剣舞
 月明かりが弱々しく射し込んでいるその場所で、頼久は抜身の刀を手に己の気配を殺していた。

 ここはとある身分高き女性の屋敷。

 その庭で頼久はじっと己の気配を殺し、そして同時に自分以外の人間の気配を探っていた。

 何故、武士である頼久が身分高き女性の屋敷にいるのかといえば、それはこの屋敷の主たる女性のもとに通っている主の供をしてきたからだ。

 頼久が供をしなくてはならなかったのは、身分高き主が常にその身を狙われる立場にあるからである。

 ということは、敵に襲われるかもしれないという可能性は常に供をしている武士達の中に存在していた。

 頼久もその武士の一人だ。

 そして普段はただの可能性に過ぎない敵の襲撃が、今夜に限って現実のものとなったのだった。

 外を固めていた武士団の武士達が賊のほとんどを撃退したとはいえ、主に最も近い場所を守っていた頼久の前にまで一人だけ賊が入り込んできた。

 とりあえずは主のそばから敵を引き離した頼久だったが、思いのほか身軽だった敵に庭の方へと駆け込まれた。

 この時点で逃げたと考える者もいるだろうが、頼久はそうは考えなかった。

 何故なら、うっすらと月明かりに浮かぶ庭のどこかから殺気が漂っているのを感じたからだ。

 その気配を頼久は集中して探った。

 風のない静かな初夏の夜。

 頼久が木々の呼吸する音さえ聞こえそうな静かなその場所で、殺気の源を突き止めたその時、白刃が頼久の方へと飛んだ。

 焦ることなく白い輝きをかわした頼久は間髪入れずに相手の懐へと一歩を踏み入れた。

 敵がはっきり見えているわけではない。

 ただならぬ殺気を頼りに繰り出した頼久の刀は、敵の呻き声と共に手ごたえを伝えた。

 どさりと音がして、頼久の足元に人影が横たわる。

 月明かりを頼りにその姿を確認してみれば、どこにでもいそうな盗賊のいかめしい様子がうかがえた。

「若棟梁!」

「終わった。大事ない。」

「さすがは若棟梁!」

「峰打ちにしておいた。縛り上げて明日、仲間の数などを確認しろ。」

「はっ!」

 加勢に駆け付けたらしい部下にそう言いつけて頼久は刀を鞘へ収めると、小さく息を吐いた。

 倒した男が部下によって運ばれてしまえば、庭には再び静寂が戻る。

 更に駆けつけてきた部下に主への報告も任せ、頼久は歩き出した。

 残る敵はいないか確認するためだ。

 どこを歩いても敵の気配は感じられない。

 おそらくは仲間達が敵を殲滅したのだろう。

 屋敷の周囲を一周して安全を確認して、頼久は深い溜め息をついた。

 戦いの後に常に脳裏に浮かぶのは愛しい妻の笑顔だ。

 以前は龍神の神子として共に戦っていた妻は、こうして戦うことを生業としている頼久を良く理解してくれている。

 そして、その妻の待つ屋敷へ帰れば、温かな家庭で頼久を癒してくれるのだ。

 その妻の笑顔を思い浮かべながら頼久は庭へと戻って月を見上げた。

 すると、美しく輝く丸い月さえも妻の笑顔に見え始めて……

 ついさきほど命のやり取りをしたばかりだと言うのに、早くも何を見ても妻の顔にしか見えなくなっている自分に頼久は微笑を漏らした。

 敵を峰打ちするようになったのも、自分の命を投げ捨てるような戦い方を控えるようになったのも、その妻のおかげだ。

 そう思えば、戦いの後、こうして妻のことをひとしきり想うことは決して武士として恥じることではないと、今はそう胸を張る頼久だった。







管理人のひとりごと

たまに、こう、かっこよく戦う頼久さんを……
と思ったら、長さがたりなかった(’’)
もうちょっとかっこよくしたかったなぁ(マテ
そのうちちゃんと短編でやりましょう(^^;








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