変装
 素敵なカフェを見つけたの。

 これ以上はないというほどの笑顔を浮かべてそう話を切り出して、有無を言わさずあかねは頼久とそのカフェでの待ち合わせを承諾させた。

 理由は一つ。

 いつも家の中にこもっている頼久さんとたまには外でデートしたかったから、である。

 庭での鍛錬は欠かさない頼久だが、何故かあまり外へ出たがらなくて。

 仕事のために取材に出るとか図書館で調べ物をするとか以外はほとんど外へ出ないのだ。

 それはデートも同じで、どうしてもとあかねがお願いしない限りは一緒に出かけようとはしない。

 どうしてそんなに外に出たくないのかわからないが、今回は有無を言わせない満面の笑顔で押し切ったのだ。

 あまり家の中にばかりいるのも体にはよくない気もするし、家で二人きりでいるのももちろんあかねにとっては楽しいけれど、初めて両思いになった恋人とお付き合いしているあかねにしてみれば、普通にお外でデートもしてみたい。

 だいたい、もともとは武士として偉い人の警護だの、鍛錬だのと外を出回って馬にまで乗っていた人なのに、どうして急にそんなにインドアになったんだかとあかねが小首をかしげていると、遠くからなにやらざわつく声が聞こえてきた。

 ここはちょっとおしゃれなオープンテラス、待ち合わせの時間まではあと5分。

 それは頼久がいつも到着する時間。

 あかねは気になって騒がしい方へ目をやって、ぎょっと目を丸くして息を呑んだ。

 京にいた時ほどではないにしろ、それでも長身なせいで目立つ頼久がこちらに向かって歩いてくるのが見えたのだが、その歩いている姿がいつもとは違って、なんだかモデルのように綺麗に見えてあかねは驚きのあまり凍りついてしまったのだ。

 家にいる時とは違って後ろで一本に束ねられている髪はまだいい、服装も普通に白のシャツと紺のコットンのパンツでまぁ普通、身長が高いのは前々からでこれも別に驚きはしない、だが…

「お待たせしましたか?」

 と微笑みながらあかねの向かいに座った頼久は、何故か眼鏡をかけていた。

「えっと…待ってはいないんですけど……。」

「何か?」

「何かって………頼久さんって目、悪くなったんですか?」

「あぁ、これですか、いえ、目は悪くありません。ダテです。」

「ダテ眼鏡って……なんでまた…。」

「どうしてもここであなたと待ち合わせをすることになったと天真に話したところ、どうしてもというならダテ眼鏡をかけていけといわれましたので……。」

「天真君……なんでまた……。」

「なんでも、天真が言うには私の容姿は目立っているそうで、ダテ眼鏡でもかければ緩和されると言われましたので。」

 そういわれてあかねは深いため息をついた。

 緩和されるどころか眼鏡のおかげで男前が一枚上がってしまった頼久に、周囲の女性の視線が集中しているのだ。

「天真君、余計なことを……。」

「は?」

「頼久さん」

「はい。」

「帰りましょう!」

「は?」

 何がなんだかわからない頼久の腕をつかんであかねは走りだした。

 なんでもいいから今はいつも落ち着くあの家に帰りたかった。

 そして、どうして頼久が家から出たがらないのか、その理由に走りながら気付いてあかねはくすっと微笑んだ。

 そう、この恋人は自分がいらない嫉妬をしなくてすむようにと気遣ってくれていたのだ。

 そのことが嬉しくて、あかねの足取りはいつの間にか軽くなっていた。

 そして、やっと家の前までたどり着いたあかねは、きょとんとしている頼久に振り返って息を切らせながら笑って見せた。

「頼久さん。」

「はい。」

「もし、お仕事とかで外へ出ることがあっても、今度からは、眼鏡、かけないで下さい。」

「はぁ、いけませんでしたか?」

「ダメ!もう絶対ダメです、ダテ眼鏡なんて。」

「はぁ…何故、ダメなのかお聞きしてもよろしいでしょうか?天真にはこうした方がいいといわれたのですが…。」

「答えは簡単、眼鏡かけてる方が目立っちゃうからです!」

 きょとんとした状態が変わらない頼久に、あかねはダメ押しとばかりに説明を追加する。

「いいですか、男の人って、瓶底眼鏡みたいな恐ろしくかっこ悪い眼鏡なら別ですけど、普通、そういう眼鏡かけたらかっこよくなっちゃうものなんです!頼久さんの場合、度の入ってない眼鏡なんかかけたらよけい目立っちゃうんです!だから絶対ダメです!」

「かっこいい、ですか…。」

「そうです!」

 力説するあかねに頼久はふっと微笑んだ。

 あれ?とあかねが小首をかしげた瞬間、自宅のドアの鍵を開けて頼久はあかねの耳元に唇を寄せる。

「では、あなたの前でだけ眼鏡をかけることにします。」

「っ!!」

「さ、中へどうぞ。」

 涼しい顔で微笑む頼久の前を真っ赤な顔で横切ってあかねは家の中へ入る。

 これじゃぁ心臓がもたないからやっぱり自分の前でも眼鏡はかけないでとお願いしなくちゃと心の中でつぶやきながら。

 そして頼久はあかねのあとを追って中へ入り、ゆっくりとドアを閉めた。





管理人のひとりごと

ハイ、管理人は眼鏡フェチなんで(爆)
頼久さんですから、目が悪くなるってことはなさそうですが…
ということでダテ眼鏡です(笑)
目立つなら変装するのが基本だと思うんですが、現代で変装したらそれこそそっちの方が目立つので…
たいてい男性は眼鏡かけるとかっこよくなると思うのは眼鏡フェチだけでしょうか?(爆)



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