雪うさぎ
 初雪が降った。

 あかねにとっては京で初めての冬。

 寒さで目が覚めて何枚か小袖を重ねて羽織って縁へ出てみると、そこは一面の雪景色になっていた。

 昨日まで枯葉が積もっていた庭が一面、雪に覆われている。

「うわぁ。」

 一面の銀世界に思わず声をあげたあかねはゆっくりと階を下りた。

 恐る恐る地面に右足の裏が触れて、冷たさのあまりその足を引っ込める。

「冷たい…。」

 当たり前のことなのだが、雪の冷たさに改めて気付いてあかねはふっと微笑んだ。

「神子殿?」

 そこへやってきたのは頼久だ。

 この許婚は毎日といっていいほど頻繁に愛しい人のもとを訪れるのだが、この日は雪が積もったからとあまりの寒さに愛しい許婚の身を案じていつもより早くにやってきたのだった。

「あ、おはようございます。」

「お、おはようございます。」

 どこかしらいつもより楽しげな許婚に気圧されて頼久は目を丸くする。

 いつもよりも寒い朝に愛しい人が体を壊してはいないかと心配してきただけに
、何故その愛しい人が楽しげにしているのかがわからないのだ。

「雪、積もりましたねぇ。」

「はぁ…その…お寒くはありませんか?」

「ん〜、少しだけ。」

 そう言って微笑んだあかねは裸足のまま庭へ下りると、すぐに辺りに積もっている雪を手でかき集めた。

「神子殿!おみ足が!」

「気にしない気にしない。」

 頼久にしてみればそれどころではない。

 誰よりも愛しく、誰よりも大切な神子殿が素足で雪の上に立ったのだ。

 気にしないでいられるわけがない。

 だが、あかねはというと楽しそうに雪をかき集めて何か形作っているようで、頼久はすぐにも神子殿を抱き上げて中へお連れしようかそれともしばらく様子を見るべきかと脳内で葛藤して凍り付いてしまった。

「これくらいつもってればきっとかわいくできるはず…。」

 足が冷えるのもかまわずにしゃがみこんだあかねは同じように手が冷えていくのにもかまわずに雪で何か作り始めた。

「あの、神子殿、そのままではおみ足が……お手も……。」

「ん〜、もう少しですから…。」

 頼久としては今すぐにでもあかねを抱き上げて御簾の向こうへ連れて行き、火桶の二つ三つも抱えさせておきたいところなのだが、当のあかねがあまりに楽しそうなので手が出せない。

「できた〜。」

 楽しそうに立ち上がったあかねの足下には可愛らしい雪うさぎができあがっていた。

 それを見つめて頼久が目を丸くする。

「これは…。」

「雪でうさぎを作ってみたんです。雪うさぎっていうんですよ。」

「お上手です。」

 微笑んで見せる頼久にあかねは嬉しそうな顔をしたが、それも束の間、あかねの体はすっと頼久の腕で横抱きに抱き上げられてしまった。

「よ、頼久さん?」

「お上手ですが、おみ足もお手もすっかり冷えてしまっておいでです。風邪などめされませんよう、御簾の内で体を暖めて頂きたく。」

「えっと……それは……。」

「火桶を二つ三つ用意させますので。」

「………あの…。」

「はい?」

「火桶はいらないんで…。」

「ですが…。」

「頼久さんが側で……。」

 そこまで言って真っ赤になってうつむくあかねに一瞬目を丸くした頼久は、あかねが何を言いたいのかに気付いてやわらかな微笑を浮かべた。

 そして御簾を跳ね上げて中へ入ると、あかねを抱いたまま局の奥に座る。

「神子殿がお望みとあればこのまま…。」

 あかねの耳元で低い声でそうつぶやいた頼久はきゅっとあかねの体を抱きしめた。

 真っ赤になりながらあかねは昼、陽が高く昇って庭の雪うさぎが溶けてなくなるまで許婚に抱きしめられたままでいるのだった。




管理人のひとりごと

珍しくあっさり頼久さんが御簾の内側に入ってます(笑)
もうね、あかねちゃんが風邪ひかないかってことしかかんがえてなかったんです、たぶん…
京は暖房設備整ってなさそうですからねぇ、人肌が一番でしょう(マテ
雪も溶けそうなアツアツぶりです(爆)






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