クラシック
 頼久は珍しく一人でリビングでくつろいでいた。

 仕事が一段落したのだが、あかねはまだ学校で、しかたなく頼久はリビングで一人紅茶を飲みながらくつろいでいたのだ。

 こうして一人でいるとどうしても脳裏に浮かぶのは愛しいあかねのことばかりで、そんな自分に苦笑しながら頼久はふと思いついて立ち上がると一枚のCDをステレオにセットした。

 それは先日あかねがプレゼントしてくれたものだ。

 CDショップでたまたまかかっていた曲で、あかねが言うには「頼久さんらしい感じがした」のだそうで、そう語った時のあかねの嬉しそうな顔を思い出して微笑みながら頼久はソファに戻った。

 流れてきたのは綺麗なチェロの音色だ。

 バッハ、無伴奏チェロ組曲。

 それがあかねが頼久らしいからと選んできてくれた曲の名前だ。

 体に響くような美しい低音の音色は静かで荘厳で心地いい。

 あかねに勧められたからというわけではないが、頼久はこの音色がとても気に入っていた。

 あかねを想いながら目を閉じれば、あの清らかな笑顔さえ瞼の裏に甦って、綺麗なチェロのみのメロディはあかねを想ってやまない頼久の心を少しだけ穏やかにしてくれた。

 体に響いてくるようなどこか気高く聞こえるこの音色をあかねが自分に似合っていると思ってくれたことがとても嬉しい。

 そうやって穏やかな音楽に目を閉じて聞き入っていると、ふっと愛しい人の気配を感じて頼久は立ち上がった。

 まだまだ学校の授業があるはずだというのに、それは確かにあかねの気配で…

「こんにちわ、頼久さん。」

 扉を開けるとそこにはやはり微笑を浮かべてあかねが立っていた。

「神子、殿?まだ授業が残っておいでなのでは?」

「急に午前授業になったんです。なんだか学校の近所で発砲事件があったとかで。」

 そう言いながら靴を脱いだあかねを頼久は急に抱きしめた。

「頼久さん?」

「発砲事件だなどと…そのような物騒なことが起こっているのでしたらすぐにでも私をお呼び下さい。」

 心の底から心配している頼久の声は心なしか震えている。

「えっと…近所って言ってもすぐ近くっていうわけじゃないし、念のために下校ってことになっただけだったんで……でも、次は頼久さんに迎えに来てもらうことにしますね?」

「そうなさって下さい。」

 やっと落ち着いて頼久があかねを解放すると、あかねはぱっと花が咲いたような笑顔を見せた。

「これ、聞いてくれてるんですね、CD。」

「はい、とても落ち着く曲ですので、一人の時にはいつも。」

「気に入ってもらえたんですね、よかったぁ。私、自分で聞く用にもう一枚買っちゃったんです。チェロの音ってなんとなく頼久さんの声の響きに似てるような気がしてきて、一人でいる時に聞くとちょっとだけ頼久さんと一緒にいる時の雰囲気が甦るっていうか…。」

 そこから先をあかねは言わせてもらえなかった。

 頼久の腕に力強く絡め取られてしまったから。

「お一人の時に私を思ってこの曲を聞いて下さるのは嬉しいですが、二人でいる時はどうか私の声を聞いていて下さい。」

 あかねの耳元に囁かれる頼久の声はチェロの音よりもずっと甘く色づいて響いた。




管理人のひとりごと
まぁ、管理人、クラシック好きなので(爆)
チェロは中でも好きな楽器の一つです。
綺麗なチェロの音は本当に落ち着いていてステキです。
というところから、頼久さんの声を連想してみました♪





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