
「頼久さんは小さい頃、何になりたかったですか?」
腕の中から愛らしい声が聞こえてきて、頼久は小首を傾げた。
ここは春の陽射しが降り注ぐ屋敷の縁だ。
頼久は久々の休みを暖かな縁に座り、妻を膝の上に抱いて楽しんでいたのだが…
急に妻の口から飛び出した質問に首をひねることになってしまった。
腕の中を見れば愛しい妻が興味津々のつぶらな瞳を自分へと向けている。
けれど、頼久にはどうやってもこの妻が喜ぶような答えを見つけられそうになくて、一つ溜め息をついてからあきらめたように口を開いた。
「私は幼少の頃から、一人前の武士になることより他に考えたことがありませんでしたので…。」
「あ、そうですよね。じゃぁ、頼久さんは子供の頃の夢、かなえちゃったんですね。」
こんなつまらない答えではさぞかし妻ががっかりするだろうと覚悟していた頼久は、その妻が腕の中で楽しそうに微笑んでいるのを見てほっと安堵した。
どうやら自分の返答は悪いものではなかったようだ。
一人胸の内でそうつぶやいた頼久は次の瞬間、ハッと腕の中にいる妻を見つめた。
異世界からやってきた龍神の神子であるこの少女には、おそらくもといた世界で夢見た未来があったはずだ。
この京に残ったためにその夢はあきらめざるをえなかったに違いない。
そう気づいて頼久は膝の上の優しいぬくもりを抱きしめた。
「頼久さん?」
「神子殿には元いた世界で夢見た未来がおありだったことでしょう。そのような夢を捨ててまでこの京にお残り頂いたのかと思うと…。」
「えっと…私、夢をあきらめたりなんかしてませんよ?」
悲しげに曇っていた頼久の目がこのあかねの一言で見開かれた。
すると、あかねは急に顔を赤くしてうつむいた。
「神子殿が元いた世界で抱いていた夢はこの京であってもあきらめずにすむのですか?」
「あきらめずにすむっていうか…もう夢はかなったっていうか…。」
頼久は首まで赤くなってうつむくあかねを見つめながら考え込んだ。
さて、生きる世界が変わってもかなえられる夢とはどんなものだろうか?
頼久には見当もつかない。
「神子殿の夢とはいったい…。」
「私…小さい頃からお嫁さんになるのが夢だったんです。大好きな人のお嫁さんになって、二人で幸せに暮らすのが夢だったんです。だから、もうかなっちゃいました。」
真っ赤になって照れながらもあかねは頼久ににっこり微笑んで見せた。
本当に夢はかなって今は幸せなのだと伝えたかったから。
そして頼久は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になってあかねを抱きしめた。
「神子殿の夢をかなえるためならばこの頼久、どのようなことも厭いません。」
「頼久さんは私の夢をみんなかなえてくれてますよ。」
「これからもそうありたいと思います。」
耳元で囁くようにそう言って、頼久はあかねにそっと口づけた。
これからもずっとこの愛しい妻の夢をかなえる役目が、自分だけのものであるようにと祈りをこめて。
管理人のひとりごと
世界が違っても夢見るものが同じってことはあるでしょう。
たぶんあかねちゃんは普通の女の子だったんで、夢といっても普通にお嫁さんってことで(’’)
頼久さんは夢見るどころじゃなく武士になる!に決まってるんで(w
立派な武士になって大事なお嫁さんをもらって頼久さんは幸せいっぱい。
あかねちゃんもお嫁さんになる夢をかなえて幸せいっぱい。
つまり幸せいっぱいな二人、でございます♪
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