
頼久はソファに座って本を読んでいる。
もう小一時間ほどこうして本を読んでいるのだ。
それは仕事のために必要な資料で、どうしても今日中に読み終わってしまわなくてはならないものだった。
だが、そんな切羽詰った状態でも頼久は決してあせってはいなかった。
あせるどころか、どこかゆったりとした気分でその本を読んでいた。
何故、そんなにも落ち着いていられるのかといえば、それは縁側に座って微笑んでいる恋人のおかげだった。
あかねは今、初夏の陽射しが少しばかり暑く感じられる縁側で麦茶を手に微笑を浮かべて座っていた。
ただひたすら庭を眺めているのだが、その顔から微笑が消えることはない。
側にいられない時はいつも神子殿はどうしているだろうか、神子殿の笑顔を拝見したいと、ついついあかねのことばかり考えてしまって集中力を欠く頼久だが、こうして目の届くところで微笑んでいてくれるだけで何故か落ち着く。
数十分おきに本から目を離して縁側を見れば、そこには必ず微笑んでいるあかねの姿があって、それは頼久になんとも言えない幸福感を与えていた。
このままこの幸せな時間が途切れなければいい。
そんな想いで頼久は本に目を戻す。
そうして読み進めること更に一時間。
すっかり本の内容を頭に叩き込んで本を閉じた頼久は、あかねの方へ視線を移してはっとした。
あかねが優しい微笑を浮かべて頼久の方を見つめていたのだ。
「終わったんですか?」
「はい、たった今。退屈ではありませんでしたか?」
あかねは首をふるふると横に振る。
「庭にたくさんスズメがきて、凄くかわいかったんです。それをずっと見てたから退屈なんかじゃないですよ。」
そう言って微笑むあかねが愛しくて、頼久はあかねの隣に腰を下ろすとその肩を抱き寄せた。
するとあかねは顔を真っ赤にしてうつむいて、そんなあかねが愛しくて頼久の腕にはついつい力がこめられる。
庭には色とりどりの花が咲いていて、それが頼久のあかねへの心遣いで植えられたものだとわかっているだけにあかねはその庭を眺めているだけで幸せになれる。
それなのに、こうして恋人に肩まで抱かれてはもうあかねは心臓の鼓動が高鳴るのを抑えられなくて、耳まで真っ赤になってうつむくしかできないのだ。
「も、もうすぐ夏休みなんですって言いましたっけ?」
「はい、先日。」
「そ、そうですか……楽しみなんです、凄く。あっ…。」
何かに気付いたようにはっとあかねが息を呑む。
頼久は何事かとあかねの表情を探るようにその顔をのぞきこんだ。
「あの…えっと………私一人で勝手に楽しみにしちゃって……その……。」
あかねがうつむいたまま言い淀んだが、頼久は問いただすようなことはせずにじっとあかねの次の言葉を待った。
「……あの…夏休みになったら……その…毎日ここに来ても、いいです、か?」
思い切って、勇気を出してといった様子のあかねに頼久は目を丸くした。
あかねが毎日会いに来てくれるなど、頼久にとってそんなに嬉しいことはないというのに、あかねはどうやら断られるかもしれないと思っているようなのだ。
「もちろんです。毎日神子殿にお会いできる、そのように幸福なことはございません。」
頼久にしてみれば、こんな言葉では現しきれないほど幸福な想いでいたのだが、あかねはこの一言だけでまた顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
もうあかねには何も言えなくて、頼久にも今の幸せを現す言葉は見当たらなくて…
縁側に寄り添う二人はそのまま何も言わず、ただ庭を眺めてたたずむのだった。
ただそうしていることが、今の二人にとっては何にも代えがたい幸せな時間だった。
管理人のひとりごと
日常の1コマを切り取りたい穏やかな午後シリーズ現代版です(笑)
なんにも起こらない日常、二人はどんなふうに過ごしているかってことですね。
基本的に頼久さんはお仕事してます(笑)
で、あかねちゃんは頼久さんのことを考えてます(爆)
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