腕(かいな)
 あかねは授業が全て終わると早々に教科書とノートをカバンに詰め込んで教室を出た。

 現代文でレポートの宿題が出て、昼休みに図書室へ資料を探しに行ったけれどほしいものが一冊も見つからなかった。

 だから、閉まる前にどうしても市立の図書館で調べものがしたかった。

 学校を後にして徒歩で小走りにいどうすること十数分。

 時刻は4時。

 間に合ったと心の中でつぶやいてあかねはすぐ目的の棚へ向かって歩き出す。

 前にも頼久の資料を探すのを手伝ったことがあったから、目的の棚へはすぐにたどり着くことができた。

 ところが、そこで問題が起きた。

「う〜ん。」

 一番上の棚に目的の本はあった。

 あかねの身長では背伸びをしてもぎりぎり届かなくて。

 これは踏み台を持ってこないとだめかもと手を下ろそうとした刹那、あかねの背後から肩越しに長い腕が伸びて今まさにあかねが手に取ろうとしていた本をとってしまった。

 驚いたあかねが慌てて振り返ると、至近距離にあったのは優しく微笑む端整な恋人の顔だった。

「どうぞ。」

「あ、有難うございます。」

 頼久の手で差し出された本を受け取ってあかねは顔を真っ赤に染める。

 予想もしていなかった恋人の顔があまりにも近くにあって急に恥ずかしくなったのだ。

「あ、あのぉ…頼久さん、どうしてここに?」

「向こうの棚で仕事の資料を探していましたが、お困りの様子なのが目に入りましたのでつい。」

「あ、あぁ、お仕事…。」

 まさか自分が困っているのが以心伝心でわかっちゃうのかな?

 なんて思っていたあかねはとりあえずほっとため息をついた。

 いくら京では危ないところを何度も助けてもらったとはいえ、頼久は別にそんな超能力者みたいなことができるわけじゃないのだ。

「調べ物、ですか?」

「あ、はい。現代文の授業でレポートの宿題が出て、それで。」

「賢治ですね?」

「はい。戦前に活躍した作家の中から一人を選んでその作家の一生について書けっていうのがテーマなので…。」

「神子殿は宮沢賢治を選ばれたのですね。」

「そうなんです。前から素敵なお話を書く人だなぁって思ってたので。」

 そう言って微笑むあかねを頼久はさもありなんという顔で見つめている。

「何を読まれたのですか?」

「作品で読んだのは『銀河鉄道の夜』だけなんですけど、悲しいけど凄く綺麗なお話だったから興味があって…。」

「そうでしたか。お困りのことがあればお手伝い致しますが。」

「今のところは大丈夫です。まずは自力でやってみます。」

 会話を一通り終えると頼久はすっとあかねのカバンを取り上げる。

 中に詰まっている教科書やノートがかなり重いことなど頼久にはお見通しだ。

「あ、あのぉ、そのカバンの中に図書館のカードが入ってるんですけど…。」

「大丈夫です、私が借りるものと一緒に私のカードで借りて下さい。」

 そういうが早いか頼久はあかねのカバンと自分の荷物を持ったまますたすたと貸し出しカウンターへと歩き出してしまい、これ以上抗議できそうにないとあきらめたあかねは慌てて後を追う。

「よければご自宅までお送りします。」

「えっと…まだちょっと門限まで時間があるし…その…。」

「では、我が家へお越し頂けるのですか?」

「は、はい……是非、お願いします…。」

 自分でもおかしな返事をしてるなぁと思いながら、顔を赤くしてうつむくあかね。

 そしてそのあかねの手から本を取り上げてさっさと貸し出し手続きを終わらせた頼久は、あかねの手をとって玄関へ向かった。

 夕暮れに染まる駐車場を二人は足取りも軽く幸せそうに並んで歩くのだった。




管理人のひとりごと

一度やりたかったんです、図書館の話(笑)
図書館の棚って上の方、本がとりづらいと思いませんか?
まぁそのために踏み台とかあるんでしょうが、使うのめんどうでしょ(’’)
そんな時、頼久さんみたいな長身の素敵な人がとってくれると嬉しいなぁという管理人の妄想です(マテ




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