兄心
 あかねは珍しく自分で鍵を使って頼久の家の中に入った。

 いつもはあかねが玄関の前に立っただけで気配を察して出てきてくれる頼久が今日は何故か出てこなかったからだ。

 留守なのかと思えば中に入ってする、カンッっと小気味いい木がぶつかるような音が聞こえてきた。

 音のする方へとあかねが近づいてみると、リビングの大きな窓が全開にされていて、庭で頼久と天真が木刀を構えて向かい合っていた。

「天真!少し待て!神子殿がいらっしゃった!」

「問答無用だっ!」

 どうやらやってきたあかねをもてなしたいらしい頼久の待ったを全く聞こうとしない天真は、鋭く一歩踏み込むと頼久めがけて木刀を薙ぎ払う。

 しかたないと一つ息を吐いた頼久はその天真の木刀を下段から勢いよく叩き上げ、天真の手から木刀を弾き飛ばした。

「くそっ!」

 悪態をつく天真に再び溜め息をついて、頼久はきょとんとしているあかねに微笑を浮かべて歩み寄った。

「いらっしゃいませ。」

「こんにちわ。勝手に鍵使って入っちゃいました。」

「お気になさらず、どうぞご自由に。」

「何してるんですか?」

「はぁ、急に天真が手合わせをしたいと言い出しまして…。」

 と二人が庭にいる天真へと視線を移してみると、天真は木刀片手に明らかに不機嫌そうな顔で立っていた。

「頼久、もう一本!」

「天真、神子殿が…。」

「あ、私のことなら気にしないで手合わせしてください。私はここで見てますから。」

「はぁ、では。」

 頼久にしてみれば誰よりも大切な神子殿を放って手合わせどころではないのだが、その神子殿本人から許可が出て、しかも神子殿がまるで手合わせを眺めることを楽しみにしているような笑顔まで浮かべていては逆らえずはずもなく…

 頼久は再び天真の前で木刀を中段に構えた。

「いくぞ!」

「うむ。」

 頼久の返事を待つまでもなく、力いっぱい上段から木刀を振り下ろす天真。

 上から右から左からと次々に繰り出される天真の木刀を何ということはないように自分の木刀で薙ぎ払う頼久。

 木刀と木刀がぶつかり合う音が何度も響いて、あかねはそんな二人に見惚れていた。

 日常からは考えられないような風景で、天真の必死さに気圧されて、気迫たっぷりの頼久をまるで子供をあしらうみたいに軽く相手している頼久がなんだかいつもより大きく見えて。

「天真。」

「なんだ?」

「やめだ。」

「あ?」

「気が散っている。力任せに打ち込むだけでは上達しないと知っているはずだが?」

「くそっ!」

 頼久に痛いところをつかれて天真は一度木刀を力いっぱい振ると、縁側にドスンと音をたてて座った。

 その顔は不機嫌そうにゆがんでいる。

「どうしたの?天真君。」

 隣に座って心配そうに覗き込んだのはあかねだ。

 いつの間にかこちらも不機嫌そうな顔になった頼久が天真とは反対側のあかねの隣に腰を下ろす。

「ちょっとイライラしてた、悪い。」

「イライラって何かあったの?」

「蘭が…なんか俺に隠してるみてーなんだ。」

 あかねは一つ溜め息をついて隣に座る頼久を見上げた。

 するとこちらも機嫌が悪いようで眉間にシワが寄っている。

「えっと…よしっ!私が相手しちゃう!」

「はぁ?」

 頼久の手から木刀を取り上げたあかねは庭に立ってブンブンと木刀を振り回す。

 慌てて駆け寄った頼久が木刀を取り上げると天真は苦笑を浮かべて木刀を頼久の方へ放り投げた。

 見事にキャッチした頼久はほっと安堵の溜め息をつく。

「やめとけって、そんなことしたら俺が頼久に殺される。悪かったな、心配させて。もう大丈夫だ。蘭と話してみるわ。頼久、またな。」

 天真はそう言うとさっさと玄関から帰ってしまい、残されたあかねは珍しくきりっと頼久に厳しいまなざしを向けられてしまった。

「神子殿…。」

「ご、ごめんなさい…。」

 うつむくあかねを頼久は片腕できつく抱きしめる。

「よ、頼久さん?」

「今しばらく、このままで。」

 そう言われてしまってはあかねには拒絶する理由もなくて、静かに目を閉じて恋人の胸に寄りかかる。

 頼久は、天真を案じる優しいあかねに嫉妬した己を心の中で叱責しながらも、自分のものだと確かめるように抱きしめることを止められないのだった。




管理人のひとりごと

お兄ちゃ〜んな天真君の図(笑)
そしてこんな時まで嫉妬しちゃう頼久さんの図(爆)
蘭の隠し事の内容についてはそのうち読みきり短編の方に出てくるかと。
頑張れお兄ちゃん、頼久さんに殺されないように!(マテ





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