
あかねは自分の局で一人、じっと自分の手を見つめていた。
左手の中指の先を朝からずっと見つめ続けているのだ。
正確には昨日の夕方からこの指が気になってしかたがない。
昨日は頼久が仕事で顔を見せにきてくれなくて、寂しいの半分、つまらないの半分で庭に下りて、すっかり葉を落とした木を見上げている間にどうしても上りたくなってしまって…
上った結果、左手の中指に棘が刺さってしまったのだった。
自分で抜こうと色々試してはみたものの、元いた世界のように毛抜きというような便利なものがあるわけでもなくて、どうしても抜けないでいる。
放っておいても痛くてしかたがないというわけではないのだが、やはり違和感があって気になるのだ。
どうしたらいいだろうとあかねが困り果てているところに、御簾の向こうからいつもの優しくて低い声が聞こえてきた。
「神子殿?お体の具合でも悪いのですか?」
許婚になってからも決して簡単に御簾の内側に入ろうとしない頼久は、律儀に御簾の向こうに片膝をついているようで、あかねはふっと溜め息をついた。
一声かければ入ってきてくれていいのだと何度言ったらわかってもらえるのだろう?
「具合が悪いってわけじゃないんですけど…あの…頼久さん、中に入ってもらえませんか?」
「はぁ…では、失礼致します。」
いつもならば遠慮する頼久だが、いつも縁で自分を待っていてくれる許婚が御簾の中から出てこようとしないのが気になったのか、おずおずと御簾を上げて中に入ってきた。
そんな頼久が目にしたのは、右手て左手首をつかんで自分の左手を凝視している愛しい人の姿だった。
「神子殿?左の御手がどうかなさったのですか?」
「棘が刺さっちゃってとれなくて…昨日から気になってしかたないんです…。」
さっと頼久の顔色が青くなって、いつもからは考えられないほど素早い動きであかねに近づいたかと思うと、頼久はすっと腰にさしている刀を抜くとそれをあかねの左手中指にあてた。
「よ、頼久さん?!」
まさか頼久が自分に危害を加えるとは思えないが、それでも左手に刀を当てられてはさすがにあかねも青くなる。
だが、頼久はその刀をすこしばかり力を入れてあかねの中指に押し当て、そのまま器用にあかねの指から棘を抜いた。
あまりの手際のよさにあかねが感心して目を見開いていると、刀を鞘へ戻した頼久はそのままあかねを自分の方へ抱き寄せた。
「ちょっ。」
「この頼久をお呼び頂ければ、この程度のこと、すぐに解決して差し上げられますので…。」
「は、はい…次からはすぐお願いします…。」
そんなこといってもお仕事中の頼久さんを呼び出して棘を抜いてくださいなんて言えない、と、心の中で思っていたあかねだが、自分を抱きしめる頼久の腕に力が込められてすぐに何も考えられなくなってしまった。
左手の違和感もなくなって、優しくて暖かい腕に抱きしめられて、今はただその心地良さにうっとりと目を閉じるあかねだった。
管理人のひとりごと
棘なんて、そりゃもう頼久さんは小さい頃にいっぱい刺さってますよきっと。
だから抜くのもお上手♪
うんと小さい頃はあのお兄さんに抜いてもらったこともあるかも。
なんて想像しながら書きました。
刃物を使うというのも外せなかったんで、とりあえず刀使ってみたけど、普通は小刀使うだろうなあ(’’)(マテ
プラウザを閉じてお戻りください