月祈
 頼久は雪の中を一人、足早に歩いていた。

 年が明けて早々に左大臣の警護という仕事が入り、昼間は左大臣につききりだった。

 おかげで新年の楽しい一時を愛しい許婚と過ごせなかったのだ。

 仕事の日は夜、ゆっくり休むようにとあかねに言い渡されているのだが、新年早々三日もあかねに会えなかった頼久は、どうしてもあかねの気配だけでも感じたくてあかねの屋敷へとやってきたのだった。

 風花のちらつく中、月明かりを頼りにあかねの屋敷までやってきた頼久は、いつものように庭からあかねの局の前へ向かおうとして足を止めた。

 目指す局の前の縁にその人、あかねの姿を見つけたからだ。

 あかねは縁で膝をつき、両手を組んで目を閉じていた。

 その姿はまるで月に向かってひざまずき、何かを祈っているようだ。

 ちらつく風花の中、月に祈りを捧げるあかねは美しく神秘的で頼久は息を飲んだ。

 白い肌は月明かりに冴えて、時折その顔に降っては溶けて消える雪は花びらのようにも見える。

 そんなあかねを見ているうちに頼久は不安になって思わずあかねの方へと一歩踏み出していた。

 まるであかねが遠い天界の存在のように思えて。

 今にも天へ帰ってしまう、そんな気がして。

 二歩、三歩と頼久がうつろな歩みを進めると、降り積もった雪を踏みしめる音に気付いてあかねがその目を開けた。

「頼久さん!どうしたんですか?こんな時間に。」

「神子殿こそ、どうなさったのですか?もう夜も更けております。」

「私は…その……頼久さんがお仕事で怪我とかしないようにお祈りしてたんです。心配だから…。」

「神子殿…。」

 恥ずかしそうにうつむくあかねに頼久はつつと歩み寄ると、そっとあかねの両手を自分の手の中に閉じ込めた。

「すっかり冷えておしまいですね。」

「だ、大丈夫です…まだ全然…それより、頼久さんはお仕事、終わったんですか?」

「はい。神子殿が祈って下さったおかげで、このように怪我一つ負っておりませんので、ご安心下さい。」

「よかったぁ。」

 今度は本当に嬉しそうに微笑むあかねの肩を抱いて、頼久は一時の幸せに目を閉じる。

 このように幸せであることができるのも、腕の中の愛しい人のおかげなのだと心の中で想いを強めてそっとあかねを解放した。

「もうお休み下さい。明日、朝すぐにこちらへ参上致しますので。」

「あ、はい。頼久さんも早く休んでくださいね。」

「御意。」

 おやすみなさいといって局の中へと姿を消すあかねを見送って、頼久は土御門邸へ向かって歩き出した。

 明日は神子殿がお目覚めになる前に参上しよう。

 自室へ帰る道すがら、心の中でそう誓う頼久だった。




管理人のひとりごと

まだ婚儀前の二人の日常です。
頼久さんがお仕事だと会えないのはいつものこと、でも長く会えないとやっぱり寂しくなるのです。
二人とも♪
というところを書きたかったような(マテ
月に祈るあかねちゃん、という絵を思いついて書いた一本です。






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