
あかねは紙燭の灯り一つに照らされている暗い局の中で一人、ある人物を想っていた。
最近、何かというとその人のことが気になってしかたがない。
その人とは、天の青龍、源頼久のことだ。
最初は少し怖いと思っていたのに、お兄さんを亡くしたことを話してもらってからはたまにだけれど笑顔を見せてくれるようにもなった。
その笑顔はとても優しくて、あかねは頼久の笑顔が忘れられなくなった。
あらゆる危険から守ってくれる広い背中も、剣をふるうたびに流れる長い髪も…
気になり始めると止まらなくて、いつも頼久のことを考えているようになった。
ただでさえ口数の少ない頼久と話をする機会は非常に少ない。
あかねは毎晩、警護についてくれている頼久に少しはリラックスして休んでもらいたいという想い半分、実は自分が頼久と話をしたいという気持ち半分で、夜、彼に声をかけるようになった。
最初のうちは驚いて恐縮していた頼久も、いつの頃からかその体から緊張が消えていた。
あかねが半蔀をくぐって濡れ縁に出てみれば、見覚えのある広い背中はすぐに振り返り、かすかな笑みを浮かべて見せてくれた。
「やっぱり今日も頼久さんが守ってくれてたんですね。」
「はい。」
短く発せられたその返事にも優しさがにじんでいた。
そのことが嬉しくてあかねの顔にも自然と微笑が浮かんだ。
「月、きれいですね。」
「はい。」
頼久のそばにあかねがちょこんと座ると、近づいたその耳に先ほどと同じ低い声が届いた。
「寒くはございませんか?」
「平気です。ちゃんと一枚羽織ってきましたから。」
会話はここまで。
もともと無口な頼久だから楽しくおしゃべりなんてことになることはまずない。
あかね一人が話すことなどたかが知れていて…
だからこうして二人でいるとすぐに静かな時間がやってくる。
今ではあかねにとってそれは特別な人と過ごす大切な時。
どうか大切なこの人が不快だったりしませんようにと祈るような気持ちで座っているあかねの隣で頼久はうっすらとやわらかく笑みを浮かべていた。
ただ月を見上げているあかねには隣の頼久が今までになく優しく微笑んでいるその表情さえ見えていない。
同じく月を見上げている頼久にもあかねの少しばかり頬を薄紅に染めた顔は見えていない。
互いに互いの顔さえ見ない、けれど互いを深く想い合う、そんな二人を今はただ月だけが見下ろしていた。
管理人のひとりごと
つまりは、もじもじしている二人を書きたかっただけです(’’)
たまにはね、進展前の二人を書きたくなることもあるんです。
頼久さんはあかねちゃんから押さないと絶対自分からは踏み切ってこないからなぁ。
結局、この後あかねちゃんが押すわけですね(’’)