
頼久は暗闇の中で目が覚めた。
夜明けはまだまだ遠そうだというのに何故目が覚めたのかと不思議に思いながらも、ゆっくりと左腕で抱えている細い肩の存在を確かめた。
自分が目覚めたということは、何か妖しい気配の侵入を感じ取ったか、もしくは腕の中の妻の身に何か異変が起きたのか…
そう思いをめぐらせて妻を起こさぬように半身を起こして妻の寝顔を覗き込んでみれば、まだ幼さの残る愛らしい妻はすやすやと気持ちのよさそうな寝息をたてていた。
辺りに妖しい気配もない。
ほっと安堵の溜め息をついて頼久が褥へもぐりこもうとしたその時…
「大好き…だから……。」
それはかすかにあかねの唇から漏れた寝言だった。
寝顔を覗き込めばうっすらと悲しげにその顔が曇っているのが見えた。
頼久は再び上半身をしっかりと起こし、あかねの顔をのぞきこむ。
今の寝言はいったい誰に向けられた言葉だったのだろうか。
自分の夢をみてくれているのならばこれほど嬉しいことはないが、新妻が自分にはいつも敬語を使うことを考えれば、今の寝言は自分に向けられたものとは思いにくい。
ならばいったい誰に?
その考えにあまりに集中していた頼久はついうっかり左腕を動かしてしまい、あかねがそのせいでゆっくりと目を開いた。
「頼久、さん?」
半分寝ぼけたあかねの目に映ったのはどうやら怒っているらしい夫の顔だった。
驚いてあっという間に目が覚めたあかねは上半身を起こして頼久の顔をじっと見つめる。
「えっと、頼久さん?どうかしたんですか?」
「寝言を言っておいででしたので。」
「はい?」
「どんな夢を御覧になっていたのかと…。」
「えっと、私、どんな寝言を言ったんでしょう?」
「大好きだから、と……誰のことをおっしゃっていたのかと…。」
「うわぁ……。」
急激に顔を真っ赤にしてあかねはうつむいた。
「神子殿?」
「そ、それはですね…もちろん頼久さんのことで…。」
「ではどのような夢を御覧になったのですか?」
「それは、その……頼久さんが、私以外にもたくさん妻を持つ夢で…。」
「はぁ?」
「昨日、女房さん達にそれがここでの常識だって教えてもらって、それで……大好きだから行かないでって一生懸命叫んでる夢でした…。」
「神子殿…。」
頼久はそっと新妻を抱き寄せてギュッとその華奢な体を抱きしめた。
「確かに京にはそのような風習がございますが、私は神子殿より他の女性のもとへ通うような真似は決して致しませんので。もうそのようなことを心配なさらないで下さい。」
「頼久さん…。」
「絶対に、神子殿ただお一人と誓いますゆえ。」
そう言って頼久は再び腕枕にあかねを寝かせると、そのまま自分も横になってあかねの体を抱きしめた。
すると、安心したのかあかねはすぐに幸せそうな寝息をたて始めて、頼久も微笑みながら目を閉じた。
心の中で一人、生涯この方お一人、と、誓いながら。
管理人のひとりごと
まぁね、一夫多妻制の世界ですからね。
でもね、どう考えても頼久さんの奥さんが複数ってありえないです。
そんな器用なことできません、絶対(’’)
いや、褒めてるんですよ?(マテ
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