
初夏の暖かい陽射しが縁に差し込んでポカポカと暖かい。
あかねは少しばかり長くなった髪をゆったりと背に流して、酒器を手にゆっくり歩いていた。
昨夜、左大臣の警護が入って帰宅が今朝になった夫の頼久が縁でくつろいでいる。
そこへ酒を持っていこうとしているのだ。
ところが、眠る前にお酒でも飲んでリラックスしてもらおうというあかねの心遣いを縁で待っていた頼久は、あかねが戻ってくると柱にもたれて眠ってしまっていた。
武士として武士団随一の腕を持ち、鍛え上げた体力はというと常人からは想像もできないほどの人だというのに、さすがに連日の激務で疲れたのかあかねが近づいても目覚める気配がない。
あかねは酒器をそっと音を立てないように傍らへ置くと、夫の寝顔を覗き込んだ。
夜はあかねが先に眠りについてしまうし、朝は鍛錬のために頼久の方が先に目覚めるからあかねは頼久の寝顔をほとんど見たことがない。
だから、あかねはこれはチャンスとばかりに端整な夫の寝顔に見惚れた。
よく見ると睫毛が長いとか、実は凄く肌が綺麗とか、引き結ばれた唇が凄く凛々しく見えたり、眉がとても秀麗だと気付いたり。
あかねが上機嫌でもっとよく見ようと顔を近づけたその時、すっと伸びた頼久の腕があかねを自分の方へ抱き寄せた。
「よ、頼久さん!起きてたんですか?!」
慌ててあかねが身を捩っても鍛えられた頼久の腕の力から抜け出せるはずもなく、そのままぎゅっと抱きしめられてしまう。
しかも首筋に頼久の吐息がかかってなんだかくすぐったい。
「よ、頼久さん?」
「…神子殿……お慕いして…おります……。」
「は、はい?頼久さーん?」
なんだか会話がかみ合わない。
まさかと思って夫の顔を確認しようとあかねが身をいくらひねっても頼久の腕はびくともしない。
「頼久さーん?寝ぼけてるんですかぁ?」
いつもきりっとしている夫からは想像もできない寝ぼけ姿を見られるならこれもチャンスとばかりに、あかねは微笑を浮かべて少しだけ腕の中で幸せに浸った。
もうちょっとこのままでもいいかも?
とあかねが思ったその時、更に頼久によってぐっと抱き寄せられたあかねはそのまま簀子の上へと押し倒されてしまった。
きゃっと小さな声をあげるあかねにも気付いていない様子の頼久はそのままあかねの上にのしかかる。
「ちょちょちょ、ちょっと頼久さん!それはいくらなんでもどうでしょう?!」
「…神子殿……どうか…どうか………。」
あかねの耳元にある頼久の唇から囁きのような言葉がもれて、あかねはびくりと体を震わせた。
その声があまりに悲しそうで切なくて。
自分を抱きしめる腕の力に何か切実なものを感じて。
夫がどんな夢を見ているのか気になりながらもあかねはそっとその大きな背に手を回し、力いっぱい逞しい体を抱きしめ返した。
そうしていれば夫を悲しい夢からも守れるような気がしたから。
初夏の陽射しに照らされて、しかも愛しい夫に抱きしめられて動けないあかねはそのままだんだん眠くなり…
しばらくして頼久は目を覚ましてすぐに、自分の下になってぎゅうぎゅうと自分に抱きついている妻のすやすやと眠る姿にとんでもなく驚くことになるのだった。
管理人のひとりごと
いつもはちょとしたことで目を覚ます頼久さんですが、さすがに愛しい新妻が相手だとその気配が近づいても目が覚めないようです(笑)
あかねちゃんにとっては絶好のイタズラチャンス!
なはずだったんですが、結局寝ぼけた頼久さんにまでつかまっちゃってます(爆)
起きた頼久さんは驚きながらも嬉しかったに違いないです(笑)
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