
頼久はやっと春の気配を感じさせるようになった庭であかねを抱きしめていた。
福寿草が蕾をつけて、つい先日まで茶と白の二色で彩られていた庭にやっと緑が見え始めているとはいうものの、まだ冬の寒さはしっかり残っている。
それでもあかねのためにと頼久が整えた庭はあかねのお気に入りだったから、やっと春めいてきた庭へとあかねが降り立ったのは当然のことだった。
頼久も春の訪れを楽しみにしているあかねを眺めるのはとても幸せな一時だ。
だから、しばらくはそのままにしておいてもよかったのだが…
あまり長く外にいるとあかねの体が冷えてしまう。
頼久の限界は5分だった。
あかねが庭に芽吹き始めた緑を愛でること5分、頼久は体が冷えるから中へとあかねをいざなった。
けれど、あかねがその意見を聞き入れることはなくて…
もう少し、とあかねに懇願されては頼久に反対するという選択肢はない。
結局、頼久の取った行動はといえば、後ろからあかねの体が冷えないようにとそっと抱きしめることだった。
いつもなら恥じらいながら小さな抵抗を見せるあかねだったが、今日は違っていた。
頼久が後ろから抱きしめれば、あかねの方もそっと頼久に寄り添った。
そうなればもう頼久にあかねを手放すことなどできなくて…
その腕にはそっと力がこもってしまう。
するとあかねは頼久の腕の中でくるりと振り返ると、頬を赤く染めながら幸せそうな笑みを浮かべて見せた。
いつもまっすぐ頼久を映し出してくれる大きな瞳はきらきらと光って澄み切っている。
憧れてやまないその瞳に自分の姿だけが映っている。
頼久は言葉にならない想いが身の内から溢れ出るのを感じると、ぎゅっとあかねを抱きしめた。
愛しいという言葉では伝えきれない。
どんなに自分が言葉の匠であったとしてもこの想いは決して言葉にすることができないだろう。
この世の誰よりも何よりも、そう、自分よりも大切なこの人をどれほど愛しいと想っているか…
言葉にできないほどのその想いがぬくもりと共に大切なこの人に伝わるように。
頼久は祈るような気持ちであかねを抱きしめた。
すると必死になっているといってもいい頼久の耳にあかねの愛らしい声が届いた。
「大好きです。」
それはあかねがよく頼久に贈ってくれる嬉しい一言。
けれど今は、いつも与えられるのと同じ言葉にそれ以上の何かがこもっているのを感じる。
ああ、そういうことであったか、と頼久は合点して小さく息を吸うとあかねの耳元に唇を寄せた。
「お慕いしております。」
言葉ならこれだけでいいい。
想いの全てを込めたこの声が、きっと今身の内にある全てを伝えてくれる。
あかねがそうしてくれたように。
そう信じた頼久にあかねは嬉しそうな笑みを浮かべて見せた。
その笑顔がまた頼久の想いを深くして…
頼久はそっとあかねの唇を己の唇でふさいだ。
管理人のひとりごと
たまにね、絵画のような場面っていうのを書いてみたくなることがあります。
絵画みたいってことはつまり、絵に動きがないので凄く短い文章になるんですよね。
ってことで実験的に拍手御礼SSでやってみた結果です(’’)
情熱的にひたすらあかねちゃんを抱きしめる頼久さんの図、を脳裏に浮かべて頂けたなら成功。
浮かべて頂けたでしょうか(’’;
まだまだ修行が必要です(、、;
ということで、京版も書いてみます!
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