はせっせと作業を進めてあっという間に花の株を庭へ植えつけると、今度は水を運んできて植えたばかりの花に優しく水をやり始めた。

 そうこうしている間に陽はすっかり上って、水に濡れた花は綺麗に輝いて見えた。

「頼久、さん?」

 そう声をかけられて頼久が振り向くと、そこには眠たそうに目をこする愛らしい妻の姿があった。

 まだ寝巻きを着たままで髪も少し乱れている。

 そんな妻が愛しくて、頼久はすぐに妻のもとへと歩み寄った。

「もうお目覚めですか。」

「頼久さん、お仕事から帰るの今日の午後って…。」

「はい、その予定だったのですが急いで戻りましたので…。」

 そう言って頼久が微笑んで見せるとあかねは少しばかり心配そうな顔を寄せて頼久の顔をのぞきこんだ。

「お仕事で疲れてるのに無理してませんか?」

「はい、ご心配なく、鍛えておりますので。」

「頼久さんがたくさん鍛錬してるのは知ってますけど…。」

「それよりも神子殿、御覧頂きたいものがあるのですが。」

 あかねが可愛らしく小首を傾げると、頼久はさっとあかねを抱き上げて先程植えつけたばかりの花の所へと移動した。

「よ、頼久さん?」

「旅先で珍しい花を見つけましたので。」

「あ、かわいい…もしかして、この前、摘んじゃったらかわいそうって言ったから…。」

「はい。このようにすれば花を手折らずにすみますし、長く神子殿にお楽しみいただけますので。」

「有難うございます。」

 あかねは頼久に抱き上げられたまま嬉しそうに微笑んだ。

 この笑顔が見たくて花を手に帰ってきたのだと頼久も満足げに微笑む。

「そのように喜んで下さるのでしたら毎回このようにして持って帰って参りましょう。」

「そんな、毎回って大変じゃないですか…。」

「いえ、これくらいどうということはありません。神子殿に喜んで頂けるのでしたら、この庭一面を花で埋めて差し上げます。」

 そう言って頼久が妻を抱く腕に力を込めれば、あかねも嬉しそうに微笑んだまま黙ってうっとりと目を閉じた。

 そうして庭に植えられたばかりの花の前で二人はそのまま、女房に朝餉の支度ができたことを知らされるまでたたずむのだった。




管理人のひとりごと

地方にお仕事に行った時も頼久さんはあかねちゃんへのお土産のことをわすれません(^^)
お花を折っちゃかわいそうといわれてしまったので悩んだ末に根っこごとお持ち帰りです(爆)
でもたぶん花よりも寝巻き姿の神子殿の方がお美しいとか思っています、頼久さんは(’’)




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