
今日はもう神子殿はいらっしゃるまい。
そう思って頼久は書斎で本を開いていた。
仕事で使う資料に目を通しながらも頼久の脳裏にはあかねの笑顔が浮かんでいる。
一日でもその笑顔が見られないとなれば落ち着かないのだ。
だが、あかねは学園祭の準備があるとかで、最近は頼久のもとを訪れない日が増えていた。
忙しいのだから少しでも休んでもらいたい、そう思う気持ちはもちろんあるのだが、それでもやはり会えないのはつらい。
時刻は午後七時を回って外はもうすっかり暗くなっている。
きっともうすぐ夕飯を終えた神子殿から今日は会いに行けなくてごめんなさいという内容のメールが届くだろう。
そう思って今日何度目かもわからない溜め息をついた頼久は、ふとその愛しい人の気配がしたような気がして立ち上がった。
会えないことが寂しくて、幻でも感じたかと思いながら玄関へ向かって扉を開けた頼久は、そこにうつむいて立っているあかねの姿を見つけて目を丸くした。
「神子、殿?」
暗くなってから、こんな時間にあかねが会いに来るなど有り得ない。
自分はとうとう幻を見たのかと頼久は何度か目をしばたいて、そして目の前の恋人が本物だとやっと認識する。
本物だとなればここに立っていることが異常事態だ。
「神子殿、どうかなさったのですか?」
尋ねてみてもあかねは答えない。
うつむいたまま視線を上げることさえしない。
これはもうとんでもないことが起こったのだと頼久の顔が青くなりかけたその時、急にあかねが力いっぱい頼久に体当たりするように抱きついた。
不意の勢いに負けて頼久が一歩内側へ後退る。
扉を押さえていた頼久の手が離れて自然と扉が閉まると、明かりはリビングから漏れる光のみの薄暗い玄関であかねは頼久にひしと抱きついたまま動かない。
「神子殿?」
声をかけてみてもあかねが何か話してくれそうな気配はなくて…
頼久は話を聞きだすことをあきらめてそっとあかねの華奢な体を抱きしめた。
「頼久さんの腕の中、安心できて大好きです。」
しばらくしてようやくそれだけ言ったあかねはそれでも抱きついたまま顔を上げない。
頼久はしばらくこうしてあかねが落ち着いたらすぐ自宅へ送り届けようと胸の内では思いながら、抱きしめる腕に力を込める。
悩みを聞いて差し上げよう、門限までにはお送りしよう、そんな想いよりも今は会いたくてたまらなかった人を抱きしめていることが幸せで。
そのまま二人はしばらく抱き合ったまま微動だにしなかった。
管理人のひとりごと
そりゃもう頼久さんの腕の中はかなりな安全地帯でしょう(爆)
あかねちゃん、日常生活で色々あるようですが、とりあえず安全地帯を確保しているので大丈夫そうです。
頼久さんも会いたかったあかねちゃんに会えたのでまぁ幸せ(笑)
このあとはちゃんと頼久さんがあかねちゃんを家まで送っていったと思います、管理人は(w
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