
あかねは久々に水干を身に着けて張り切っていた。
最近は武士の妻、しかも武士団の次期棟梁の妻になるのだからと覚悟を決めて女性らしい格好を続けていたのだが、さすがに寒さに負けて十二単を着て座ってばかりいると年頃の乙女としては気になる事態が発生したのだ。
そう、最近どうもウェストの辺りがぷにぷにし始めた気がして…
それにある朝気付いてしまったあかねは足も太くなったんじゃ?とか腕も太くなった?とか、もしかして胸も大きくなってたりして?などなど。
一喜一憂した結果、自分はどうも太ったらしいという結論に達した。
で、あかねが思い切って始めようとしたのが…
「よし!冬の間、これ以上太らないように運動!運動!」
つまりはダイエットを決意したのだった。
「神子殿?」
そこに現れたのは毎朝欠かさず許婚のご機嫌を伺いにやってくる頼久だ。
怨霊と戦っていたあの頃に戻ったのだろうかと錯覚するようなあかねの姿に一瞬驚いて目を見開いてから、すぐにうっとりと見惚れたような笑みを浮かべる。
そんな頼久にあかねは階を飛ぶように下りて駆け寄った。
「頼久さん!」
「は、はい?」
「これから藤姫ちゃんのところまで走りますからっ!」
「は?!」
「行きますよぉ!」
そんな言葉を放つが早いかあかねはすぐに駆け出した。
何がなんだかわからない頼久はただあかねの後をついていくしかなく、結局二人は朝の挨拶もしないまま土御門邸まで走り続けることになった。
走ること数分、あかねは自分の家に入るように土御門邸に足を踏み入れるとそのまま藤姫の局へ向かう。
慌てつつも頼久はしっかりとその後を追った。
「まぁ!神子様!」
急の訪問に藤姫は怒るどころかとても嬉しそうで、二人は縁でお互いの手をにぎにぎしながら微笑み合った。
「今日は朝からとても冷えますのに、どうかなさいましたか?」
会えた嬉しさが一段楽したのか、今度は藤姫が大事な神子様に何かあったのではと心配を始める。
あかねはそんな藤姫ににっこり微笑んで首を横に振った。
「違うの。運動しようと思って。」
「運動、で、ございますか?」
「うん、最近ちょっと太ったような気がして…。」
「まぁ。」
心の底から驚いたというように藤姫は口元を袖で隠して目を大きく見開いた。
頼久も庭に控えたままきょとんとしている。
「このままだと春までにぷくぷくになっちゃいそうだから、冬の間は少し運動しようと思うの。」
「神子様は痩せたいとお思いなのですか?」
「うん、だってほら…婚儀までにぷくぷくになっちゃったら…その……頼久さんだっていやだろうし…私もいやだし…。」
「神子様。」
藤姫はあかねの手を優しくとると、言い聞かせるようにゆっくりと語り始める。
「神子様の世界ではきっと痩せている女性が美しいとされていたのですね。でも、ご安心下さい。この京ではふくよかな女性ほど美しいとされておりますの。」
「えぇ!太ってる方がいいの?」
「はい。こう、下膨れと申しましょうか、顔も丸い方が女性らしくて美しゅうございますわ。」
あかねはカルチャーショックのあまりきょとんとしたまましばらく何もいえなかった。
顔が丸くなるほど太った女性の方が綺麗だなんて…
そしてあかねは急にあることに気付いてはっと頼久の方へ振り返った。
「よ、頼久さんは?」
「は?」
「頼久さんもやっぱり太ってる方がいいと思う?」
「いえ…その……。」
頼久にしてみれば太っていようが痩せていようがどんなあかねでもあかねでありさえすればよいのだが、これはなんと答えようかと言いよどんでいる間に見てしまった、あかねの向こうから鋭い視線を自分の方へ向けている幼姫の顔を…
ごくりと生唾を飲み込んだ頼久は思い切ったというようにふっと息を吸い込む。
「私は、どのようなお姿でも神子殿が微笑んでいて下さればそれが一番です。」
「よ、頼久さんったら……。」
どうやらこの頼久の返答は正解だったようで、あかねは顔を赤くしてうつむき、その向こうに座っている幼姫は満足そうにうなずいた。
頼久は一人胸を撫で下ろし、この日はあかねと藤姫が二人で楽しげに一日中語り合い、平和に過ぎて行った。
が、あかねのダイエットはこれで終わったわけではなく、これから毎日のように、頼久は散歩のお供をさせられることになった。
春になるまでの間、二日に一度は幸せそうに京を散歩して回る龍神の神子とその許婚の姿を見ることができたという。
管理人のひとりごと
再び登場、神子様命の藤姫です(笑)
知ってる方も多いと思いますが、平安時代は本当に太った女性が美しいとされていました。
太っている=裕福、この考え方が根底にあったようですね。
ふくよかで色が白い女性が美しかったんですが、それより何よりあの時代は髪が命でしたね。
あかねちゃんは髪短いのできっとのばすのも必至です(笑)
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