想い
 あかねはじーっと頼久を見つめていた。

 今はあかねの前でくつろいだ感じで本を読んでいる。

 さきほどまでは庭で綺麗な姿勢で規則正しく木刀を振っていた。

 そのあまりに綺麗な立ち姿に見惚れたあかねは今、座って本を読む頼久の姿にさえも見惚れていた。

 もう半年もこうして毎日のように一緒にいるというのにもっともっと見つめていたくて。

 時折、本から目を離して自分の方を見たかと思うと優しく微笑むその顔を見るとあかねの心臓は急に鼓動を速くして、顔を真っ赤にする。

 何度見つめられても頼久の紫紺の瞳にはあかねをドキッとさせる力があるのだ。

 京で共に戦っていた頃から数えてみればもうかなりの時間を一緒に過ごしているというのに、いまだに見つめられただけでドキドキする自分はどうなんだろう?などと考えるあかねだが、考えてみてもドキドキしてしまうものはしかたがない。

 だが、最近は自分ばかりがドキドキしている気がしてなんだか不公平だな、なんて考えているあかねだ。

 それというのも、命を懸けた戦いを毎日のように強いられる武士という身分だった頃よりも、幾分か落ち着いて穏やかな感じになった頼久がいつも自分を見るたびに静かに微笑んでいるだけで、あかねのようにドキドキしているとは思えないからだ。

 その姿を目にしただけでうっとりと見惚れてしまったり、見つめられただけでドキドキしたり、そんなふうにあかねは頼久に翻弄されてしまうのに、頼久の方はいつもあかねを静かな微笑で見つめている。

 それはまるで保護者が子供を見つめる時のようだと時々思ってしまって…

 今もそう思うとなんだか悲しくなってあかねはうつむいてしまった。

 自分ばかりがドキドキしてる。

 それはなんだか、自分ばかりが頼久のことを凄く好きで、反対に頼久はそんなに自分のことを好きではないような、そんな気さえしてあかねはいつの間にか目に涙を浮かべていた。

「神子殿?」

 また本から視線を上げた頼久はすぐにあかねの異変に気がついた。

 さっきまで少しばかり恥ずかしそうに自分を見ていたはずのあかねがいつの間にか悲しそうにうつむいていて…

 頼久は慌てて読んでいた本を閉じるとあかねの顔をのぞきこんだ。

「どうなさったのですか?」

 自分はまたいつもの至らなさで神子殿を悲しませてしまったのだろうか?

 と、朝からこれまでの自分の行動を振り返ってみても頼久には何があかねを悲しませたのかが全くわからない。

「なんでもないです…。」

「神子殿…私はこのように無骨者、気の利くこと一つ言えず、神子殿のお気に召すように何一つできません。今も、神子殿が何を悲しんでおいでなのか全くわからないのです…ですからどうか、この愚かな私に、何が神子殿のお気に触ったのかお教え頂けないでしょうか?」

「お、愚かなんてそんなことっ!頼久さんは全然愚かなんかじゃないです…。」

「ですが、今も神子殿は急にそのように悲しげに……私が至らぬばかりに…。」

「別に頼久さんが至らないとかそういうことじゃ…。」

「では、何をそんなにお嘆きなのですか?」

 自分が原因ではなかったとしても何よりも大切な神子殿のお嘆きを解消するためならばどんなことでも厭わないと頼久が身構えてみても、あかねはなかなか口を開こうとはしない。

「私になど話してみても、何もお手伝いできぬような問題なのでしょうか?」

「そ、そんなことないです……その……私って、今でも頼久さんに見つめられるとドキドキしちゃうんです。」

「はぁ…。」

「でも頼久さんはそうじゃないみたいだから…。」

「は?」

「私は頼久さんのことが大好きで、だから見つめられるだけでいつもドキドキしちゃうのに、頼久さんはそうじゃないみたいだから……頼久さんはドキドキするほど私のこと好きなわけじゃないのかな?って、ちょっとだけ思っちゃって…それで……。」

 今まできょとんとしていた頼久は急に顔に厳しい表情を浮かべてあかねの隣へとその身を移した。

 頼久の急な接近で慌てたあかねは思わず顔を赤くしながら少しだけ頼久から体を離そうとしてしまい、それを許さないとばかりに頼久はあかねの肩をいつもより少しだけ乱暴に抱き寄せた。

「よ、頼久さん?」

「神子殿はおわかりではない。」

「はい?」

「私がドキドキしていないとおっしゃいましたね?」

「は、はい…。」

「ドキドキどころか…私はあなたに見つめられる度に、息さえできなくなるほど幸せでこの身が震えることさえあるのです。」

「そ、そんなこと…。」

「神子殿のお側にいることをこのようにお許し頂ける、それだけで私がどれほど幸せか。しかも、神子殿が私を想っていると言って下さる、これが私にとってどれほどの幸せか、神子殿にお伝えする術を私は持ち合わせておりません。」

「よ、頼久さん……わかりました、もうわかりましたから……。」

 次々に飛び出すあまりに恥ずかしい発言の数々にあかねは頼久の腕の中で真っ赤になってうつむく。

 だが、頼久はそれだけでは許してくれなかった。

 腕の力をゆるめるとあかねをそっと上向かせて…

 優しく軽く口づけると幸せそうに微笑んで見せた。

「これで少しは伝わったでしょうか?」

「……す、凄く伝わりましたから……。」

 そう言って真っ赤になってうつむくあかねを頼久はぎゅっと抱きしめるのだった。





管理人のひとりごと

頼久さんにそんな話振っちゃだめですって話です(爆)
どこかでみたような展開かもしれませんが、どうしても視線を書いてみたかったんです…
同じような展開見たことあるわぁと思われた方、管理人の筆力のなさですのでご容赦下さい(^^;
頼久さんを見つめるあかねちゃんのかわいらしい視線が伝わるといいんですが…






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