微温
 頼久は縁に座って階に足を下ろしてくつろいでいた。

 まだ朝陽が昇ったばかりの秋の縁は肌寒かったが、身が引き締まるような寒さは嫌いではない。

 庭は楓や萩といった秋の装いも美しく、朝陽を浴びているそれらを頼久は心ゆくまでゆっくりと堪能していた。

 まだ寝所から出たばかりの寝巻き姿で髪も解いたままでうっすらと口元に微笑さえ浮かべるその姿は、体中から幸せそうな空気がにじみ出ていて、仕事中は殺気さえ放っている武士とは思えない。

 龍神の神子を守る八葉の一人に選ばれ、怨霊との戦いに打ち勝ち、この京を救った龍神の神子が己が世界へ戻ることなくこの世界へ留まってから一年の月日がたつ。

 その龍神の神子を妻に迎えて頼久は変わった。

 仕事振りは以前と同じく真面目で実直だ。

 だが、以前のように追い詰められた感じもしなければ殺気立ってもいない。

 共に武士団で過ごすことの多い同僚達はそう感じていた。

 今でも無口で無表情なところは変わらないが、それでもどことなく雰囲気がやわらかくなったのを誰もが感じていた。

 誰よりも頼久自身が、己が変わったのを自覚している。

 こうして朝早く、一人起きだして風流に庭など眺めているのが己が変わった証拠だと頼久は一人微笑んだ。

 と、その時、頼久の背後に人の気配がした。

 それは気配だけでもわかる、優しく暖かな女性。

 頼久の妻、あかねだった。

 軽い衣擦れの音をたてて頼久の方へとやってきたあかねはにっこり微笑んだだけで何も言わずに頼久の膝の上に座ると、そのままその身を頼久の方へともたれかける。

 頼久も何も言わずにあかねの体をそっと両腕で抱きとめた。

 腕の中にあるぬくもりが愛しくて、そっとその髪をなでる。

 あかねの髪はこの一年でずいぶんと伸びて、さらさらと頼久の手に心地いい。

 命を懸けてこの京を救ってくれた尊い少女は今、頼久の腕の中で静かに微笑んでいる。

 そのことが嬉しくて、頼久の顔には自然と笑みが浮かんだ。

 秋の終わりの寒さもこの暖かな人を抱いていれば寒いと感じさえしない。

 腕の中の妻が寒くはないかと抱きかかえる腕に力を込めれば、より一層己の方へと寄せられる柔らかで小さな体からは梅花の香りが薫って…

 ほのかなその薫りを静かに吸い込んで頼久は妻に軽く口づけた。

 先ほどまで褥の中で抱きしめていたはずの妻の体なのに、こうして抱いてみるとより一層愛しくて離すことなどできなくなる。

 これではまるで病んでいるかのようだと自覚して、頼久は思わず苦笑した。

「頼久さん?」

「なんでもありません。」

 愛しい人の表情の変化にすぐに気付いたあかねに頼久は優しい笑顔を浮かべて見せて、これ以上は何も聞かせないとでも言うように再び軽く口づけた。

 どれだけ共にいようとも、どれだけ抱きしめていようとも、頼久の胸の内の想いがあせることはなくて。

 そんな、より深くなっていく想いに戸惑う己さえもこの少女には包み込んでもらえるのがわかっていて。

 頼久はただ愛しい妻を抱きしめる。

 膝に、腕に、胸に感じられる愛しい人の体温は体だけでなく心までも温めて、頼久はまたあかねへの思いを深めるのだった。




管理人のひとりごと

京で結婚して一年後の二人です。
もう頼久さんがメロメロです(爆)
魂を救われた頼久さんですから、どんなに一緒にいても想いはつのるばかりです(^^)




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