焚き火
 秋が深まるにつれて寒さは増して、あかねが着膨れて縁に座る日もそれにつれて増えてきた。

 庭に植えられた木々からは落ち葉が落ちて地面を紅に染め上げている。

 その様子を眺めていたあかねは何を思ったか、御簾の内側へ入るとすぐに十二単から水干へと着替えて庭へ下りた。

 庭へ下りたあかねはあたり一面に降り注いでいる枯葉を少しずつ集めて庭の一角へと積み上げていく。

「神子殿?」

 そこへやってきたのはあかねの許婚、頼久だった。

 何やら楽しげに枯葉を拾い集めているあかねを見て、頼久は目を見開いて驚いた。

「あぁ、おはようございます、頼久さん。」

「おはようございます……その……何をなさっていらっしゃるのですか?」

「落ち葉を集めてるんです。」

「はぁ…。」

 それはわかる。

 いくら頼久でもあかねが落ち葉を集めていることくらいは見ればわかった。

 だが、何故あかねがそれをしているのかがわからない。

「あ、そうだ、頼久さん、お芋ってすぐ手に入ります?」

「は?芋、ですか?」

「はい。お芋。」

「はぁ、厨にはあるかと存じますが…。」

「持ってきてもらってもいいですか?あ、あと火種も。」

「はぁ……その…宜しければ何をなさるのかお教え頂けますか?」

「焚き火です!」

「はぁ…。」

「お芋と火種、お願いしますね。」

「御意。」

 この世でただ一人愛しい人ににっこり微笑まれて頼久に抵抗できるはずもなく、長身の美丈夫はすぐに愛しい人の望みをかなえるべく、屋敷を後にした。



 しばらくして…

「神子殿、お持ちしましたが…。」

「あ、有難うございます!」

 頼久から芋と火種を受け取ったあかねは、はりきって落ち葉で芋を埋めるとその落ち葉に火をつけた。

「楽しみ〜。」

「何が、でございますか?」

「お芋が。」

「はぁ…。」

 何がなんだか頼久にはよくわからなかったが、とにかく目の前の許婚がやたらと楽しそうにわくわくしている様子なのでよいことにした。

 頼久にしてみれば、あかねの身に危険さえ及ばず、あかねが幸せそうならばあとのことはたいていどうでもいいのだ。

「そろそろかなぁ。」

 焚き火の火がおさまるころになってあかねは木の枝で焼け残りの枯葉を退けると、中から芋を取り出そうとした。

 だが、その手は頼久に止められて、芋は結局、頼久の手で取り出された。

 あかねが火傷をしないようにという頼久の配慮だ。

「有難うございます。頼久さんもお一つどうぞ。」

「はぁ…。」

 少し風に当てて冷やしてから渡された芋を受け取ったあかねは、二つあるうちの一つを頼久の手に残して自分の分の芋にかじりついた。

「おいしい。」

 心の底から幸せそうなあかねを見て頼久の顔は自然と微笑を浮かべる。

 そしてつられるように芋を口にして、かすかな自然な甘みに驚いた。

「おいしいですか?」

「はい。」

 返される短い返事。

 だが、あかねにはそれだけで十分だった。

 二人はそれから言葉を交わすこともなく、ただ視線だけを交わしながらゆっくりと焼き芋を味わうのだった。





管理人のひとりごと

落ち葉を集めたあかねちゃん、思わず焼き芋食べたくなりました(笑)
でも、京にはたぶんサツマイモはないので、普通の芋だと思います。
確かサツマイモってけっこう最近のものだったような…
何がなんだかわからないながらも頼久さんはあかねちゃんのためならなんでもやるようです(笑)




プラウザを閉じてお戻りください