
縁に座り、欄干にもたれてあかねは空を見上げている。
空にはぽっかりと浮かぶ満月。
綺麗に輝く大きな月はとても綺麗で、秋という季節から中秋の名月なのかな?などと考えながら何とはなしに月を眺めていた。
日が落ちて暗くなってもなかなか寝付けなくて。
秋になって草木が色づいてからというものめっぽう寒くなってきているとわかってはいても、どうしても局から出ずにはいられなかった。
こうして縁に座っていれば、怨霊と戦っていた頃のように愛しい人が宿直に来てくれるような気がして。
そう、今となってはもう怨霊や鬼があかねを狙うような危険はない。
あかねのいた元の世界から見れば夜盗が出没したり、龍神の神子という稀有な女性に懸想して夜這いをかける者が出たりと物騒ではあるが、それでも源武士団の次期棟梁が直々に宿直しなくてはならないほどではない。
だから、龍神の神子の護衛をいまだ任務にしているとはいえ、どうしても人手が足りなくて左大臣の護衛などに頼久が駆り出される日には、夜くらいゆっくり休んでほしいといったのはあかね自身だった。
つまり、昼は仕事で、夜は自室でゆっくり休んでもらうために頼久に武士としての仕事が入った日は、一日中あかねは頼久に会えないことになってしまった。
もちろん、あかねはそれを覚悟で頼久に休んでほしいと言ったのだが、まさか一日会えないだけで眠れなくなるとは思わなかった。
別に夜が恐いわけではない。
屋敷の警護は藤姫と頼久が手配してくれた信用できる武士団の武士で行われているし、夜の暗闇にもようやく慣れてきた。
それでも、毎日会っている許婚に会えないとなるとどうも落ち着かなくて、脳裏にはその人の顔ばかりが浮かんであかねはどうしても寝付けなかったのだ。
どうせ眠れないのなら気晴らしにと縁へ出てみると綺麗な満月が昇っていて、あかねはそのまま月見を始めたのだった。
いつもは暗闇で何も見えないのに、満月に照らされた今は庭もぼーっと幻想的に輝いて見えて、あかねは庭を見回してから再び月を見上げてふぅっとため息をついた。
向こうの世界でもお月見ってあったなぁ。
月は向こうもこっちもおんなじに見える。
天真君や詩紋君や蘭もこんな月を見てるんだろうなぁ。
などと考えてまたふっと息を吐く。
この空は向こうの世界にもきっとつながっている、そんな気がして。
「神子殿?」
「へ?」
聞き違えるはずもない愛しい人の声が聞こえた気がして、あかねは声のする庭の方へと目を向けた。
あまりに会いたい気持ちが強すぎて幻聴でも聞こえたのかも?
そんなことを思うあかねの目に月明かりに照らされて幻想的にさえ見える長身の青年の姿が映った。
「頼久さん?」
あかねは何が起こったのかよくわからないでいるうちにぎゅっと頼久に抱きしめられていた。
姿を現したかと思った頼久はすぐに武士ならではのしなやかな身のこなしであかねに駆け寄り、すぐにその体を抱きすくめてしまったのだ。
「えっと、頼久さん?」
「神子殿が…あちらの世界を想って嘆いておいでのように見えましたので…。」
そう言う頼久の腕の力が強まって慌てたあかねは力いっぱい頼久の胸を押して体を離した。
すると、見上げた頼久の顔は苦しげに歪んでいて、あかねは目を見開いて驚いた。
「ちょ、ちょっと待ってください。私、別に嘆いてなんかいません。どこの世界でも月って変わらないなぁって思ってただけです!」
「ですが、このような時間に……あちらの世界が恋しくてお休みになれなかったのでは?」
「ち、違います!……眠れなかったのはあっちの世界が恋しかったからじゃなくて…その……よ、頼久さんが恋しかったからで……。」
最後は口ごもるあかねの言葉に一瞬目を見開いた頼久はすぐに嬉しそうに微笑んでまたあかねを抱きしめた。
今度は優しく。
「私も今日一日神子殿にお会いできず、せめてお休みになっている気配だけでもとこちらへ足を運んでしまいました。」
「頼久さん……ちゃんと休まないとダメですよ……。」
「はい…では神子殿がお休みになられたら、私も戻って休みますので。」
きゅっとあかねを抱きしめてから体を離した頼久はそう言って優しい笑みを見せた。
「じゃ、じゃぁ、頑張ってすぐ寝ますから!たうぶんもう寝れますから!」
慌ててそう言ったあかねは御簾を跳ね上げて局に入ると、すぐに褥に横になった。
御簾の外で頼久はあかねの寝息がかすかに聞こえるようになるまでずっと微笑を浮かべてたたずんでいた。
あかねの寝息が聞こえてくるまで五分とかかることはなかった。
管理人のひとりごと
もとの世界を恋しがっているあかねちゃん、の幻想を見ちゃった頼久さんの図(爆)
うちのあかねちゃんは京に残ったあともあまり元の世界のことを恋しくは思ってないのですが、まぁ、たまにはあかねちゃんが元の世界に帰っちゃうかも?と心配する頼久さんが書きたかったのです(マテ
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