うたたね
 あかねは木刀が空を切るその鋭い音を聞きながら縁側に座って庭を眺めていた。

 目の前で木刀を振っているのはもちろん頼久だ。

 着物に袴といういでたちで一心に木刀を振っている姿は本当に京にいた頃、武士団の若棟梁だった頼久と全く変わらない。

 何故こんなことをしているかというと、先日、とある誤解が生じたために頼久が剣術を教える場を失ったからだった。

 女子高の剣道部の指導者という話を蹴った頼久のことをやはり剣の道は続けたいだろうと気遣ったあかねが庭先で鍛錬をしてみたらどうかと提案した結果、すぐに実践してみたのが今の状況だ。

 せっかくだからとあかねと再会するためだけに用意された衣装に着替えて素振りを始めた頼久に、あかねはぼーっと見惚れていた。

 すっと振り下ろされる木刀は空を斬っているだけなのに、澄み切った音がしてなんだか見ていてとても気持ちがいい。

 綺麗に伸びた背筋、まっすぐな視線、無駄のない動き。

 どれを見てもそんな頼久はいつもと少し違って凛々しく見えて、まるで芸術品のように綺麗にも見えてあかねはただただ見惚れてしまうのだ。

 あまりじっと見つめているのもなんだか照れくさくて、時々庭のあちこちに視線を泳がせては見るのだが、結局その瞳は頼久の元へ戻ってきてしまう。

 だが、頼久はそんなあかねの視線など全く意に介さない様子で一心に木刀を振り続けていた。

 やっぱり頼久さんは武士なんだなぁ。

 あかねがそう心の中でつぶやくのと同時に頼久のまなざしがあかねへと向けられた。

「神子殿、退屈ではありませんか?」

「いえ、私は別に……それより、頼久さんはこんな風に私に見られてるのいやじゃないですか?」

「武士団にいました頃は後輩によく素振りを見せておりましたので気にはなりません。ですが、神子殿は素振りをただ眺めているのではつまらないでしょう。」

「そんなことないですよ。鍛錬してる頼久さん素敵ですもん。」

 にっこり微笑むあかねに急にかーっと顔を赤くした頼久は何も言わず、また素振りを再開した。

 あかねはどうして頼久の顔が赤くなったのかがわからずに小首をかしげながら、黙って頼久を眺め続ける。

 木刀が風を斬る音、時々かすかに吹く春の優しい風、それになびく頼久の長い髪。

 そのどれもが心地良くて、見ているだけでなんだか幸せになって…

 あかねは春の陽射しに照らされて、そのまま心地いいまどろみの中へと意識を手放した。





「ん〜。」

 なんだか凄く幸せな夢を見たような気がする。

 そんなことを考えながら重たい瞼をようやく上げてあかねは自分の体がやけに温かいことに気がついた。

 自分がどんな状況にいるのかが寝ぼけた頭ではよくわからない。

 辺りを見回すともう傾きかけた陽射しに染まる春の庭。

 そして縁側にいる自分。

 ところがそんな自分は居眠りをしていたようで…
「お目覚めですか?」

 頭上から降ってきた優しい声にあわてて視線を上げるとそこには穏やかに微笑む頼久の笑顔があった。

 よくよく自分のことを見回してみると、いつの間にかあかねの体は頼久の膝の上にあって、さきほどまで木刀を正確に振っていたはずの二本の腕はしっかりとあかねの体を抱いていた。

「えっと…あの…。」

「まだ少し寒いですから。」

 そういう頼久はもぞもぞと腕の中から抜け出そうとするあかねをしっかり抱きしめる。

 どうやらまだまだ解放する気はないらしくて、あかねは観念して頼久の胸にもたれかかった。

 温かい。

 優しささえ感じる恋人の体温にうっとりするあかね。

 そしてそんなあかねを愛しそうに見つめる頼久。

 二人を紅に染める春の夕日はまだしばらく沈みそうにもなくて。

 やがてあかねは再び幸福な眠りへと落ちていくのだった。



管理人のひとりごと

頼久さんの素振りって綺麗なんだろうなぁという管理人の妄想の一編です(爆)
あとはあかねちゃんみたいに幸せなお昼寝がしたい…
という管理人の願望(’’)
目が覚めたら頼久さんの腕の中、最高です!



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