
龍神の神子の警護。
それは頼久に与えられ、神子が京を救ってなおここに留まっている今も解かれていない任務だ。
龍神の神子たるあかねと想いを通わせ、婚約が成立しても正式に神子が妻になるまではと警護の任は解かれていない。
主筋の藤姫や頼久の父である源武士団の棟梁にも歓迎されたあかねと頼久の婚姻だが、まだ婚儀が行われていないため、二人はいまだ許婚という間柄に留まっていた。
おかげで頼久は毎日あかねのもとを訪れはするものの、結局それは警護のためということになる。
ところが、あかねの方はそれがあまり気に入らないらしく、休憩時間くらいはと腰に下げている刀を外し、射籠手も脱いでくつろぐようにと言い渡された。
さすがに警護中にそのようなことはと最初は断った頼久だったが、生まれて初めて愛しいと思った少女に泣きそうな顔でお願いされて断ることができるはずもなく、午後の一時だけはあかねの言う通りくつろいだ姿で共に過ごすことになった。
今がその午後。
頼久はそれでもさすがに屋敷の中でくつろぐことはできず、縁の柱にもたれかかって体を休めながら局の中で何やら懸命に縫い物をしているあかねを見守っていた。
頼久に休んでくれと言った当のあかねはずっと縫い物に集中していて休む暇もないようだ。
そんなあかねの方が休まなくては疲れてしまうのではとそのことが心配で、頼久はあかねから目を離すことができない。
そして、そんな頼久の視線を感じたあかねはふと視線を上げ、縁に座る頼久を見て顔を赤くするとすぐにうつむいてしまった。
「神子殿?どうかなさいましたか?」
「いえ…あの……その……頼久さんのそういう格好って…あまり見たことなかったから…。」
「格好、ですか?」
と頼久が自分の姿を改めて見ても特に変わったところはないのだが、くつろげと言われたので確かに刀や射籠手をつけたいつもの出で立ちとは少しばかり違っている。
「見苦しいでしょうか?」
「ち、違いますっ!…なんていうかその……す、素敵だなぁって……。」
素敵?
心の中であかねの言葉を繰り返し、その意味をよくよく考えて頼久は嬉しそうに微笑んだ。
「ちょっと見惚れちゃって……。」
最後の方は声も小さくなって、恥ずかしさで真っ赤になった顔を上げることができないあかね。
頼久はそんなあかねを穏やかに見つめている今の自分がまるで奇跡のような気がして、あかねから目を離すことができなかった。
ほんの数ヶ月前、彼女と出会ったばかりの頃の自分は己を責め、罪の意識にさいなまれ、人を愛しいと思うどころかこうしてゆっくりとした時間を持つことすらできなかった。
その頃を思えば、今のこの時、この場にこうして自分が在ることがもう奇跡だ。
そう思ってもその想いをあかねに伝える言葉はなかなか口をついて出てはこない。
代わりに頼久が口にしたのはちょっとした疑問だった。
「神子殿、何をそのように懸命に縫っていらっしゃるのですか?」
無意識の内に恥ずかしくてどうやら顔も上げられないらしいあかねに違う話を振って気を紛らわせようとしたらしい頼久の質問はだが、どうやらあかねをより恥らわせてしまったようだ。
手にしていた縫い物を胸の辺りで抱きしめたあかねは上目遣いに頼久を見つめながら顔を更に赤くした。
「こ、これは…その…頼久さんに着てもらおうかと思って…習ったばかりだから上手にできるかわからないんですけど……。」
「有難うございます。」
心の底から驚いて、心の底から嬉しかった頼久は、ただ一言礼を述べるしかできない自分に苦笑する。
「お、お礼なんて…その…上手にできないかもしれませんけど…完成したら袖、通してもらえます、か?」
「もちろんです。」
恐る恐るといったように顔を上げるあかねに頼久は心の底から嬉しそうな笑みを浮かべて見せる。
自分が今どれほど満たされていて、どれほど幸せか、そして今のあかねの言葉がどれほど嬉しかったか、その想いの全てを言葉にすることは頼久にはとても不可能なことで…
だからこそ頼久はその想いを瞳にこめてあかねを見つめた。
結果、あかねはまた顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
だが、それは自分の想いがあかねに伝わった印。
そう思うとまた頼久は幸せで、そのまましばらくあかねから目をそらすことができないのだった。
ただただ、今このなんでもない一時が頼久には幸せで大切で、そんな一時を与えてくれたあかねが愛しくてしかたがなくて、その想いを言葉にできないからこそ、頼久はまたその想いを瞳にこめて愛しい人を見つめるしかできなかった。
数日後、なんとかあかねが縫い上げた着物は頼久の一番のお気に入りとなったのだった。
管理人のひとりごと
二人のあまあま風景です(笑)
ぎこちなくも少しずつ距離を詰めていく二人が見えるといいなぁ(^^)
頼久さんは無口なのでとにかく見つめます(爆)
これから先もたぶんすっごい見つめると思います♪
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