
「お前が俺につまみ作るとか珍しいな。」
リビングのソファに座ったまま、友の背中を眺めながら天真がそう言うと、頼久はくるりと小鉢を手に振り返った。
今、天真は缶ビールを片手にソファに座り、少し待っていろという頼久の言葉に従ってつまみが出来上がるのを待っているところだ。
京にいた頃は料理など全くしたことのなかった頼久だが、こちらの世界へやってきてすぐに挑戦してみたところ、これが意外とできなくもなかった。
普段はあかねがちょくちょくこの家にやってきて料理を作って食べさせ、残ったものは冷凍して行くので、頼久は自分で料理をしなくても解凍するだけであかねの手料理が食べられるようになっている。
だから、現在はまだ独り暮らしの頼久とはいえ、こんなふうに台所に立って料理をするのは今となっては珍しいことだった。
「今はあかねが色々と忙しそうにしているからな。これくらいは自分でやる。」
「ああ、結婚式の準備で忙しいのか……ん?」
「どうした?」
頼久は持ってきた小鉢をテーブルの上に置いて天真の表情を覗き込んだ。
覗きこまれた天真の方はといえば、きょとんとした顔で頼久の顔をじっと見つめている。
いつもは見ることのない天真の表情に頼久は顔をしかめた。
「なんだ?何が言いたい?」
「いや…お前がなんでもないことみたいに『あかね』って呼んだんで驚いただけだ。」
「ああ、そのことか。」
「どういう心境の変化だよ。」
「もうすぐ夫になるという男が妻になろうという女性を神子殿と呼びならわしているのはどうかと、思ったのだ。」
「…………周りはかなり前から思ってたけどな…。」
「わかってはいたのだがなかなかな……だが、その、いざ結婚となってみるとやはり直さねばと…。」
「一念発起ってわけか。」
「いざお呼びしてみれば、あかねも喜んで下さったのでな。なんとか定着しつつある。」
「………喜んでくださった、ね……。」
ここで天真は苦笑せずにはいられなかった。
呼び方はいい。
正しい方向へ修正されたと言ってもいいだろう。
それでも頼久のあかねへの敬語はどうやらまだ直らないらしい。
「何か、問題か?」
「いや、いいんじゃねーか。お前にしちゃ上出来。」
「うむ。」
満足そうにうなずいてから缶ビールを開ける相棒に天真は笑みを漏らした。
目の前で自分の作ったつまみで酒を飲む友は、天真の目にひどく穏やかに幸福そうに映った。
管理人のひとりごと
結婚するとなると性根を入れて呼び方変えた頼久さんのお話(笑)
あえて短編でするほどの話じゃなかった気がしたのでこちらで。
右往左往しながら呼び方変えていく頼久さんも楽しそうではあるんですが…
あかねちゃんが喜んでくれると一発で直りそうな気もしたので(w
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