神子想い

 頼久は紙で作られた小箱を手に藤姫の局へとやってきた。

 というのも、その小箱を藤姫に渡してほしいと最愛の妻に頼まれたからだ。

 あかねの影響で人前に出ることに抵抗がなくなっている藤姫は特に元八葉の前には普通に姿を見せるようになった。

 だから今も、やってきたばかりの頼久に藤姫は御簾を上げて笑顔を見せた。

「頼久、神子様はお変わりありませんか?」

 あいさつを終えた頼久への第一声がこれだった。

 藤姫の神子様大事は変わることがない。

「はい、健やかにお過ごしです。実は本日はこれを藤姫様にと神子殿より預かって参りました。」

「まぁっ。」

 綺麗な紙で作られている小箱を受け取って藤姫は嬉しそうに微笑んだ。

 小さな手がフタを開けると、中には小さな香袋が入っていた。

「まぁっ、この箱も香袋も神子様のお手製なのですね。」

「はい、もし藤姫様がお望みでしたら小箱の作り方をお教えしたいと神子殿が仰せでした。」

「……頼久。」

「は?」

 急に不機嫌そうに低くなった藤姫の声に頼久は小首をかしげた。

「まだ神子様のことを神子殿とお呼びしているのですか?」

「はぁ…。」

「神子様は以前からずっと頼久には名を呼んでもらいたいとおっしゃっておいででした。」

「はぁ…。」

「頼久がそのようなことでは神子様がおかわいそうです。すぐ御名をお呼びするようになさい。」

「……善処致します。」

 名を呼んでほしいということはあかね本人にも言われていたことだ。

 ただ、元の関係が主従だっただけに、生真面目な頼久にはそれがとても難しい。

「神子様の御名をお呼びすることもできないのでは神子様もお心安らかではいらっしゃらないでしょう。頼久、早く帰って神子様のお側に。」

「はい、では、妻へのことづてがありましたら承りますが。」

 この頼久の一言に藤姫は一瞬目を丸くすると、すぐ楽しそうな笑みを浮かべた。

「是非、後日、この小箱の作り方をお教えくださいと。」

「確かに承りました。では、これにて失礼致します。」

 そう言って頼久は深々と一礼すると、藤姫に背を向けて足早に歩き出した。

 藤姫はその背を満足気に見送った。

 頼久が発した『妻』という言葉にこめられた愛情を感じて、藤姫はきっと今の神子様は幸せに違いないと一人心の中で納得するのだった。





管理人のひとりごと

名前で呼んでくださいはまあよくある話で…
頼久さんの場合、名前すっとばして「妻」になりましたと(笑)
うちのあかねちゃんはあまり名前にはこだわってませんが、藤姫がこだわってたと(’’)
名前呼ぼうが呼ばなかろうが、あの二人はラブラブな生活してると思いますけどね…







ブラウザを閉じてお戻りください