
「では、神子殿、陽が暮れてまいりましたので、本日はこれで失礼致します。」
「あ、はい…。」
いつもの風景、いつもの会話。
ここ数ヶ月何度となく繰り返されたあかねと頼久の会話だ。
何度となく繰り返している会話だというのに、いつまでたっても別れは胸が苦しくなるような瞬間だ。
あかねが心細げにうつむくのを見ると頼久はなかなか立ち去ることができない。
長居すればするほど立ち去りづらくなることはわかりきっているのに。
「神子殿……明日、また参りますので…。」
「あ、はい。ごめんなさい…大丈夫、ですから。」
そう言って力なく微笑んで見せる姿もいじらしくて、やはり頼久は立ち去れないのだ。
できることならこのまま駆け寄って抱きしめて、そのまま朝まで腕の中にこの許婚を閉じ込めておきたいのだが、頼久の心情として許婚という現状でそのようなことはできかねた。
愛しい人を大切にしたいという想いが己の行動を制限して、それが愛しい人を悲しませることのジレンマに頼久が苦しんでいると、再びあかねの優しい声が聞こえた。
「あの、後でお手紙、出してもいいですか?」
「あ、はい。どうぞ、すぐに返事を差し上げますので。」
「はい。」
やっと頼久は一礼して帰路についた。
神子殿が手紙を書いて下さるなら、一刻も早く土御門邸へ戻って待たなくてはと考えたのだ。
もちろん、頼久がそう発想するだろうとあかねが気を回したのだが、そうとは気付かない頼久は急ぎ足であかねの屋敷を後にした。
残されたあかねはというと、苦笑しながら御簾の中に入り、そそくさと手紙を書くのだった。
月が昇って、風のない庭を照らしている。
いつものように手紙を書いて、頼久からは嬉しい言葉がたくさん詰まった返事が戻ってきた。
綺麗な桃色の紙からは梅花が薫って、その香りを胸いっぱいに吸い込めば頼久への想いがつのった。
褥の中、胸に頼久から届いた文をしっかりと抱きしめてあかねはうっすらと涙を浮かべていた。
明日の朝になれば頼久が駆けつけてくれることはわかっている。
それでも胸によぎる頼久への想いはつのるばかりで…
今、頼久さんはどうしてるだろう?
もう寝たのかな?
それとも私が頼久さんを想っているみたいに私のことを想ってくれているのかな?
私のことなんかよりお仕事のこととか考えてるかも?
ううん、私のことを心配してくれてるかも?
頭に浮かぶのはそんなことばかりで、会いたいという気持ちばかりがつのって…
知らず知らずのうちに眠りについても桃色の紙はしっかりと胸に抱いたまま、あかねの頬を一筋の涙が流れて落ちた。
管理人のひとりごと
SSはどうもギャグっぽいのとか甘いのが多かったのでたまにはこんなのもいいかな?と。
やっぱりね、現代からは想像もできないほど暗い京の夜で一人で寝ていれば心細いことだってありますよ(’’)
そういう時、やっぱりそこにはいなくても頼りにするのは頼久さんだと思うので。
早く夜も一緒にいられるといいね♪というお話でした!
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