
友雅は扇を手で弄びながら縁に座って庭を眺めていた。
庭は美しく整えられていて、見る者の目を楽しませてくれるが、友雅の意識は背後にある御簾の向こうへと向けられていた。
御簾の向こうにいるのはこの屋敷の女主人、あかねだ。
あかねあh友雅が来ても御簾の外へ出るどころか、御簾を上げようともしないので友雅はつまらなそうに庭を眺めているというわけだ。
「神子殿、少しは私にも花の顔を見せてくれないかい?」
「御簾の外へ出ないのが普通の京の女性だって教えてくれたのは友雅さんじゃないですか。」
あきれたようなあかねの声にうっすらと笑みを浮かべて友雅は視線を上げた。
視線の先には青空が広がっていて、あかねと共に怨霊を退治して歩いた日々を思い出させた。
「神子殿は普通の女性ではないし、私は神子殿の八葉だった男だよ?せめて御簾の内に入れてくれたっていいと思うけれどね。」
「そんなことしたら友雅さん絶対邪魔するじゃないですか。」
「邪魔?神子殿はそこで私に隠れて何をしているんだい?」
「頼久さんの単を縫ってるんです。」
あかねの返答に友雅は今度こそ楽しそうな笑みを浮かべた。
「なるほど、最近、左大臣殿の所で召し抱えている武士団の若棟梁の評判がすこぶるいいという話を耳にするのは神子殿の内助の功というわけだったのだね。」
楽しそうにそう語る友雅の言葉が終わるのと同時に、バサッという音がして、御簾を跳ね上げたあかねが姿を現した。
「それ、本当ですか?」
「もちろん本当だよ。神子殿は頼久に着物を仕立てたり、その着物に香を焚きしめてやったりしているのだろう?無骨そうに見えてなかなか上品な男と評判だよ。」
「よかったぁ。私も少しは役に立ててるってことですよね?」
「神子殿はそのようなことを気になさる必要はございません。」
横から突然聞こえた声にあかねが驚いているうちに、急に姿を現した頼久はあかねの前に片膝をついた。
「神子殿、ただ今戻りました。」
「お帰りなさい。」
「相変わらずだな、頼久は。まあ、その調子なら確かに神子殿は役に立っているかどうかなど気にする必要はないね、。夫は妻が側にいるというだけで至福のようだ。」
「友雅さん!」
あかねには声を、そして頼久には視線を厳しく向けられて友雅は笑顔のまま立ち上がった。
「二人にあてられぬうちにうちに退散することにしよう。」
「もう、友雅さんはまたそうやってからかって逃げるんですから。」
あきれたようなあかねの声を背に聞きながら友雅は歩き出した。
これから二人きりで幸せな一時を過ごすのだろうと思うと、友雅の胸の内は穏やかな優しさとほんの少しの寂しさで満たされるのだった。
管理人のひとりごと
あかねちゃん、立派に針仕事ができるように(笑)
平安時代の女性はたとえ貴族女性であっても主な仕事は仕立物でした。
旦那様や息子の着物を仕立てて着せて送り出す。
あかねちゃんもそんな普通の女性を目指してます(^^)